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女の顔

 朝起きると、女が立っていた。
知らない顔だった。
「もう疲れたから、この顔で生きていく」と女は言った。
それで女の名前を思い出した。
「それでは、困る。前の顔でないと戸惑う」そう言うと、女は少しのあいだ黙っていた。
「分かった」と言って、女は部屋を出ていった。
斜めに朝の光が私の部屋を明るくしていった。
サイド・テーブルのタバコを取ろうと、からだをひねったが、空だった。
「73かあ、めんどくさくなるのかな」そんなことを考えながら、着替えた。
キッチンの冷蔵庫から炭酸水のボトルを取り出して、飲んだ。
母親がいつもの顔に戻って、洗濯物を干しているのが視線の端にあった。


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