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「美女と野獣」の上演台本 谷川俊太郎が提供 円・こどもステージ「キレイちゃんとけだもの」(演劇集団円)@両国シアターX

円・こどもステージ『キレイちゃんとけだもの』@両国シアターXを観劇。ディズニーがミュージカル化したことでも知られる「美女と野獣」の物語。ニコラス・S・グレイの原作を菊池章一が翻訳。初演は前身の劇団雲時代だが、演劇集団円としてはこれが2回目の上演。円初演時から谷川俊太郎が上演台本を担当している。
円・こどもステージは岸田今日子の企画により1981年にスタート。「子どもたちはもちろん大人たちにも楽しめる作品」をコンセプトに「<不思議の国のアリス>の帽子屋さんのお茶の会」「青い鳥ことりなぜなぜ青い」などの別役実作品をはじめ、谷川俊太郎阪田寛夫佐野洋子きむらゆういち和田誠らによる書き下ろし作品の上演を続けてきた。こどもステージの名称に相応しく、この日の客席の組み方も前方エリアに親子が一緒に座って楽しめる座敷席のファミリーゾーンが設けられているのだが、この日の演目でもこの客席に向かって演者が話しかけるような演技をするとビビッドに反応するのがここならではの空気感を作っていて素晴らしい。
特にこの作品では場面転換ごとに暗転の時にナレーター役の男が登場。座敷席の子供たちとやりとりしながら、物語を進行した。実はこの役は原作にはないもので、場面転換の多いこの作品を子供たちに飽きさせずに見せるための工夫のようだが、こういう気配りもこどもステージのノウハウのひとつだ。特に今回はコロナ禍の上演で子供を含めて観客全員がマスクをする代わりに子供たちを中心に限度を超えない多少の声出しは許容されていて、この日はそういうことはいっさいなかったけれど、興奮した子供がマスクを外して叫びだすようなことがあっても、彼が舞台わきの子供たちのすぐそばにいることで即座に対処ができるという役割も担っているようだ。こういう役割を設けるようになったのはこうした暗転を多用する舞台では当初は舞台上が暗くなると怖くなって泣き出してしまう子供もいたことへの対策という側面もあったようだ。
美女と野獣」は1740年にヴィルヌーヴ夫人によって最初に書かれたが、現在広く知られているのはそれを短縮して1756年に出版されたボーモン夫人版で日本では劇団四季の手によりロングラン上演されているディズニーミュージカル「美女と野獣」などほとんどの派生作品はこのボーモン夫人版を基に製作されている。
「キレイちゃんとけだもの」ではベルに横恋慕するガストンは登場せずにストーリーは大幅に単純化され少人数での上演を可能にするような改変がなされているが、魔法使いを魔女からうっかりもので物忘れのひどい老人にしたり、その弟子のような存在としてちびっこドラゴンのマイキイを登場させ、彼らがコミカルな役割を担うことで、年少の子供たちにも入り込みやすい作品となっている。最近は公立劇場などを中心に夏休みの時期になると子供向けと銘打った作品の上演が増えているのだが、子供たちの反応をみていると飽きてしまって、客席を走り回ったりするものもあるように舞台の出来不出来が歴然と分かるのがこわさでもある。こどもステージは何度か観劇したが、子供たちが本当に楽しそうに舞台を見入っており、その空気感がとてもよかった。

原作
ニコラス・S・グレイ

菊池章一
上演台本
谷川俊太郎
演出
小森美巳
出演
吉見一豊
高橋理恵子
瑞木健太郎
冠野智美
石原由宇
清田智彦
井上百合子
中野風音

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