クラウド人材って一体何やねん?
先日個人的に勝手に尊敬している登さんにインタビューした記事があって面白い切り口やなぁと思ったので自分でも考えてみることにした。今回も自分の所属会社ではなく、私個人の意見であることを強調しておきます。
この記事ではいろいろなことが書いてあるが、クラウド人材というのは、クラウドを「創れる」人であって「使う」人ではないと書いてあります。私はアメリカのレッドモンドでマイクロソフトのクラウドAzureの開発者なので、この定義でも「クラウド人材」と言えると思います。自分としては、上記の点には賛成できる点もあるし、そうでないこともあります。特に批判とか反対とかそういう話ではなく、単純にアメリカで実際にクラウドの開発をしている視点から何か皆さんにお役に立てる情報をシェアできないかなと思いキーボードに向かいました。
クラウドを使う人はクラウド人材ではない?
私の意見ですが、そうは思いません。というのも、私みたいなクラウドの開発者の場合、ものすごく狭い分野を深くやるイメージです。一方、同じエンジニアでも、自社やお客さんのために様々なクラウドサービスを組み合わせて開発をするというのも、全くの別スキルであり、優劣はありません。狭く深くか、広く浅くか。前者は確かに特定の個所に詳しいかもしれませんが、後者は直接ビジネスにインパクトを出しやすいですし、複数のサービスを組み合わせてうまく開発・運用するのは全然簡単じゃありませんので、これは別のスキルで別の専門スキルを要すると思います。エンジニアとしての優劣はありません。エンジニアとしては、どっちが好みか?ということになると思います。
じゃあ、日本は今のままで良いと思う?
思いません。上記の記事でおっしゃっておられることも一理あって、社会的に考えるとどっちのタイプのエンジニアも必要だと思うのですが、日本では前者の仕事を見つけるのは大変難しいでしょう。
ところが、私が今住んでいるシアトルエリアですと、マイクロソフトがあって、アマゾンがあって、Googleもあるので、エンジニアは前者でも後者でも選べますし、どちらかに行って飽きたら違う方を体験してみるなんてこともできます。私も、サーバーレスを「使う」じゃなくて、「作る」側になりたかったので、アメリカまで来ることになりました。
一方日本だと、この世界レベルのクラウドサービスを提供しているところは無いので、そういう経験を積むのが非常に難しいかと思います。
エンジニアの違い、評価の違い
他にも、エンジニアの違い、評価の違いという部分があります。アメリカの場合は、コンピュータサイエンスを出ているのが前提になっています。私は「出ている」が重要ではなくて、それ相当の「知識・経験」を持っていることが前提になっているのが重要だと思います。
というのも、日本では、文系でもプログラマになれます。それは門戸が広くて良い一方、会社が技術をそんなに期待していない裏返しでもあります。だから主にはサービスやライブラリを「使う」事が主になります。(それはそれで難しいですが)。一方、コンピュータサイエンスを出ている人は「学校でファイルシステム作ったわ」とかそんな奴が来るわけなので、そもそもクラウドと言わず、いろんなものを「一から作れる」土台がある割合がずっと高いといえます。
ユーザ企業が一から作ることへの抵抗
だから、ユーザ企業であっても、そういう「一から作る」ことに対することに抵抗がない感じがします。だからユーザー企業発の物凄く便利なオープンソースのライブラリやサービスが沢山あります。そもそもAWSとかだって、Amazonから生まれているので、ユーザ企業産と言えるでしょう。
私もマイクロソフトにいて、いろんなものを1から作る体験ができています。これは本当に楽しいことです。ただ、私はお客様に直接使ってもらうアプリよりも、エンジニアに使われる基盤とか言語とかOSとかが好きなのでこのポジションにいるわけなので、特にこっちのエンジニアの方が高級とかは思っていません。エンジニアの好みでどちらもとても面白いエンジニアリングの世界です。
衝撃的だった上層部の判断
ただ、日本でもこうやって「一から作る」ことにもっとチャレンジしてもいい気がします。そしてそういうことが出来るエンジニアに対する評価もです。最近私が身近に見た例では、どちらも物凄いレベルのアーキテクト的な人と、ゴリゴリに作るエンジニアがいました。前者も凄い人で物凄く巨大で価値のあるプラットフォームをコンセプトからすべて詳細まで設計して、アドバイスを送って、コードレベル含んて、なんでも設計の相談に載ってという人。後者は、プラットフォームを設計開発するだけではなく、今まで不可能だった長年の技術的な課題を解決するブレイクスルーのプロトタイプを作り組み込みました。どちらのエンジニアももの凄いし素晴らしいのですが、後者が先に昇進しました。正直びっくりしました。日本だったら絶対前者が先だと思います。(その人ですらなく統括したお偉いさんとかになりそう。)それを見て上層部まで「技術の価値」というのが物凄く分かっているんだなぁということを実感しました。
「一から作れる」エンジニアの価値が残念
私は日本にも「一から作れる」エンジニアは沢山いると思います。普段「使う」「組み合わせる」が主戦場でも、実はそれが出来る人も沢山知っています。楽しいですから。でも多分そういう人が「評価」されているかは疑問で、そこが残念な気がします。もうごっつい給料もらってもいいのではと思います。
個人的には「クラウド」と言わず、いろんな開発において、「使う」だけではなく、「一から作る・作れる」楽しさとカッコよさがもっと広がるといいなと思います。そして、それが評価される日本になったらもっとエンジニアがいろいろ輝けて、世界に通用するソフトウェアがもっともっと日本から生まれるようになるんじゃないかなと思います。ちなみに組み込み系だとそういう世界の気がします。(私は経験がないので断言できませんが)
今の日本はチャンス到来かも
特に最近は、日本がラッキーな状態になってるような気がしていて、OpenAIも中国ではなく日本にアジアの最初の拠点を作りましたし、マイクロソフトもMSRという研究所をオープンするというニュースがありました。Google にも開発拠点があると聞きます。その他でも、こういう機会で日本でもこういう「一から作れる」キャリアを積める人が多くなるといいなぁと思います。
私が昨年末に書いて出した本ですが、おかげさまで、もう8万部も売れています。ありがたいことです。私は普通エンジニアですが、こちらに来て学んだ世界一流のエンジニアを観察して得た考え方や、日本とアメリカの職場の様々な違いや気づきに関して書かせていただいています。もしよかったらどうぞ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?