エレベーターの怪(実話)
「幽霊の日」ということで自分の心霊体験を。
もう何年も前のこと――。
大阪心斎橋付近某所の10階建てビルで働いてた頃の話である。
深夜になり、私たちの職場以外はすべて消灯していた。電気がついているのは私たちの職場がある9階のフロアだけだった。
そんな中、私は下の階のトイレを使いに行った。
エレベーターが開くと真っ暗な廊下が広がっている。私は電気を付けて、トイレをすまし、またエレベーターの前に戻ってきた。電気を消して暗闇の前でボタンを押す。光る数字が8階から1階に下っていく。
そしてまた1・2・3……と上がってくる。
6・7……次はこの階だ。
だが、私の前に箱が来ることはなかった。
7・6……
6階に戻ったのだ。
6・7・6・7・6・7……
箱は6階と7階を往復し続けた。
私は暗闇で上下を繰り返す数字を見つめていた。
中に人が入っていたとして、6階と7階をひたすら上下し続けているなんて普通ではない。
箱が停まるたび、扉が開いて閉じる音がかすかに聞こえる。
箱から人が降りる気配はしない。
心臓が壊れそうだった。
エレベーターを使うのがひたすらに怖かった。しかし、エレベーターに乗らなければ職場に戻れない。もうすぐ休憩時間も終わってしまう。
外にある非常階段を使う?
誰もいない廊下を動いて非常階段まで行くのも怖い! それに扉が施錠されているかもしれない。
そうやって考えている間も6階と7階を箱は上下し続けている。
「戻らなければ休憩を過ぎてしまう」「ここにいても埒があかない」「エレベーターを使う以外に選択肢はない」「人が乗っていたらうちの職場の人だと思うことにする」「乗っていなかったらエレベーターの誤作動ということにする」
箱を呼ぶしかない。
もう一度8階のボタンを押した。
今度は箱は6階に下がらなかった。
7・8……
扉が開いた。
箱の中は空だった。
ホッとして乗り込み9階に戻った。
職場はいつも通りの明るさで、一気に現実に戻った。
幽霊も不審者も乗っていなかったのは良かったが、6階と7階を上下し続けたのはなんだったのか。
・私がエレベーターを呼び出したちょうどその時に乗り込み、6階と7階を何度も往復し、私が8階ボタンを押したタイミングで、誰もいない、消灯している7階で降りた人がいた。
あるいは
・エレベーターが誤作動した(私が使おうとしたちょうどそのタイミングで? ちなみにこの職場は数年勤めたがこんなことは今後一度もなかった)
現実的に考えると上記のどちらかとなるが……。
矛盾するがどちらも現実的には思えない。
私は霊感がなく幽霊を観たことはない。はっきりとした心霊体験もしたことがない。だからこそ余計に恐ろしい体験だった。
後年、知ったのだが、このビルは「出る」と噂があったらしい。うちの職場の人にも、あり得ない体験をした人が何人かいたそうだ。
もし先に噂を聞いていたら、話半分で信じなかったと思う。
しかし自分がこのような体験をしていたため、納得してしまった。
夜の都会の片隅のビルは、何を抱えて佇んでいたのだろうか――。
(7月27日、記憶違いがあったので修正。7階で止まった後8階まで呼んだ× →6・7を上下し続けているときにボタンを押して8階まで呼んだ)
「盂蘭盆 彼岸と此岸の重なる日」
「狐と狸の迷画座劇場 山陰道四谷怪談」
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