「オルゴォル」身勝手な自傷行為からの脱却



概要

母親と東京に住む小学生のハヤトは、同じ団地のトンダじいさんから「一生に一度のお願い」を頼まれる。それは古いオルゴールを鹿児島に届けること。福知山線の事故現場、広島の原爆ドーム、父さんの再婚―出会うものすべてに価値観を揺さぶられながら、少年は旅を続ける。直木賞作家が紡ぐ心温まる成長物語。

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人が己の人生に不満を持つとき、ほぼすべてが
「身勝手さの上に成り立つ自傷」
によって傷ついていることが極めて多い。
己とまったく関係のないことによって親が離婚し大切な人が亡くなり理不尽な理由で自分がいじめられることに、人間は精神が子供のうちは気がつかない。
この自分勝手な自己中心的な思考から脱することを大人になる、というのだろうと私は思うのだが、この物語はまさにそんな過渡期にいる少年を描いた作品。

表面を撫でていくようにあらゆる手障りのいい軽い問題をすべて主役の少年に味合わせていく。
並みの著者が書いていると恐ろしく腹が立つ虫唾が走る話になりそうなところを著者は絶妙なバランス感覚であえて表層を撫でるようなタッチで筆を進め見事に作品として成り立たせた上に言いたいことを述べている。
ロードムービーの要素が強くなってくる後半では「戦争」を軽くタッチしながら回っていくのだが、触れながらも突っ込まない、という絶妙な距離感によって主役が「少年」なことを前提とした「この程度で仕方ないか」という諦めをもっと爽やかに感じさせるという離れ業をやってのけている。

「戦争」を語る時にはどうしても日本では短絡的な「戦争をやってはいけない、核爆弾はよくない」という結び付け方をしてしまうが本書においてはそういったこだわりを一切もたせておらず未来のある若者らしいとても薄い感想のみにとどめさせているところに爽やかさがあるように思える。

この戦争というものと「恋心」というものをドッキングしてしまうことが流行りのようだが、私が本書を読んで少年たちに是非感じてほしいのは初恋がかなわぬともその気持ちを抱いたままあっけらかんと他の男に抱かれてしっかり家族を作っている女性のたくましさと強かさを学んでほしいということ。
そしてそれを「叶わぬ恋」というありもしなかった幻想を纏わせごくごく自然に読者に受け入れさせる凄味を学んでほしいと思う。


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