資金調達のための事業説明と事業計画の書き方 Vol.2
第Ⅰ章 融資審査へ円滑にすすめるための事業計画
この章では、融資申込企業と銀行との認識の乖離とその対策について述べさせていただきます。
1. 現在の金融機関からの資金調達事情
昨今のコロナ禍のもと、企業の金融機関からの資金調達が難しくなってきています。
一時期(2020年)は、緊急支援の融資等で多くの企業が比較的簡単に資金調達できたことだと思います。しかし、長引くコロナ禍の中で、企業もより疲弊し、保証協会を含め金融機関の審査も厳しくなってきています。逆に、コロナが収束に向かい、経済の復興段階となれば、より運転資金や設備資金の必要性が高まってくることでしょう。国策による融資支援の施策が行われれば、資金調達の可能性が高まりますが、その時に事業計画を備えていたほうが有利でしょう。
そこで、資金調達の可能性を少しでも高めるためには、「資金調達のための事業説明と事業計画」が重要になります。では、「資金調達のための事業説明と事業計画」とは、どんなものでしょうか?
2. 融資担当者が簡単に融資審査書類(協議書類)を作成できる事業計画書
事業計画の目的や書き方は、ご存知の通りいろいろあります。専門書もたくさんあります。
ここでは前述のとおり、視点を変えて「いかに銀行担当者の審査準備の負担を減らし、いかに早く、そして実際に融資審査をおこなってもらうか」を念頭に置いた事業計画の書き方を説明したいと思います。
どんなに秀逸な事業計画でも、担当者が動いてくれなければ融資審査は始まりません。
そのためには、担当者がいかに簡単に理解をして融資審査の準備を始めてくれるかということが、初動の段階でとても重要な要因になります。「事業説明と事業計画」が銀行の融資審査書式に沿ったものになっていれば、担当者は簡単に準備できます。その逆であれば、面倒なので後回しもしくは協議したとして、いわゆる「机の肥やし」となり、お断りということになります。
保証協会は、時間はかかりますがきちんと審査をしてくれていると思います。しかしながら、銀行はノルマに該当しないプロパー貸し付けになると、実際問題、すべてを融資審査(協議)自体を行っているかは怪しいものです。
わかりやすいのは、融資の申し込みをして、数日後「協議した結果、今回は・・・」『どうしてですか?』「詳細はおこたえできませんのでご了承ください」云々と、実体験で経験した方も少なくないのではないでしょうか。
そこで、担当者が融資審査へ円滑に進めてくれるためにはどうしたらよいかを考えてみましょう。
わたくしが常に念頭においている次の3つのポイントです。
① 窓口となる担当者の手間を省くことができること
② 見やすく、わかりやすく、簡潔であること
③ 融資審査に必要な情報やエビデンスが順序良く審査書式に基づき列記されていること
前述しましたが、そもそも金融機関の融資審査は、担当者が動いてくれなければ、どんなに秀逸な事業計画でも融資審査をしてもらえることはありません。銀行の融資審査は、制定の書式がありますので、その事業計画に必要な情報が理路整然と記載されていたら担当者は審査準備の初動にはいりやすいはずです。そして、詳細が事業計画に記載されていれば、所定の書式に事業計画を添付するだけです。あとは計画の実現可能性と返済能力の検証を行い担当者の所見を記載すれば、上席の審査に進めることができます。もちろんその検証も事業計画内でおこっておきます。つまり、担当者は書き写すだけであまりやることがないということです。
この事業計画という「ひと手間」によって、担当者の初動如何によって発生する最初のボトルネックを解消することができます。
残念ですが、担当者の「能力」や「やる気」によって左右されていることも事実なのです。本当に担当者に熱意があり、あなたの会社を十分に理解していて、必要な資料が提出されれば、1日で審査用の書類は準備でき、上席に審査をあげることができるはずです。
一番時間がかかり、担当者が嫌がるのは、必要な情報を申込した会社に伝え準備してもらうことです。銀行の要望する資料が整うまで、何度も往復し時間がかかって、結果融資を受けることができればいいのですが、融資が承認されなければ「時間と労力の無駄」となります。
極論ですが、私の推奨する「資金調達のための事業説明と事業計画」は、担当者の審査協議の業務のほとんどを代行してあげることです。最初から銀行の必要とする情報を整理した書類、つまり「事業説明と事業計画」、そしてその中で会社の業績や事業構成の必要な分析検証をおこない、融資可能なロジックを構築することで、銀行が融資承認できる要素を事業計画にて明確に説明します。そうすることで、「YES or NO」の回答も早くなりますし、時間の無駄も省くことができます。
例えば、会社の強み弱み(SWOT分析)を分析し、その理由や対策を事前に説明することで、かなりの質疑応答が省略できますし、担当者の検証を代行することになります。SWOT分析のエビデンス資料や数値的なデータを添付してあげることで、担当者が調査する手間を省くことができます。また、この会社は自社のことをきちんと理解していると与信面でもプラスに作用することでしょう。
それから、融資審査の流れで係る人たちが、同じ理解が簡単にできるように文字だけでなく、図式や表を使用して、絵本のように見やすく作成された事業計画であれば、審査の各段階の事業計画に対する理解が容易になり審査を通す可能性は高くなるでしょう。ご存知のとおり、上席になればなるほど承認する件数も増えるし、眼も老眼の方が増えるでしょう。文章は簡潔に、字は大きく、図表や絵を使用することで見やすくなります。これも、心理的には+要因になることでしょう。
また、整理された事業計画が書けるということは、審査のどの段階においても、その企業自体もきちんとしているという安心感をあたえることだと思います。「見た目」だけで判断するなという意見もあるかと思いますが、やはり「見た目」は大事なのです。
とはいえ、「見た目」だけで通用するものでもありません。
次に、事業計画の内容として重要なことが下記ポイントとなります。
① 基本となる会社の事業内容(商流/事業相関含む)がきちんと説明されていること
② 事業や市場の調査分析や自社のSWOT分析等が行われていること
③ 計画に関する調査や分析が数値的根拠に基づききちんと説明されていること
④ 収益計画や返済計画の実現可能性が説明されていること(エビデンス資料含む)
⑤ 収支計画及び返済計画に基づく資金繰り計画に整合性があること
上記をクリアできる事業計画を作成するのは大変なことのようですが、現在の自社の実態をきちんと把握していれば、それに基づく計画をロジカルに作成するは決して難しいことではありません。
そして、ここまでやっているということは、銀行担当者の検討業務をほぼ代行していることになります。
収支計画の精度をあげるためには、財務データが重要になります。特に売り上げなど、売上だけでひとまとめになっているより、できるだけ区分しておいたほうが計画時に役にたつでしょう。一度経理ソフトの構成を見直してみることもお薦めいたします。これも、自分の会社を分析し、銀行の検証資料となるデータを準備する企業努力です。もちろん経営会議の重要なデータにもなります。いわゆる、「データマイニング」です。財務諸表は、ただの数字の羅列ですが、自社の経営に役立てるデータにランクアップすることができます。
3. 事業計画の前に重要な事業説明
続いて、事業計画作成の前に重要なことがあります。
それは、「事業説明」です。これは、新規取引でも既存取引のある銀行でもとても重要です。
既存取引のある銀行に対しては「どうして?」と思われる方も多いかと思いますが、銀行の担当者が自分の会社をどれだけ理解しているかというと、取引関係にもよりますが実情として残念ながらしっかり把握している担当者は少ないでしょう。また転勤等で担当者がかわるとその理解の精度はかなりさがるといっていいでしょう。
企業経営者の「銀行担当者は、自分の会社を十分に理解している」と認識と「銀行担当者の把握」の乖離が、融資審査への障害を生じさせていることは少なくありません。
もちろん、会社の規模や業績にもよります。それは、銀行担当者として自分の業績にメリットがあるかどうか、銀行(支店)として、重要な取引先であるかどうかという点で大きく異なります。
大切なのは、既存の取引銀行と、どれくらい密接な関係にあり、銀行にとって有益なものを提供できる企業であるかということです。
だから、銀行は業況の良い企業には「お付き合い融資(いらない資金)」をお願いしてきます。これも昔から行われてきた銀行との良好な関係構築なのですが、雨が降ると銀行はドラスティックに傘を取り上げますので、残念ながら実際に業況が悪化した時にどこまで銀行が親身になってくれるかは定かではないでしょう。
次に、銀行の担当者は、銀行のノルマに該当しない案件は、無駄な業務になり基本的にいやがります。メリットのない既存貸出先の企業は、返済が滞りなく利益となる金利を毎月遅延なく支払ってくれれば、それにこしたことはないのです。手間のかからない良いお客さんなのです。
わかりやすいのは、新規取引獲得の実績は、新規を獲得した銀行担当者のみの成績であり、次の担当者にはなんの恩恵もありません。もちろん次の担当者も、まだ前任者の取り残したノルマ項目を獲得することでメリットがありますが、担当が3人目4人目となると、重要なノルマになることは刈り取られてしまい、担当者として取引メリットがなくなり、単なる担当先の一企業にすぎなくなります。
いわゆる「One of Them」であり、担当にとって、何十社もある取引先の中の取引メリットのない取引先を把握することなどまずありえないでしょう。
でももし、そうであればどうしたらいいのでしょうか?
まず、企業側としてできることは、銀行の担当者が、より簡単に自分の会社と事業内容を理解でき、融資協議をする業務を簡素化できる資料を提出(4で後述)する『企業努力』なのです。
会社のパンフレットだけではなく、会社の事業内容をきちんとまとめた資料を提出しておくことによって、担当者が変わっても同じ理解をすることができます。
そして、会社の「できる限りの魅力」をできるだけ伝えておくことは損にはなりません。
担当者ではなく、銀行に自分の会社の精度の高い事業説明を提出しておくことで、銀行の転勤人事による自社の事業に対する認識のブレを軽減することが可能になります。また、担当者から支店長まで、共通した理解をしてもらうことができます。パンフレットだけでは、カバーできないことです。パンフレットには、お金の流れなど守秘情報は記載されていませんから、あくまでも会社案内なのです。
こうした問題も解消するものが『資金調達の可能性を高める事業説明と事業計画』となるのです。
そして、その資料が、前述したとおり、見やすく簡潔で、銀行の審査に対してロジカルに作成されていることが重要になります。
考えてみてください。銀行の審査が、担当➡担当課長➡融資課(融資担当/課長)➡副支店長➡支店長(融資金額によっては本店審査部)となりますが、窓口である担当者が、融資を希望する企業から『資金調達の可能性を高める事業説明と事業計画』を受け取り、銀行制定の書式を一枚付けて、前述の融資審査にすすめることができたら、飛躍的に時間短縮になりますし、審査をする各段階の方も案件が理解しやすくなります。ましてや、ここまで整理できている企業という心理的与信が与えられます。
経験上、これだけでも融資決済の+要因にはなります。
4. 銀行が必要とする事業計画
事業計画には、事業推進のための基本的な事業計画、新規事業計画、資本金調達のための事業計画、起業のための事業計画などいろいろと目的に応じた「書き方」や「見せ方」がいろいろあります。
もちろん、一番基本となるのは、実態に則した綿密な事業計画であり、部門部署ごとの目標や対策を組み込んだ分厚い事業計画でしょう。もしかすると100ページくらいの大作かもしれません。
しかしながら、フルパッケージの事業計画では、金融機関にとってはToo Muchです。
担当者も100ページを読み、理解し、審査に必要な要素を抽出し、審査協議書を書く。これをやってくれればいいのですが、時間はかかるし、面倒であれば「机の肥やし」の結末になります。
実際のところ、銀行としては100ページの事業計画を提出されたり、逆に根拠説明のない2~3枚の計画を提出されても、はた迷惑であり、銀行が必要としているのは、銀行が事業分析や市場分析、事業計画の実現可能性と収益見込み(収益返済能力)と資金繰りなど、銀行の必要なピースがあればいいのです。
サマリー版を提出し、100ページはご参考とすればいいと思います。それだけで、担当者の負担は軽減しますし、当方が伝えたいものが簡潔に伝わります。
そして、そのサマリー版事業計画書が、わたくしの推奨する「事業説明と事業計画」であり、会社概要/事業説明/中期計画であり、20パージ目途です。
その内容としては、銀行の必要とする情報が、彼らの制定書式に沿った順番で列記されていると、彼らにとっては、一番手間のかからない最適な事業計画書類になるでしょう。
基本的な構成としては、機軸となる「事業説明と事業計画」(会社概要/事業説明/数値目標及び中期計画)、キャッシュフロー計画書となります。(詳細は第7章ご参照くらさい)加えて、計画の基礎となるデータ資料や実現可能性を証明するエビデンス資料や許可証・免許などを準備します。