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【決定版】アナログゲームのつくり方と、ビジネスへの活かし方


ボードゲームやカードゲーム、いわゆる「アナログゲーム」が年々ブームになってきています。その流れから、「作りたい」という個人の方や会社も増えています。(記事のTOPの写真は、note監修で制作させて頂いたカードゲーム「ショートショートnote」です。)

僕はおもちゃクリエーターとして、様々な玩具を開発したり売ったりしていますが、この記事ではアナログゲームを開発する方法の基本をお教えします。


簡単に言うと、ゲーム開発は以下のような「起承転結」で考えることができます。順に説明していきますね。

【1.起 ~テーマを考える】

最初に「そのゲームはどんなことを疑似体験するのか」や、「どんな気づきや学びを得ることを目的としたゲームなのか」を考えます。

一番簡単なのは、現実のことがらをゲームで再現するというパターンです。例えば、サッカーのボードゲームを作ったり、会社の仕事の中身をゲームで疑似再現したりするなど。

平凡な日常行動を疑似体験するだけだと退屈なものになってしまうかもしれませんが、なかなか体験できない世界に連れて行ってもらえるのがゲームの醍醐味です。

有名なゲームを例に出すと、流行病の感染を防いで世界を守る『パンデミック』は、普段体験できない「世界を守る」という疑似体験ができるから面白いわけです。

僕が開発したゲームの例で言うと、『THE仮想通貨』というゲームは、仮想通貨の売買を疑似体験できるゲームです。ポイントは「実際に損をするリスクなしで、仮想通貨売買を思い切り楽しみ、学ぶことができる」という点です。

「何それ、やってみたい!」と思われるような「新しい疑似体験」を提供することが、面白いゲームをつくるコツです。自分が表現したい世界観とテーマでいいので、伝えたいことや、自分が興味のあるジャンルをゲーム化するのだと考えれば、割とすぐにテーマが思いつきます。



【2.承 ~テーマを表現するルールを考える】

次のステップでは「決めたゲームテーマを、どんなルールで表現できるか」を考えます。

例えば、会社で出世するボードゲームをつくりたいなら、ゴールである「出世」に向けて「現実では何が起こるかな?」と考えます。

「仕事で業績を上げる」「ライバルを蹴落とす」「上司にゴマすりをする」──それらを表現するにあたって、得点を積み重ねていくのか、カードの効果で相手を攻撃していくのか、あるいはすごろくのようにマスを進んでいくのかなど、「プログラミング」のように条件を考えていきます。

例えば、ファイナンシャルアカデミーと一緒に開発させて頂いた「職業診断ゲーム わくわくワーク」は、自分に合った適職診断ができるゲームです。その方法として、「限られたおこづかいでやりたい体験を買い合う」という競争ゲームにしています。どうしても欲しい体験を優先的に選ばせたうえで、「これとこれとこれを選ぶなら、この職業」というよう診断結果が数値で判定される仕組みです。競争させることでゲームの楽しさを持たせつつ、本当にやりたいことに気付かせるというプログラミングなのです。

はじめてゲームをつくる場合は、まず既存のボードゲームをできるだけたくさん遊んでみて「こういう仕組みでポイントや効果を表現するのか」という事例を体験することをオススメします。もちろんマネしすぎるのはNGですが、いろいろなゲームの要素を参考に、自分が表現したいようにアレンジすることから、オリジナルのゲームづくりはスタートします。すべてのルール作りは組み合わせなので、既存のゲームルールを知れば知るほど、うまくアレンジできるようになっていきます。

ルールを作り始めるには、まず画用紙などを切って手書きしたり、Excel、PowerPointなど使いやすいソフトでつくったカードをプリントしたりして、試しにプレイしてみてゲームの流れをシミュレーションしていくのが一番です。

また、2人用なのか10人以上でも遊べるのかなど、ゲームのプレイヤー人数も、このタイミングで考えるべき重要な要素です。


【3.転 ~起こる会話を設計する】

ゲームで大切なのは100%、面白さです。テーマを表現するために何となくルールを組み立てたものの、ゲームになっていない、つまり面白くないゲームが出来上がってしまうことは本当によく起こる失敗です。

そして、面白いゲームをつくる上で重要なのは、ゲーム中にプレイヤー同士でどんな会話が起こるか、の設計です。

例えば、「えーなんで?」「おいふざけんなよー笑」「うーん、どっちだ~??」「わかんねー!」「俺ら、気、合いそうだね。」などなど・・・。

例えば逆転要素や、ドキドキする要素、気づきや感動、笑いなど。ゲームは、会話が起こり、いろいろな感情が沸き起こるから面白いのです。

例えば、『グーチョキパーダラピン』というゲームにおいては、いかなる状況でも一発敗北をするかもしれない「ダラ」という手を加えることで、最後まで駆け引きが続くようにしました。最もシンプルな方法でドキドキ感を演出するわけです。

その中で「わかんねー」「こいつ嘘ついてんなー」「決めた、いや、やっぱ変える」・・・というような会話が永遠に起こるようにしたのです。

そしてもう一つ、会話という意味で非常に重要なのは、「ルール説明をいかに恥ずかしくなく、気持ちよく(ドヤ顔で)できるか」です。

ゲームのルールを、初めてプレイするメンバーにルールを説明することは、難易度が高いコミュニケーションですし、恥ずかしさを感じる人もいるでしょう。それを、いかにシンプルに、人に言いたくなってしまうルールにするかの設計が重要です。製作段階で、何度も人にルールを話してみて、まず自分が、簡潔に、恥ずかしくなく、そしてドヤ顔でルールを話せるかを確認しましょう。

ゲーム終了後に、「こういうことだったんだよ」という気づきを得られるオチを仕込んでおくことも、伝えたい目的がある場合は大事です。

面白さを作るために、始めの方ではルールの付け足しを行っていくのですが、ルールが1つ増えるとそれだけゲームは複雑化し、説明も大変になります。ルールをつくるときは、さまざまなルールの可能性を考えてふくらませ、最終的にはそぎ落とすのがおすすめです。



【4. 結 ~実力と運のバランスが7:3になるよう徹底的に調整】

最も重要なステップです。ゲーム開発の労力の大半は、バランス調整です。

ここで僕が個人的にこだわるポイントは、上手い人とそうでない人の勝率を7:3くらいにすることです。

仮に、上手い人が必ず勝つゲームになってしまうと、そうでない人は面白くなくなってしまい、遊びたくなくなります。

反対に、ほとんどの勝敗が運任せで、プレイが上達しても勝率が上がらなかったり、テクニックを出す余地がなくなったりするのも、やる気を削がれる要因です。

「上手くなれば勝つ確率は上がる、でも上手くない人でも勝てる」というバランスが、多くの人が何度も遊びたくなるゲームの黄金比です。

それを目指して、いろいろな人に協力してもらってテストプレイを重ねて調整していきます。同時に、いわゆる「バグ」が発生しないかどうかも時間をかけて検証します。

正直、最後の詰めは本当に苦しい作業です。最初にアイデアを考えている段階は楽しいですが、最後にゲームに矛盾がないか、バランスよく面白さが発揮されるかを調整していく段階では、僕はいつも気が狂いそうになります。『民芸スタジアム』というゲームは面白さにこだわりすぎて、半年の間デバッグをコツコツ続けました。シンプルな『グーチョキパーダラピン』でも、取扱説明書の入稿1時間前までルールで迷って、友達が集まっている飲み会を探して飛び込み、その場でテストプレイをお願いしたほどです。


最後に、アナログゲームをビジネスに活用する方法についてもお話しします。

商品販売ということだけでなく、自社が伝えたいバリューの浸透に一役買ってもらうためにゲームを幅広い流通で販売し、自社事業などの導入部分を疑似体験してもらうなどのPR的な使われ方も増えてきました。ここ数年で開発したゲームの中で最もヒットした、遊ぶとイライラが減る不思議なカードゲーム「アンガーマネジメントゲーム」は、遊んだ後で多くのお客様が「アンガーマネジメントの講座を受けてみたい」と言ってくださっています。

アナログゲームは、「自社の事業や理念を、体験型でPRしてくれる宣伝マン」のようなものです。チラシと違い、お金を払って買ってもらえるうえに、発売元の会社の本業に興味を持たせられる遊びを提供して回ってくれます。これが全国に流通していくことには大きな意味があります。よく、投資はお金を働かせること、と言いますが、「ゲームに働かせる」というイメージです。皆様の仕事の中でも、「働くゲーム社員」を生み出すという方法を考えてみませんか?

最後に。
ゲームは結局、どこまで調整しても、遊び方は最後はお客さんの手にゆだねられます。そういう意味では、自由にルールを変えて楽しく遊べる余地を残しておくことも、ゲームの設計においては重要だと考えています。だから、特に今の時代のゲームは、完全であるより、多くのユーザーに「あーだこーだ」言われながら完成していくくらいの、不完全なものである方が楽しいのかもしれません。その方が、自社について語ってくれる人、一緒に語り合ってくれる仲間が見つかっていきます。

※株式会社ウサギでは、ボードゲーム・カードゲーム・玩具の企画開発、ルールデザイン、生産、流通、PRまでお手伝いしています。お問い合わせフォームは以下より、お気軽にご連絡ください。リモートでおしゃべりしましょう。




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