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タクシー業界は歩合制との相性の悪さを認知すべき【自らが公共交通機関という認識ならば】

どうも,しもおさです.
元は「新卒ドライバーはタクシー業界の現状に毒を吐きたいらしい」みたいなタイトルで記事を書いているなかの1項目だったのですが,それだけで長文になったので,独立して投稿することにしました.

軽く自己紹介

考え方のベースはこういう環境を経てきたからです.という説明.

・某理系大学の交通系研究室の出身(理系だけど学部卒です,ごめんなさい).
・大学では,人々の活動が新たな交通サービス(MaaS)でどう変化するか,実際の移動データを用いてシミュレーション(手法改良と実データ適用)を行いました.
・新卒でタクシー業界に就職しました.
⇒ 現在は実際に営業所配属で乗務員をしています.

「インフラ」と収益性

元来,「仕事に対する報酬は成果給があるべき姿である」というのは確かにその通りだとは思う.仕事の成果の対価として報酬を貰うというのが本来の労働の姿だから.しかしそれはインフラに関しては例外的であると思う.

一般には,生活に必要不可欠な社会基盤をインフラとよぶ.したがって何らかのインフラを「収益性がないから減らします,無くします!」というのは,「生活に必要不可欠」なものを奪う行為であり,生存権侵害にも相当するため,本来的にはあってはならないことのはずである.(やや話のスケールが大きいなぁ...)

よって,インフラに関連する仕事の従事者は(例外的に)収益性だけで業務実績を図れるものではない,すなわちその対価の報酬(賃金)を収益性のみで決定できる(すべき)ものではないはずである.

タクシーは「交通インフラ」?

ところで,「タクシーは交通インフラ(公共交通機関)の一つである」と言われることは少なくないと思う.実際,国交省の検討会や各会社の宣伝文句として「公共交通機関としてのタクシーを ...」云々みたいな話は聞けたりする.

しかし,私は「本当にタクシーは『交通インフラ』と名乗れるだろうか(名乗ることが許されるか)」と思っている.なぜならば,交通インフラとしてのタクシーのあるべき役割を果たしている(または果たせる環境が整備されている)とは現状では言い難いと考えるからである.
そして,それはこの業界が歩合制という賃金体系に依存していることが大きな原因だと私は考える.

言い直せば,交通インフラの一員という自覚でありながら,歩合制という乗務員の売上実績(すなわち乗務員ごとの収益性)を最も重視する賃金体系を導入していること自体が【矛盾】ではなかろうか と私は考える.

公共交通の乗務員

鉄道の乗務員,バスの乗務員 etc. これらは一般的なサラリーマンとしての固定給の賃金体系(のはず?)である.確かにこれらの乗務員は乗務ダイヤ(このように仕事をしなさいという指示)が決まっており,所謂営業的側面も少ないため,業務実績を営業実績で評価しようがないというのもあると思う.

しかしながら,実際にタクシー(乗り物)を動かし(または乗り場で"業務として待機"(本来はそう)し),乗車希望をされた(移動を必要としている)お客さんをお乗せし,目的地まで安全に正確に輸送する.この仕事自体はどの乗務員でも確実にこなすべき業務内容であることには変わりないし,それは交通手段の乗務員に共通する業務内容である.

「移動サービス」である以上,顧客の満足は移動が安全に正確に完遂することであり,その満足度につながるサービスレベル(どころか根幹にあたる安全性)が顧客によって変化してしまうことがあっては決してならない

加えていえば,そもそも,お客さんの目的地自体も,語弊のある言い方ではあるがである.オタク的な例えをすれば,エリア別である程度(経験則に基づく)排出率が分かるソシャゲのガチャである(※例えですからどうかお許しを).

別に真面目に乗務をしたから長距離のお客さんがお乗りするわけでもないし(そもそも「長距離のお客さん= 嬉しいお客さん,短距離の"客"=嬉しくない"客"」という心情自体が"公共交通の乗務員として"陥るべきではないと思うが),いかにそれぞれのお客さんの役に立つ(たとえば「ありがとう」「助かった」を言ってもらったりする,そうでなくても移動が出来て,お客さんの何らかの活動自体が出来たこと自体でも交通機関としては十分その役割を果たしている)乗務をしていても,それらが短距離のお客さん,あまり顧客数の多くないエリアからであれば,当然乗務員が上げる収益性としては低くなる可能性が高い.

元交通系の人間としての考え

(過去の記事を読んでいただいている方にはしつこいようだが,)
交通系の目線で言わせれば,「公共交通としてのタクシー」のあり方としては,ファースト/ラストワンマイル輸送としても活用される状況が理想(というかそうあるべき)だと考える.すなわち鉄道やバスで補いきれない,末端部の細かな移動需要充足も果たすべき役割であるといえる.
現状の,【タクシー運転手が喜ぶ・会社が要求するような】タクシーの使われ方はいわばハイヤーの延長であり,「公共交通」としてのタクシーとしては需要を充足しているとはいえないと思っている.その層の需要充足も必要ではあるが,そちらに偏重しすぎてはいけない.

そうした交通手段としての特性,そしてそれ以上にタクシーが担うべき業務・タクシーが満たしうる顧客満足度の特性をもちながら,いかに高効率で収益性を高めるかということに特化した歩合制を採用することで,そうした”公共交通機関としてのあるべき顧客満足度向上”が置き去りにされているのではないか.ぼくはそう考え,交通インフラとしてのタクシーのあるべき役割を果たしているとは言い難いと考える.

ならば固定給?

「固定給にしたらサボるやつが出るじゃない」という指摘があるかもしれないが,それは別に一般企業でも同じだろう.サボるやつは仕事をしてるふりしてサボる.そもそも,タクシーはすべての移動ログが取れている(会社も少なくない)以上サボってればすぐ分かる.したがって,その指摘はタクシー業界独自で当たるものではないと考える.

個人的にだが,「そもそも固定給になったから仕事サボってやろうってのはインフラにいるべき人材ではないのでお辞め下さい」とは言いたい(別にやるべき仕事をこなしていれば文句ない).
そういった人材が一定程度存在してしまうこと自体が業界の癌なんじゃないかなとも思うが,前述の通りタクシー業界は【インフラ】という認識はあまりなさそうであるから故,そうした認識もないのかもしれない.(そもそも業界の癌はもはや多すぎて瀕死状態なのではと思わなくもないが)

若干似ているが「固定給だと仕事に対するインセンティブが下がるのでは?」という声もあるかもしれない.正直なところ,個人的には交通機関である以上「お給料がいい」「休みが多い」[なお要検証] というところを職選びの主軸で入ってくるのはそぐわないと思っている.やりがいだけでは仕事はできないが,交通機関である以上は待遇面の魅力だけですべき仕事ではないと思う.要は交通機関としての責任をもって仕事が出来る人材を採用すべきなんじゃないかという話である.

そうなると人材不足が云々という話もあるかもしれないが,こうした現在の採用体系は近視眼的な企業運営(採用)を行っているようにしか見えない.
やや極端にいえば,待遇面を前面に押し出して人をかき集めて,それら乗務員を収益性重視で運用することで既存市場で荒稼ぎし一時的に会社を回しているが,
新規顧客層開拓を怠り,エンドユーザー満足度も十分ではない業界である.という現状に十分に気づくことなく,こうした状況を打開する人材を要求することもない.というフローに陥っているように見える.

ただでさえ不況の状況下でタクシー需要は盛り下がっている以上,こうした既存市場のみに依存する状況では先がないというのは僕でもわかる.
同じ交通機関であるにも関わらず,社会的地位も低く,憧れられない業種であり,結果として前述の課題を打開しようと考える人材もあまり入ってこないのは,この業界がそうした流れに陥っていると考えられる(要は将来性があまりないとみなされている)【何よりの証拠】であると思う.

(と思ったが,昨今の採用活動だとやっぱり待遇面ってかなり大事にされるし,待遇面前面押し出しが一概に否定が出来ないというのもあるかもしれない.しかし,1対1の接客業として,運転を活かした仕事として,そうした点に魅力を持って入社している人も少なからずいる.待遇面押し出しだけが魅力の全てではないように思える.)

また固定給でもボーナスの評価などで還元する手はある.この際には,売り上げだけでなく乗車数や乗客評価などを反映できると,収益性の観点だけにこだわることなく良いと考える.

そうこう言っていると出てきそうな意見

- 「そうはいっても私企業だし収益性ないとしゃあないやろ」

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引用元:国土交通省, 「タクシー事業の現状について」, page5, https://www.mlit.go.jp/common/001083859.pdf

要は人件費デカすぎるマン.すべての会社がここまでかは分からないが,正直車両数が多すぎることが全ての元凶のようにも感じる.

つまり,車両が多い→ それを休車にしててもコストなのでドライバー雇って動かす→ 実車率が下がり,ドライバー自体が収益を上げることに必死となる → 公共交通機関としての営業がされにくい

と思ったら次のページにありました.

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引用元:国土交通省, 「タクシー事業の現状について」, page6, https://www.mlit.go.jp/common/001083859.pdf

この通りだと思います.要は規制緩和して以降,相次ぐ不況勃発事案・人口減,IT革命の社会で相対的に車両数多すぎるんじゃないの?というお話でした.

- 「そうはいっても台数減らしたら供給数足りねえんじゃねえの」

前提として今のご時世は供給過多なのは言うまでもない.そして正直元の水準にタクシー需要が戻ることはないと僕は考える.
少なくともテレワークに切り替える,出先業務を減らすなどの流れが少なからず来ているし,それに伴う接待飲食も減っているためである.

これは実体験だが,先日(お盆最終日)に乗務をしていた.この日は弊社も台数1/3以下にしており,他社も同様にかなり台数減している印象だった.
そうした状況下でようやく乗ってきたお客さんから「今日タクシー少ないですね... 捕まえるのに苦労しましたよ」と言われる程度である(ちなみにそんなこと言われたのは初めて).
正直今年のお盆は都民がどこへ行っても除け者扱いになる状況だったからか,都内での移動は結構多かったんじゃないかと思う.そのため普段の休日(もしかするとそれ以上)の需要はあったように思われる.それでこの比率である.要は平時はこの2倍以上はタクシーがいるわけである,タクシー多すぎだよという話である.

- 「短距離需要増やしたら供給数足りねえんじゃねえの」

これは正直分からない.短距離需要は回転がいいのもあるので何とも言えないし,需給のマッチング次第(空車時間の減)では問題なく回せるのではないかとも思う.

【思いついたらなんか書く】


さいごに

相変わらず駄文だなぁとは思うが,これも正直なお気持ち表明である(オタクはお気持ち表明しがち)

まあこれを書いたところで何があるわけではないどころか,むしろ業界からにらまれる可能性の方が高そうだが,まあ正直交通系の目線と乗務員の目線を両方持っている人間からするとこう思うんだがなぁというお話はしたかったので書きました.

個人的に,固定給制度を採用した場合の企業側での問題点が十分に洗い出し切れていない印象があるので,企業側目線のコメントがあればうれしいですね.ぜひ解決案を考えてみたいです.

せんでん




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