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Climbing shoes Review vol,2


筆者特徴:SIN

・クライミング歴:20年
・身長/体重:170cm/53kg
・実寸サイズ:右24.3mm 左24.5mm、
・足型:細身・エジプト型(親指長め)、踵は後ろに張出あり。
・クライミングスタイル:ボルダー中心
・クライミングタイプ:非力、主に正対

以下は、あくまで個人的立場でのクライミングシューズレビューです。UNPARALLELに関しては企画者側でもあるので、そういった視点からも書ける内容は書いてみようと思います。

レビュー対象:SIRIUS LACE(UNPARALLEL)

US8.0使用
アッパー:シンセティック+ライニング+エクステンド・トウランドラバー(※1)
アウトソール:RS3.5㎜
剛性:ミディアム
足型:ストレート/ダウントウ
ボリュウム:やや細め

製品企画主旨

強傾斜でフットホールドから切れない爪先、強烈なかき込み性能。
それがSIRIUS LACE(以下SIRIUS)に求める最優先事項でした。強傾斜でギリギリまで足を残し、パワフルにかき込み、的確にピンポイントでフットホールドをコントロールするためのシューズです。先にレビューした UP-MOCC と異なり、明確に自分の能力をサポートするために企画設計されたシューズですが、その目的が「爪先」に絞り込まれた、かなりシンプルなコンセプトと言えます。

企画主旨のために:フィット感向上

同じコンセプトのシューズはドラゴン(旧5.10社)がそれにあたります。ドラゴンの爪先よりさらに強力な爪先。それがSIRIUSに与えられた命題でした。どのような手法でこの命題をクリアしたかというと、簡潔に言えば「フィット感」の向上です。

そのために、土踏まずとヒールカップのフィッティング改善のため、スリングショット(※2)の貼り方を入念に調整し、あわせてヒールカップの剛性とホールド性を高めました。さらに爪先のサポートとして、カービング形状のエクステンド・トウランドラバーを配置。クロージャーシステムにはレースアップを採用し、着用者の足型に微細にフィッティングできるようにしました。
その結果、踵から爪先まで、土踏まずから甲まで、シューズと足が一体となるようなフィット感が得られる設計となっています(これはもちろん、足型がある程度適合している方の場合です)。爪先のためにシューズ全体のフィット感を向上させた結果、副産物として汎用性の高いヒールフック性能も持ち合わせます。

企画主旨のために:ラバーと剛性

アウトソールにはRHよりフリクション性能に優れるRS3.5㎜を採用。足先が低荷重な状況に陥りやすい強傾斜でのクライミングでRS3.5㎜ラバーは高フリクションによるサポート効果が期待できます。ミッドソールには硬すぎず柔らかすぎない素材を選定。硬すぎるミッドソールはダイレクト感を失わせるとともに足指での入力を阻害し、柔らかすぎるミッドソールでは極小ホールドに負けてしまう可能性があるため、バランスを考慮し、剛柔の中間とも言えるミッドソールが採用されています。

これと上記フィット感向上措置の組合せにより、鋭敏なダイレクト感と高フリクションの爪先へ、入力を逃すことなく伝達できるよう設計されています。

ラスト(木型/足型)

UNAPARALLELシューズの中ではやや細身な形状です。ただしレースアップシステムを採用しているため、トウボックス(※3)の収まりが問題なければ、ある程度、フィッテングに許容範囲があると言えます。細身な足型の方、特に踵が小ぶりな方は、SIRIUS LVをお勧めします。
ダウントウですので、慣れていないと不快に感じる方もいるかもしれませんが、そもそもダウントウに忌避感がなければ問題なく着用できるかと思います。
爪先のポイントはやはりストレート形状と言えるラストです。

サイズ感

アッパーに採用されているシンセティックは天然素材であるレザーと比べ、伸び難く軽量な素材です。またそのシンセティックに内張(ライニング)を貼り合わせているため、アッパーに適度な張りがあり、サイズ感の変化は少ないモデルです。そういう観点から、新品状態でも15分は履いて登れる程度のサイズ感で選ぶと良いのではないでしょうか。もちろんの事ですが、可能であれば試着されることをお奨めします。
参考までに、僕は素足実寸 右:24.3㎜ 左:24.5㎜でUS8.0を着用しています。

個人的使用感

僕は長らくドラゴンレース(旧5.10)を愛用していて、僕にとって生涯記憶に残るであろうクライミングも、ドラゴンとともにありました。もちろん機能的にも当時一切の不満はなく、岩に行く時は常に用意していたシューズでした。
そんな思入れもあり、機能的にも十分満足していたドラゴンを越える要素をどの様に構築するかは、とても難しいとも思える課題でしたが、最優先事項を明確にしたことで、結果的に「爪先」だけではなく「ヒールフック」を含めた2点において、期待値通り、使用者をしっかりサポートするプロダクトになってくれたと感じました。

SIRIUSの完成品を履き、初めて岩を登った時の感覚はとても素敵なものでした。ドラゴンのように、爪先から得られる良好なフィードバックを感じつつ、入力が逃げないことで得られる力強さ。よりシャープにフットホールドをコントロールできることが実感できました。
強傾斜でのエッジング、ギリギリまでフットホールドに爪先を残す感覚、パワフルなかき込み、そういったフットワーク時に強い魅力があります。

そして足にビシッとフィットして一体感のあるシューズはヒールフック時にも力が逃げず、外傾した面形状でもエッジ的なヒールでも気持ちよく決まってくれます。

こういうシューズは入力が一点に集中するよう構築されているので、はっきり言って「ここで踏む」というスイートスポットが明確です。それからズレると踏めない、と感じる方もいるかもしれません。
そういう意味で、このシューズは「自ら選んだホールドを、的確にスイートスポットで踏める」方向けなのかも知れません。

さらに、トレードオフ的なもので、所謂ベタっと置くようなスメアリングはやや苦手に感じます(これは僕の体重が軽いのも影響があると考えられます)。簡単に言えば爪先を上方向にそらすのが苦手という印象です。となると、もちろんトウフックも自分の爪先をそらせることで効かせるタイプの方は使いにくく、力が必要と感じるでしょう。
僕はシューズの形状と剛性でトウフックをかけるので、意外となんとかなったりしますが、逆に言えば爪先をそらせる力が弱いので、シューズそのものに頼っているということですね(笑)

何にせよ、クライミングのフットワークの大半は爪先でホールドをとらえるムーブで出来上がっている以上、こういう「爪先至上主義」みたいなシューズは僕にとって大変好みの一足となりました。

補足

SIRIUSはシューズデモ(※4)などで接客したりしていると、フィット感に一番感動してもらえるモデルでもあります。「レースアップはめんどくさいから嫌!」という方は仕方ありませんが、そうでないなら試して頂く価値はあるかもしれません。

クライミングシューズのフィット感の重要性についてもいずれ詳しく書き出せればと思っています。

注釈解説

※1 エクテンド・トウランドラバー
ランドラバーには、シューズの側面を保護し、型崩れを防ぐ目的で配置される。アウトソールと異なり伸縮性を必要とし、フリクションは落ちる。このトウランドラバーを爪先上部に向けて延長したものがエクステンド・トウランドラバー。主目的は足指を側面・上部から包み押さえることで爪先への入力をサポートする効果がある。副産物的にトウフック時のフリクション補助が得られる。

※2 スリングショット
踵上部と足底部(土踏まず)を引き寄せるラバーバンド。このテンションによりヒールカップのフィット感が向上し、また土踏まずを持ち上げることで、つま先で踏み込んだ際のサポート効果が得られる。テンションが緩ければ拘束感が少なく足入れが楽になる。UNPARALLELではスリングショットのテンションを職人の手作業で微調節することで土踏まず周りのフィット感を向上させている。

※3 トウボックス
シューズの先端部、足指が収まる場所。このトウボックス部分のラストの違いはブランドによって顕著に異なる。詳細はいずれまた。

※4 シューズデモ
現在、試し履き可能なモデルは以下10種類。
UP-RISE VCS / UP-RISE VCS LV / UP-MOCC / SIRIUS LACE / SIRIUS LACE LV / UP-RISE ZERO / UP-RISE ZERO LV / VEGA / REGULUS / REGULUS LV

シューズの基本的構成要素は、こちら をご一読ください。

今回はいろいろと解説、説明するのに、クライミングシューズの基礎的な部分に多く触れる必要があり、テキストのボリュウムが想定以上になってしまいました。前回ポストした『What are "climbing shoes"?』を読んでからだと理解しやすいかも知れません。

また、文中でも触れたとおり、いずれシューズのフィッティングにも触れられればと思っています。

それでは楽しいクライミング・ライフを!
friction be with you.


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