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Climbing shoes Review vol,3

筆者特徴:SIN

・クライミング歴:20年
・身長/体重:170cm/53~56kg
・素足実寸サイズ:右24.3mm 左24.5mm、
・足型:細身・エジプト型(親指長め)、踵は後ろに張出あり。
・クライミングスタイル:ボルダー中心
・クライミングタイプ:非力、主に正対

以下は、あくまで個人的立場でのクライミングシューズレビューです。UNPARALLELに関しては企画者側でもあるので、そういった視点からも書ける内容は書いてみようと思います。

レビュー対象:NEWTRO LACE(UNPARALLEL)

US8.0使用
アッパー:シンセティック+ライニング
アウトソール:RA3.5㎜
剛性:ハード+
足型:ストレート/ダウントウ
ボリュウム:ふつう

製品企画主旨

エッジング。特にスラブから薄被り(80°~120°)程度の傾斜で、「薄いエッジを踏み込める」と合わせて「足指がホールドに触れる感覚を有する」シューズを企画主旨として設計されたシューズです。姉妹モデルとして、NEWTRO VCSが存在します。こちらはもう少しオールラウンドなモデルになります。

前回ご紹介したSIRIUSと同じ、レースアップ構造のシューズですが、その目標とする着地点は(僕の中では)明確に異なります。

企画主旨のために:ラスト(木型)

NEWTROシリーズには、他のダウントウシューズと異なるラスト(木型)が使用されています。その特徴は、以下。
・比較的緩やかなダウントウ形状
・ストレート形状
・他のダウントウモデルと異なり、トウボックスの横幅がやや広い設定
・他のダウントウモデルと異なり、トウボックスの縦幅がやや薄い設定

この形状から、ジャストサイズをチョイスした場合でも、足指が横方から圧迫されることなく、かつ縦方向に無駄なスペースが発生しないため、快適性が高く、かつ入力が逃げにくい構造と言えます。この結果、爪先先端でフットホールドを踏む際のスイートスポットがやや広めになります。

企画主旨のために:力が逃げない構造

薄いフットホールドを的確に拾い、デリケートにコントロールするには、足の全体に対してシューズがガッチリ(しっかり、より強調した表現です)とフィットしていることが重要になります。

そのためのレースアップシステムなのですが、これをつま先から足首近くまでを広くカバーする形で配置しました。足首近くのアイレット(はと目)も左右二か所ずつ配置することで、足首近くをガッチリ締めることも、1つ使わずにややルーズに使用することもできるように設計しました。また最も上部に配置したアイレットにはシューズの足底部からフィットできるよう、下方向から引っ張り上げられる様、テープも配置。
アッパー素材も経年変化の少ないシンセティックレザーを使用し、ライニングを施すことで張りのある、やや剛性感のある組合せにしました。

さらに、踵周りから土踏まずまでのフィット感は前回のSIRIUS LACEの回同様、とても重要です。入念に調整されたスリングショットと、踵周りをしっかりと覆い後方へ力を逃がさない高硬度ヒールカップ構造を選択しました

これらの組合せにより、爪先への入力の伝達ロスをなくすと共に、ヒールフック時にも力が逃げにくい構造になりました。

企画主旨のために:ラバーと剛性

NEWTROシリーズが他のUNPARALLELモデルと最も違う点は使用ラバーの種類です。現在NEWTROシリーズのみに使われているラバーRA3.5㎜がアウトソールに起用されています。当該ラバーの特徴は、RHよりも耐久性に優れるとともに、ラバーがより高硬度に設計されています。
そのRAラバーを4.2㎜ではなく、あえて3.5㎜にしている点が重要なのですが、簡単に言えば、ダイレクト感とラバーのヨレによる踏面レスポンスやコントロール性の喪失を回避するためのチョイスとなります。
また、ミッドソールも高剛性タイプを選択。とは言え、ひと昔(ふた昔?)前にあったような「釘が打てる」と形容されるような剛性ではなく、剛性はしっかりあるが、適度なしなりもあるといった味付けの剛性感となっています。

サイズ感

アッパーに採用されているシンセティックは天然素材であるレザーと比べ、伸び難く軽量な素材です。またそのシンセティックに内張(ライニング)を貼り合わせているため、アッパーに適度な張りがあり、サイズ感の変化は少ないモデルです。そういう観点から、新品状態でも15分は履いて登れる程度のサイズ感で選ぶと良いのではないでしょうか。もちろんの事ですが、可能であれば試着されることをお奨めします。
一般的に剛性が高いモデルほど、小さめサイズを選ぶと辛い思いをする場合が多いです。要するに痛みが強く出ます。
参考までに、僕は素足実寸 右:24.3㎜ 左:24.5㎜でUS8.0を着用しています。

個人的使用感

UNPARALLELシューズのラインナップは、初回モデルではカバーできてないタイプのシューズがいくつかありました。その中の一つがNEWTROシリーズです。その要件とは、「現代的なクライミングのための足裏感覚とフィット感に優れる高剛性シューズ」です。

この目的のために、ラスト、アッパー構造、新型ラバーの採用を行い、NEWTRO Laceを設計し、実際にテスト使用しました。

テスト使用したシチュエーションは、非常にホールドが滑らかな渓流沿いのとある花崗岩ボルダーでした。110°程に傾斜したプロジェクトのシットダウンスタートの左フットホールドがあまりに薄く垂れたエッジ(エッジと言えるのか?)を踏みしめ、右フットホールドは外傾したカンテへのヒールフック。かつハンドホールドは左はアンダークリングを全力で引き上げ、右手は外傾したカンテ形状を抑え込むというムーブ。NEWTRO Laceのテストサンプルを使う以前は、SIRIUSで試みていたプロジェクトでしたが、SIRIUSだと左足のエッジに踏み負けてしまうケースがあり、スタートムーブの成功率が1/3程度ととても低く、苦労していました。
そんな時に、タイミング良くNEWTREO Laceのテストサンプルが完成。早速このプロジェクトでテストしてみました。

結果は、不安定だったスタートムーブが安定し、初手の成功率が格段にアップ。薄いエッジをパワフルかつ的確にとらえ、コントロールできる感覚を得ることができました。外傾したカンテへのヒールフックもSIRIUSに負けず劣らずバチ効き。そして、その後の垂れた薄いくぼみに対するこれまた踏み辛いエッジングでも過不足なくコントロールすることに成功。

単に剛性が高く足裏感覚に乏しいシューズでも、マイクロフットホールドを踏むことはできるかも知れません。ただし、あるかなきかの手応えの乏しいマイクロフットホールドをただシューズを信じて踏み込む、ではなく、しっかりと踏めているかどうか、コントロールできているかどうか、そういったレスポンスの有無が僕にはとても重要でした。合わせてNEWTRO Laceの剛性感の場合、剛性が高すぎるダウントウシューズでは荷重が掛けづらいポジションでのスメアリングなどにも、ある程度対応してくれる点もうれしいところです。

また、NEWTROの特性である、やや広くて薄いラストは、他のUNPARALLELダウントウモデルと比べ爪先のスイートスポットが広めに設定されているため、個々の足指の筋力を素直に伝達できると感じました。これは、スイートスポットが狭いシューズ(例:SIRIUS)とは明瞭に異なる点です。その分、楽にエッジをコントロールすることができます。例えれば、SIRIUSが点で踏むシューズであるのに対して、NEWTROは線で踏むシューズと言えば伝わるでしょうか。

僕がエッジングシューズに求めることは、オールラウンドシューズに求める内容とは異なり、その目的の通り「エッジング力」です。自分な非力なエッジング力をサポートしてもらうためには、これくらいステータス全振りじゃなければ意味がない、という感覚があります。そして同時にエッジング以外の場面でもある一定以上の対応力を持ったシューズでなければ、一つの課題で求められる複数要素のフットワークをこなすことはできません。これは他社も含め、現代的なエッジングシューズに求められている要件ではないかと思います。

例えば数日間のクライミングツアーに出かけるといった場合に僕は、最低でもコンセプトの異なるシューズを3足持っていくのですが、その3足の内訳は、UP-MOCC、NEWTRO Lace、そして次回紹介する予定の1足です。

要するに、核心がエッジング課題なら、これを履けば事足りる、不満や不安はない、というシューズがNEWTERO Laceという事になります。僕は、岩へ行くときは1足ではなく複数足を持ち込む、という前提条件がありますが、その条件下では必須の1足となりました。

ネガティブ要素

それでは、恒例のネガティブな点を挙げてみます。

①トウフックはまるで無能
当たり前のことですが、シューズの甲部分フロントに爪先までしっかりとシューレースが配置されているため、一般的なトウフックははっきり言って無能です。レースアップシステムの恩恵である優れたフィット感とのトレードオフ、という構造です。

②剛性の高さゆえに、フットホールドを掴むようなフットワークは苦手
それはそうですね。ガバ足課題によく適している、とは言えないかと思います。

これらのネガティブ要素を嫌う方には、NEWTRO VCSをお奨めします。エッジング能力はLaceと比べ多少落ちるものの、その他への対応力は格段に向上しますので、エッジング性能に優れたオールラウンドシューズが好みの方には、NEWTRO VCSなら1足で事足りるかと。


補足

トウボックの厚みが薄めのシューズとなりますので、フィッティングの際の感覚が他のモデルと少し異なります。特に普段トウボックの厚みがある、ヨーロッパブランドを使用されている方からすると違和感が大きい可能性が高いと想像します。上記テキストをお読みいただいて、参考にしてもらえればと思います。

文中に出てくる用語に関しては、前回の「What are "climbiing shoes"?」をご一読ください。

最後に

次回は、UNPARALLELラインナップの中で、僕が一番好きなシューズをご紹介する予定です。さらにマニアックというか、独りよがりというか、な解説になるかと思いますので、ご了承ください('ω')ノ

それでは楽しいクライミング・ライフを!
friction be with you.


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