僕と車(トラック)と膝枕
今日、僕は初めて相棒と出会った・・・。
大きな車体、荷台スペースには検診で使用する精密機械が満載である。
胃胸部検診車 車両長:7m|高さ:3.1m|幅:2.3m
公民館などの各大型会場へ行って現地で、レントゲン撮影などの検診をすることができる、特殊車両それが僕の新しい相棒だ。
金色のキーホルダーに金メッキされた趣味の悪い鍵。しかし、それだけではない、この車両の僕だけの特別仕様は運転台にあった。
新車の香りを嗅ぐ為にドアを開けると、そこには、ポッチャリふわっとしている今まで見た事のハンドルが付いていた。
僕は嬉しくなって、口の端から奇妙な笑い声が漏れてきた。これぞ理想の運転台。
こっそり社長のもとに持参した。十万石まんじゅう。中敷きの下には帯の掛かった一万円の札束、特別に依頼したかいあったと言えよう。
僕の大好きな膝枕ちゃんと一緒に運転ができる仕様となっている。
「あっ、ごめんなさい、『何を言っているのかわからない』って君たちに説明するね。”膝枕ちゃん”っていうのは、膝枕カンパニー©って言う会社が、
人のぬくもり、温かみに飢えた僕らの為に、女性(男性)の腰から下を模して作った、癒し系グッズ?なんだ。」
僕にとって母であり、彼女であり、またある時はおばあちゃんでもあるかけがえのない存在。トイレの中にもお風呂の中にも連れていけるものなら、一緒に行きたい、片時も離れたくない。
そんな彼女と一緒に日本中の街や村を回ることが、僕の夢なんだ!!
「あの・・・」
車を見つめながら、ニタニタと妄想に浸っていた僕を、まるで後ろから首根っこをつかんで体落とし食らわせ、現実に引き戻そうとするような声が聞こえた。
今回、僕の相棒を納車に来てくれた、久田特殊車両の社長兼営業の久田さんだった。
「あの・・・、納車点検の確認書類にサインを頂いてよろしいでしょうか?」
「あっ、すみません。つい見とれてしまって。」
僕は、はやる気持ちを抑え、納車点検書類にサインをした。
早く、膝枕ちゃんと運転席に座りたい、休憩時間と言わず、信号待ちの間にも顔を埋めて眠りたい。太く温かなエンジンの振動に一緒に包まれたい、顔に出さないように必死に抑えてはいたが、表情に出ていたようで、帰りしなの久田社長に、肘で小突かれ優しい笑顔をもらった。
僕は、握りこぶしに親指を立てて答えた。
特別仕様を知っているのは、僕と久田社長だけ。
病院にも内緒のトップシークレットなのである。
無事に納車も終え、僕は通勤用のマイカーに向かった。後部座席がフルスモークになっており、とあるシンガーのカッティンクシールで飾った、白いアルファードだ。
辺りに誰もいないことを確認すると、オートスライドドアの空き終わるのをまたずに、車内に待たせていた膝枕ちゃんに声をかけた。
膝枕ちゃんはけなげにも、少し暗めの車内で、僕が迎えに来るのを静かに待っていたのである。
その姿を見ると思わず抱きしめずにはいられない、僕なのだ。
「お待たせ、無事に納車も終わったし、僕たちのお城へ案内しよう。」
膝枕ちゃんは、小さく跳ね、膝をすりあわせて震えた。
喜んでくれているらしい。
膝枕を抱えて車両に乗り込む、膝枕ちゃんのポジションはもちろん
特別仕様のハンドルの上。ぷにぷにの低反発素材でできた、白いフリルをあしらったた特等席。
「これでいつでも一緒にいられるね。」
いくら表情を引き締めようとしても、つい口元が緩んでしまう。まるで風の谷のナウシカに出てくる、巨神兵のようだ。
いつもは、運行予定表を提出して、決められたルートに従って運転するのだが、今日は特別に試運転の名目で自由に走らせることができる。
今回は、関越自動車道 所沢インターチェンジから練馬方面に向かって、首都高経由湾岸線を抜け浦安方面『トーキョー夢の国』の、『大きな雷山』を横目にライトアップされた『はいかぶり姫の城』のを見て帰ろうと心に決めていた。
新しい胃胸部検診車のV24 10,700㏄のエンジンは重い車体を難なく引っ張ってくれる、余計な医療器具を積み込んでいない、新品の車体は夢の国へと僕らを引っ張ってくれた。
車内に流れるFMを、79.5MHzナックファイブから78.0MHzベイエフエムに切り替えると、軽快な音楽が流れてくる。
ハンドルの上の膝枕ちゃんも、常に僕と触れ合ってご機嫌である。
優しく手を添えると、優しくもじもじと膝をすり合わせてくれた。
「寒くないかい?エアコン効きすぎじゃないかな?」
「大丈夫だよ。」と言っているかのように、膝をもじもじと動かす。
いつもは、渋滞ですぐに止まってしまうはずの首都高速道路も、今日は軽快に流れてくれている。ラジオから聞こえてくるDJの低音ボイスも耳に心地いい。
葛西臨海公園の大きな観覧車を横目に、少しづつ『大きな雷山』が見えてきた。太陽も海面近くまで傾き、少しづつライトアップされていく。
新浦安で、折り返すためにインターを降りて高速高架そばのコンビニエンスストアの側道に車を止め、ドリンクを買うために車を降りた。
黒ウーロン茶と中華まんを買って車に戻ろうとした所で、後ろから声を掛けられた。
「あの・・・」
僕は、声を掛けられて振り返ると、少し大きめのスエットの上下に、白いサンダルをはいた女性が立っていた。
一番最初に目に入ったのは、緩めのトレーナーの上からでも判る、はちきれんばかりの胸。少しきつめの目は少し伏せがちに、つややかな口元が、妙に色っぽかった。
年齢不詳の顔立ち、十代後半と言われればそうも見えるが、全身からあふれる雰囲気は、大人の色香を漂わせている。
「あの・・・、所沢ナンバーをみて声を掛けさせていただきました。
これから、戻られます?もしよろしければ・・・」
少しためらいつつも、口ごもる。
「はい、所沢に帰りますが、どうしました?」
「もしよろしければ、所沢の近くまでご一緒に乗せて行ってはもらえませんでしょうか?」
今時、ヒッチハイクなのか?怪訝な表情で見つめる僕に断られるのを恐れてか、彼女は言葉を継いだ。
「決して怪しいものではありません、名前はヒサ子と申します。理由はお話しできませんが、どうしても行かなければいけないのです。えーっと所沢ヘ。」
彼女の、あまりににも真に迫る表情に、つい「はい」と言ってしまったのだ。
続く?
~♬ チャチャチャッ♪(好きな音楽を想像してください)
どう見ても、誰が見ても訳ありであるとしか思えない、お馴染みの女『ヒサ子』とは、一体何者なのか?
どうして、所沢なのか?
車内で待っている膝枕ちゃんにはどう言い訳をするのか?
ハンドルに乗っている膝枕を観たヒサコはどいった反応をするのか?
そんな車内を見られたら、社会人として終わってしまうんじゃないのか?
果たして真のエンディングには到達するのであろうか?
その前に、続きを書く気はあるのか?
数々の問題を残して、第一部 完!
↓
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《真のエンディング》
僕は、ハンドル膝枕の中に、沈み込んでしまったのである
もう離れられない運命なの!
だって運転手だもん。
膝番号133番
ハンドル大好きっこ、膝枕大好きっこに送る膝枕。
冗談ですよ、冗談wwwww
草草草草・・・・
このお話は、脚本家 今井雅子氏の「膝枕」と言うお話を、オマージュさせて頂いております。
プロ・アマ問わずみんなで読みつないでいこうぜと言う企画から始まりました。clubhouseと言うSNSで色んな人が色んな形で毎日、何らかの形で読んでおります。
かく言う私も、120とも130とも言われる外伝に加担させていただいております。現在では外伝が外伝を呼び、収集付かない形になってきておりまして、
毎日、飽きずに読むことができるようになっております。
読まれた方の中には、何んとなく気づかれた方もいるのでは無いかななんて、気づいて欲しいななんて思いつつも。
役者でもナレーターでもある、河崎 卓也氏の「膝枕」外伝「僕のヒサコ」の外伝となっておりまして、外伝の外伝なんてね、ややこしい状態になっておりますが、こちらも併せてお読みいただくと、皆さんのすごさが判るのではないかと思われます。
稚拙な文章で申し訳ありません、最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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