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砂の器

 松本清張の「砂の器」を読み終えました。

 僕は、この長編推理小説の存在、タイトルぐらいは何となく知ってはいましたが、松本清張の作品全体に、とっつきにくい印象があり、これまでこの小説を含め、清張の作品は読んだことがなく、テレビドラマ化された作品を見て、これの原作が清張なんだと思ったことは、一度や二度はあったようにも思います。

 僕が小学生のころより歩んできた推理ものとしては、江戸川乱歩→ホームズ→ルパン→クリスティーと、海外中心の古典的推理小説を読み漁るところからスタートし、
高校時代に西村京太郎の十津川警部シリーズに突入しましたが、それ以外は推理小説から離れ、
高校、大学はもっぱら世界史や中国史の名著を読み、小説も世界史を題材にした塩野七生作品に移行、社会人になるころには、鬼平犯科帳こそ就職活動のお伴に読んでいましたが、推理小説は読まなくなったように思います。
 
 社会人になると、これまで見向きもしなかった純文学系に移行し、宮本輝の川三部作にはじまり、まずは宮本輝を順次読破、あとは雑食系になり、純文学も読むけど、歴史関係も好きだし、実学系も読む。
もちろん鉄道関係は大好き、という現在のスタイルになり、時期により読書量に浮き沈みはありますが、ここ1年半ぐらいは何度目かの多読期に入り、新たな発見も相次いでいます。

 多読かつジャンルの幅が広がったのは、noteのライターのみなさんの紹介記事によるところが大きいと思います。いま、いちいち記憶を掘り起こすことはしませんが、未知の世界の本を振り込まれ、それが僕に新鮮な経験を与えてくれる本は実に多いです。

 僕の読書遍歴でだいぶ横道にそれましたが、清張は僕にとっては一時代前の人、かといって古典の領域でもなく、難しい印象があるので、心の中では捨て置いて良いもの、という認識でつい最近まで来たのですが、何かのついでにJR木次線が、砂の器の舞台となっていることを知らされ、何となく促されるままに図書館で文庫版を借りました。

 最初は文庫とはいえそれなりの厚さの上下巻、これ今のゆるい気持ちでは読破できずに先送りかもと思いつつ、読み始めました。

 作品の舞台は、この国が戦争に負けてから程ない時期であり、多くの人と地域が高度成長の恩恵にあずかる前の世界で、その後に生まれた1億ともいわれる中産階級は存在せず、戦前からの上流階級がまだ幅を利かせていたことを示す、女中や料理人といった家宰的な人たちが、当たり前のように登場するエピソードも、随所に散りばめられています。

 ただ、この作品はそうした時代の古さに対する違和感を感じさせることなく、古い時代に読み手は誘われ、夢中に追いかけてしまう、現代であればありえないような設定も、そこはお約束事として受け入れ、それでもなお、一気に読破させるだけの実力がありました。

 これで、清張作品への心理的な壁がなくなったので、今後は、積極的に清張作品にアプローチして、僕の読書遍歴の空白となっている一領域を、染めていきたいと思います。 


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