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カリフリ農場より 2.ベビーラッシュの春

 今トマムは、ようやく雪も無くなり、森も新緑に染まり、日本一遅い桜の開花が始まったところである。この時期のカリフリ農場は家畜の子供たちでにぎあう。そしてその世話で追われている。

 ヤギと羊の出産は1月下旬には始まり3月末までには30頭ほどの子供たちが生まれている。ヤギや羊たちが生まれる時期は気温がまだ氷点下である。生まれたての子供たちは羊水でびしょ濡れだ。母親はなめて濡れた体を拭き取るが、追いつかなければ体が冷えてそのまま凍死してしまう。だから出産が始まっていないかどうか常に見回りにいかなければならない。仔ヤギ、仔羊たちの生存率は、産後すぐに初乳を飲めるか飲めないかで、おおきく変わる。生まれてすぐ自力で初乳を飲めたら、だいたい元気に歩いているが飲めなかったら、元気が出ずぐったりしている。口の中に指を入れると冷たい。発見が遅れるとそのまま低体温で死ぬ。まだ息がある場合は、家に連れて行き体を温める。ビニール袋で体を包み、熱いお風呂に入れるのだ。体が濡れていたらドライヤーで乾かす。体温が充分に上がってくると、エネルギーがでてきて「メェ〜」と鳴き出す。「お腹すいたよーっ」といっているのだろう。だから、乳を飲ませてあげる。母親の乳を絞ってきて、哺乳瓶で哺乳するのだ。これでしっかりと乳を飲むことができたら、だいたい元気になる。しかし、産後すぐに母親と引き離しているから、元気になって親元に戻しても、乳が飲めなかったり母親が育児放棄する場合もあるから難しい。こうなった子供たちは、人口哺乳で育てるしかない。一日3、4回哺乳してあげるのだ。母親の元で育つのが一番だが、人口哺乳で育つ子供たちは人間になつき、いつも駆け寄ってくるからとても可愛らしい。

子ヤギたち


 4月中旬には、生後半月の子豚25頭がやってくる。そして、ちょうどこの頃、仔ヤギたちは離乳し始めるから、ヤギの搾乳が始まるのだ。子豚たちは絞ったヤギミルクをのんで育っていき、半年後には何十倍に育ち、おいしいお肉になっていくのだ。

 5月に入ると、ひよこがくる。産まれたてのひよこ100羽。大きくなるまでは、鶏舎に囲いを作ってその中で飼育する。この時期はまだ夜が冷え込み霜が降りることもある。だから電気ヒーターで温度管理をしてあげる。ひよこたちは寒いと暖をとろうとお互いの身体を寄せ合い、おしくらまんじゅう状態になる。こうなると、簡単に圧死してしまう。今年も、すでに悲劇はおきている。夜の間に何かの加減でヒーターのコンセントが抜けてしまっていたのだ。囲いの中は見るも無惨な状態である。圧死したひよこが積み重なっているのだ。20羽は犠牲になった。
今年に限らず過去にもひよこ事件はたくさんある。野良猫に半分以上食べられたこともあるし、飼い犬が囲いの中に入ってしまい、咬み殺されて全滅したこともある。こんな感じで、なんだかんだ毎年苦労している。 

ひよこ


 家畜たちは簡単には育ってくれない。いつも気にかけて見回りをし、様子を伺い体調や環境の異変に気づいてあげる。そしてなにより愛情もって世話をしてあげて、ストレスなく健康に育てていくことが大切なのだ。これから何事もなく元気に育ってくれたらいいなと、願う。

(えとう・かずま=1999年生まれ。北海道勇払郡占冠村字上トマム カリフリ農場 tel&fax:0167-57-3315 http://karifurifarm.blog.fc2.com/



『市民活動のひろば』191号(2021.6.1)
『市民活動のひろば』ホームページ http://a-simin.com


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