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#16 マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝:賢帝の治世に終わりが始まった

こんにちは、クロノ(@chrono_history)です。

「マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝」はローマ帝国五賢帝の1人です。非常に長い名前で、学生時代に覚えるのに苦労した人も多いと思います。

ただ(苦労して覚えただけに)世界史から離れて十年、二十年たっても忘れない人もおられます。

今回のテーマは「マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝」の光と影。

ローマ史における五賢帝時代は(86年~180年)は、ローマの平和(パクス・ロマーナ)と呼ばれ安定した時代です。

しかし、マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝の治世末期ごろから、陰りが見え始める。世界史の教科書だと、この後「軍人皇帝」の話になります。

帝国の行き詰まりがどのようにあらわれていたのか分かりません。今回は、そこにスポットをあてます。そして、なぜ彼が賢帝時代最後の皇帝になったのかを解説します。


ローマ帝国の五賢帝とは?


ネルウァ(位:96~98年)
トラヤヌス(位:98~117年)
ハドリアヌス(位:117~138年)
アントニヌス=ピウス(位:138~161年)
マルクス=アウレリウス=アントニヌス(位:161~177年)

基本、ローマ皇帝は終身制で、亡くなるまで皇帝です。
(ディオクレティアヌス帝のようにFIREした人もいますが)

五賢帝最初のネルウァは、皇帝になったのが66歳のとき。当時としては老人に扱われる年齢であり、在位期間は1年4ヶ月しかありません。

それ以外の4人は20年前後、在位期間があります。

ネルウァからマルクス=アウレリウス=アントニヌス即位までは、前皇帝との直接の親子関係はありません。養子に迎えて後継者に指名しています。

マルクス=アウレリウス=アントニヌス帝の治世

彼は、ローマ史上初の共同統治を弟と行います。皇帝2人で統治しますが、マルクス=アウレリウス=アントニヌス帝のほうが多くの権限を持ちました。

★即位と同時に天候不順による大規模な飢饉が発生します。
★首都ローマでは大洪水が発生。

対策に追われている最中、、、
★パルティアとアルメニアの管理権をめぐる問題が勃発。
⇒弟に討伐の指揮権を与え、見事制圧。

凱旋式を行いますが、★疫病がローマで流行します。
(人口は1/3まで減少したと言われています)

★国境ラインにあるドナウ川周辺でゲルマン人が暴れまわります。

2人の皇帝が現地に向かい陣頭指揮をとり沈静化させますが、帰り道に弟が脳溢血(のういっけつ)で亡くなります。

彼はストア派哲学者でもあり「哲人皇帝」とも呼ばれています。次々に起きる問題に対処するには、体だけでなく強いメンタルも必要です。

それを支えたのがストア派の哲学。彼の記録は『自省録』として後世に残ります。世界史の教科書にも、彼が皇帝でもあり哲学者でもあったことが記されています。

ただ彼の治世がどうだったのか書かれてないので、ピンときません。

平和なローマの時代に、暇すぎて哲学者になったのかぐらいにしか思いません。でも実際は全然違って、帝国内に住む人々の命を守る重責に耐えながら問題に対処する彼の心の支えだったのが「哲学」だったのです。


哲人皇帝も人の子だった


さいごにマルクス=アウレリウス=アントニヌス帝が、最後の賢帝である理由を話します。哲人皇帝とまで言われた彼が、最後に大きな過ちをおかします。

それは、親としての愛、エゴに負けてしまったことです。

自分の子どもを後継者に指名する。

適正があれば、1つの選択肢だったのでしょうが、お世辞にもそうはいえない。でも可愛い、唯一生き残った男の子を、自分の後継者にしたい。この判断は、皇帝ではなく親としての情愛に負けたと言えます。

五賢帝は、(子どもがいなかったというのもありますが)適性があると思える人間を養子として迎えて後継者に指名してきました。

世界の歴史を見れば、世襲は珍しいことではありません。初代ローマ皇帝のアウグストゥスも皇帝という地位を一族で固めようとしていたので。

ただ五賢帝時代だけを見ればイレギュラーな対応だったと言えます。跡を継いだコンモドゥスは、史上最悪の皇帝と評価する人もいます。父が命がけで守った北方戦線を放棄、嫌いな元老院を処刑したり、皇帝としての職務を放棄。

彼は暗殺されローマは混乱期に入り、ディオクレティアヌス帝が事態を収拾します。しかし、五賢帝が活躍した時代のローマとは別、専制君主制の時代が始まります。

疫病の流行、自然災害、異民族の侵入など、外的要因の影響が強かったので遅かれ早かれという気もしますが、もしマルクス=アウレリウス=アントニヌス帝が親としてではなく、皇帝として適性のある者を後継者に指名していれば、ローマの歴史は変わっていたかもしれません。