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#4. コンサルタントのプロジェクト満足度を決める要因は、プロジェクトのお題ではない二つの要素

1. はじめに

前回までは、少し大きな目線から(しかし若手コンサルタントの視座から)コンサルティングファームを取り巻く環境やコンサルタント個人の成長について説明を試みました。

今回は、働き方改革が叫ばれている昨今。それでも激務だと言われているコンサルティングファームのプロジェクトワークに関して、私が体験もしくは見聞きしている範囲で説明できればと思います。世間一般に流れている情報は、極々普通のプロジェクトワークの特徴を説明しているに留まっており、実態を語る上での何らかの忖度があるように思ったのが、このお題をまとめようと思ったきっかけです。

「つまるところ、コンサルティングファームに入ろうとするような人は、どのようなプロジェクトワークにやりがいを持てるのか」

ということを念頭に置きながら書いてみています。すると、答えはタイトルでぼやかしている二つの要素で決まると結論づけました。ご興味のある方、最後までお読みいただければと思います。

2. 「コンサルタント」という人種の一般的特徴(前提条件)

大袈裟なタイトルを付けましたが、これから記述していく内容は次の3つのことを前提として書いています。この前提に齟齬があると、私が書こうと試みている、プロジェクトワークの満足度に関する逆説性が十分に理解されないと考えたからです。

翻っていうと、この前提から著しく外れる特徴をお持ちの方は、コンサルタントという職種そのものに向いていないか、仮に適正があった場合も、かなり特殊な価値観をお持ちなのだと思います。

2-1. 特徴1) 好奇心

まず何よりも、好奇心が旺盛であることが特徴として挙げられると思います。色んなお題、業界に漠然と興味があり、とりわけ仕事を通じて知的好奇心が満たされることに喜びを覚える、ということであれば十分にこの特徴に該当します。

実際、プロジェクト開始時(あるいはもっと前)に大量のインプットを行うことや、平日・休日、昼夜を問わず、常に何かを考えていることが苦にならないことが、「いいコンサルタント」になるための最低要件とも言えるでしょう。

ですので、知的好奇心を満たしてくれるかどうか、という観点はプロジェクトワークの満足度を考える上での前提の一つに加えておきます。

2-2. 特徴2) 成長意欲

次に成長意欲です。前回の記事でも書きましたが、特にこれからコンサルティングファームに入ろうとする方の大半が、自分の成長角度を上げたいというモチベーションを持っています。

盲目的な成長意欲は身を滅ぼすことを前回それとなく書きました。ですが、日々PDCAサイクルを回して改善していくという狭義の意味での成長は、全コンサルタントに等しく期待されるところです。そういった意味では「プロジェクトワークは、自分の限界値を広げてくれるか」といった意識を多くの人が持っている、ということも前提に置いておきます。

2-3. 特徴3) アウトプット志向

最後は、多少を含みを持たせてアウトプット志向という言葉を用いました。現状クライアントに請求するフィー(報酬)は、多くが時間換算で為されていますが、成果物の質が低いと元も子もありません。場合によっては、要求水準のアウトプットまで引き上げるために、徹夜になったり、最悪の場合はマネジャー以上が巻き取ることも日常茶飯事です。

逆に言えば、アウトプットさえしっかりしていれば、時間はどのように使おうと自由であるとも言えます。同じ質のアウトプットであれば、15分で仕上がろうと、8時間で仕上がろうと等価であるからです。ですので、ある程度コンサルタントとして成熟すれば、アウトプット優先の環境であればあるほど、自分の可処分時間が増えることに繋がります。

もっと言えば、アウトプットの先のアウトカム(結果)を重視する方も当然多いものと想定しています。つまり、検討して終わりではなく、検討結果を基にクライアントの行動変容が為され、具体的な事業の立ち上げや業務改革に繋がることに強い思いのある人が、このコンサルティング業界に入ろうとしているという前提を置いています。

3. プロジェクトの満足度を決める要素

3-1. よくある誤解-専門性が高まる

本題に入る前に、よくある誤解だけ解消しておきたいと思います。それが専門性に関するものです。コンサルタントとしての専門性を、入社すると度々耳にすることになります。入社以来、私も事あるごとに訊かれました。どのような領域で何を成し遂げたいのかと。ですが、若手コンサルタント時代から専門性を明確に意識してプロジェクトを設計すべきなのでしょうか。結論から言うと、そこまできれいに設計して専門性を決められる状況には若手の内はないと思います。

では専門性のことは無視していいのか、そもそも専門性とは何なのか。そのことを、他のプロフェッショナルな職業と比べながら検討していきたいと思います。

医師や弁護士、会計士等と同様、コンサルタントもプロフェッショナルな仕事という位置づけを取っています。しかし、コンサルタントがこれらの職業と決定的に異なるのが、国家的なお墨付きのある資格がないということです。敢えて言えば、経営学や経済学といった学問との関連が強いものの、コンサルタントがMBAホルダーであったり、経済学でPh.Dを持っているかというと、大半はそんなことはありません。

※ミンツバーグ教授による、その道では有名なMBA批判書。細かい論点ではツッコミどころがあるものの、要は経営は総合格闘技のようなもので、再現性を重視するサイエンスの部分だけを信奉してマネジメントをしても、上手くいかないということが書いてあります。

たしかに、プロジェクト最初期においては、巷に広まっているフレームワークやマーケティング理論を使って情報整理をしてみることはよくあります。

例えば、競争環境を整理して考えるためにPEST(Politics, Economy, Society, Technology)で頭出しをしてみたり、マイケル・ポーターの5 Forcesで一旦考えてみる、といったことはあるものの、これらの整理整頓がその後に続く示唆出しに役立つかというと疑問が残ります。

あくまで、フレームワークの類は、有名なものであれば前提知識ですし、多少マニアックだと思われるものは参考情報、といった程度だというのが現場で働いている限りでの位置づけです。

では、コンサルタントの専門性とは何か?

昨今の傾向としては、ある一つの領域(業界や解決手法)を得意とする、といった書き方をすることで、自らの専門性を外部に示す人もいます。例えば、人事領域のプロジェクト経験が豊富、であったり、小売業界に対するコンサルティングサービスを長年にわたって従事、といった書き方をしている人もいます。

たしかに、同業界の複数案件をこなしたり、あるいは同一テーマで複数の案件をこなす中で、外部の人からすると専門性ありといった見做される傾向にあります。ですが、デジタル/テクノロジー領域一つとっても、数年前の知識が陳腐化します。時代の潮流に合わせてその都度アップデートをする必要がありますが、それはどの領域でも同じことです。

あまりこれ以上深堀りはしませんが、目まぐるしく変わるビジネス環境において「ここまで学んだから終わり」ということはありません。

私の理解では「特定領域に強い≠専門性がある」ということです。コンサルタントの強みは、特定領域に限らず、様々なお題に対して、過去のプロジェクト経験や日々仕入れているインプット情報の中から、一段深みのあるインサイト(洞察)を出せることに他ならないからです。

つまり「この案件を経験すると、このような専門性が身に着く」といった発言をもし上位者から聞いたのであれば、その上位者の底がしれます。経験すればすぐに専門性が高まるものなど、大した専門性ではないからです。

一つ、あるいは複数の案件をこなしながら、絶えず学習を続けていく中で得られた気付き。その気付きの積み重ねの先に、思い入れのある業界やお題があり、それらを一つの出発点としてクライアントワークに邁進していくことはあるかと思います。ですので、入社してから2~3年程度の期間であれば、専門性に拘ることは、料簡を狭くすることにしかならず、かえって伸び悩むのではないかというのが私の実感です。

クライアント業界での深い関心・理解は、クライアントの心を掴む上では重要ですが、クライアントが望む外部専門家としてのインサイト提供という意味では、マイナスに働くこともあるかもしれません。

3-2. プロジェクト満足度を高める要素①-師匠

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

プロジェクト満足度を決める一つの要因は、チーム体制(内部)、すなわち誰と働くかです。コンサルティング業界はドライな人間関係だと思われる方からすると、意外な答えかもしれません。しかし、私自身の経験や過去の上司たちとの何気ないやり取りからも、コンサルティング業界こそ徒弟制度が根強く残る業界であると思っています。そして、誰が師匠になるかは、特に立ち上がり期においては重大な影響を及ぼすものというのが私の理解です。

私は4年間で10名ほどのPM(プロジェクト・マネージャー)と仕事をしてきました。その中で、実力が付いたと思えた案件とそうでない案件に明確な差があったことは言うまでもありません。その要素に間違いなく、師匠の力量の違いがあったと言えます。

何がいい師匠と、そうでない師匠の差になったのかをまとめてみます。
(下表)

師匠

他にも要素はあったように思いますが、私が振り返ってぱっと思いついたのは、①クライアントコントロール、②インサイト導出方法、③話し方・伝え方、です。一つずつ補足します。

3-2-①.クライアントコントロール

まずはクライアントコントロールです。これは、ほぼクライアントの期待値コントロールという言葉で言い換えることも可能です。期待値コントロールとは読んで字のごとく、相手(今の場合はクライアント)の期待がどの程度なのかを測り、プロジェクトメンバーに過度の負担がかかり過ぎないように成果物の質・量を調整すること、としておきましょう。
(※もう少し詳しく説明しないといけないようにも思いますが、雰囲気は伝わるかと思います)

繰り返しになりますが、期待値コントロールのためには、次の3つが理解できていることが必要です。

・クライアントが置かれている状況
⇒クライアント内部の意思決定ライン、重要人物の相関図、プロジェクトとして達成したい最低ライン、カウンターパートの思惑、etc...

・プロジェクトメンバーのマンパワー
⇒チームメンバーの経験・スキル、業務遂行上の制約条件、etc...

・ファームとしての方針
⇒どういう案件を継続的に獲るか(≒ブランディング)、プロジェクトの発展性・拡張性、etc...

3点目が一番分かりにくいかと思いますので、補足します。このnoteを書いている現在、コンサルティング業界は活況を呈しており、数多くの引合の中から引き受けるべき案件を選択している状況です。そのような状況の中で、ファームとしてどのような案件を引き受けるべきか、引き受けたからには、どの程度の成果を最低限出すことを目標とすべきかを決めておく必要があります。

そうでないと、とりあえず大口顧客だから引き受け、たくさんのコンサルタントをプロジェクトに配属することになります。そのことによって、すでに不幸なプロジェクトが多数発生しています。(このことは、後述します)

プロジェクトマネージャーが、期待値コントロールできるように、常に上記3点を意識できているかが、師匠として優れているか否かを判別する一つの軸になるかと思います。

翻って、反面教師とすべきなのが、とにかく御用聞きとなってしまっているプロジェクトマネージャーです。そのようなPMの下で働くと、検討の範囲が何度も変更され疲弊しますし、クライアントの意向を聴きすぎるあまり、末期においては「そもそもこんなことをしていて良いのか」と自問自答せざるを得ないような内容にプロジェクト内容自体が成り下がることもあります。

時にはクライアントに対して覚悟をもって「おっしゃることは分かりますが、〇〇すべきです」と言い切れることも大切です。

これらの模範とすべき点を見取り稽古できるかどうか。さらに言えば、師匠自らが若手の伸びしろに気が付いて引き上げてくれるかどうか。そこが、プロジェクトの満足度を決める最大の要素であるように思います。

3-2-②. インサイト導出方法

次はインサイト導出方法です。標準的な進め方は、概ねこのように進むかと思います。

抽象⇔具体

ポイントは、抽象⇔具体を自由自在に行き来する力です。これは、次の「話し方・伝え方」にも関係しますが、これが上手いか稚拙かが思考のキレを決定づけます。

体感するのが一番ですが、これからコンサルティングファームに入ろうとする人は、模範とすべき抽象・具体の使い手がいないかもしれないため、こちらの本を推薦しておきます。

3-2-③. 話し方・伝え方

最後は、話し方・伝え方です。この点については、概ねこのようなチェックポイントがあると思っています。

・声の大きさ、抑揚は程よいか
・聴き手の反応を見ながら話せているか
・話の抽象度が調整されているか
・(スライドがある場合)各スライドでの目的(単なる情報提供か、行動変容を促すものか)に沿った話し方になっているか
・その場での質疑応答に当意即妙の対応ができているか

また、クライアントにどのように伝えて行動変容していくかについては、概ね二つのパターンがあるようです。

一つが、上から目線で「~~すべき」とべき論を振りかざす方法。もう一つが、コンサルタントがヒントを出しながらクライアントを導いていく方法(指導碁などをイメージされると良いかと思います)

※この二つのアプローチについては、こちらの本に詳述されています。McKinseyとBCGの両方に在籍された著者による技法の開陳ですが、読み応えがあります。

3-3. プロジェクト満足度を高める要素②-クライアントのやる気

手短に要素②について説明します。プロジェクトは、当然クライアントあってのプロジェクトです。ですが、クライアントにも様々な立場の人がおり、残念ながら十分なモチベーションを持っていない人も一定数います。

例えば、新規事業を検討する案件において、この事業で一発当てて社内での地位を高めたいという野心的なクライアントがいる一方で、失敗したくない気持ちが先行して、無難な内容でまとめて形だけでも新規事業が立ち上がればよいと思っているクライアントもいます。

当然、前者をクライアントとするときはコンサルタント側にも相当の覚悟が求められますが、後者のクライアントを相手にすることほど「暖簾に腕押し」だと思ってしまうことはありません。

仮にプロジェクトマネージャー相当であれば、クライアントに発破をかけて奮起させることも出来るでしょうが、若手コンサルタントに限って言うと、ごく一部の人を除いてはそこまで踏み込んでいけないのではないかと思います。つまり、クライアントのやる気の有無は、コントロール困難な要素でありながら、プロジェクト満足度を大きく左右してしまいます。

私も過去に「とりあえず新規事業に任せられた」クライアントがいました。もちろん、彼も最低限すべきことはこなしていました。定例会議に参加する、資料に目を通しておく、関係各位と日程調整をする、etc...

しかし、彼の中に明確なWill(何かを成し遂げたいという意思)が感じられず、話が具体的になっていけばいくほどボロが出てきました。例えば、社内合意形成においてプレゼンで十分な理解が得られなかったり、反対意見を押し返せずに再び検討段階に戻ってしまったり、そもそも予算を確保できなかったり…。

その案件では、契約内容に定めたアウトプットはしっかりと納品できたものの、その納品物をベースにして行われるはずだった事業は結局実現せずに幕引きしました。3か月にわたる検討は、お互いの時間を空費しただけで終わったのです。

3-3-1. クライアントのやる気という不確定要素を少しでも下げ方法

ですが、私は幸いなことにクライアントのやる気が比較的高い案件に入れたように思います。その理由は、先ほどの徒弟制度に起因します。

私は入社後、早い段階で師匠と仰ぐ上位者が決まりました。その師匠が、私のプロジェクト配属に関して「いい意味で口出し」をしてくれていたお陰で、その時々の案件で、コンサルタントとして必要な経験を積めるように調整してもらっていました。(例えば、アナリスト相当ではしっかりとした分析ができる案件。シニアコンサルタント相当ではクライアントとの窓口役としてプロジェクトをリードできる案件といった風に)

予め師匠のスクリーニングを受けたプロジェクトに入れたことの意味は大きく、たくさんの人員が必要となる労働集約型の案件を回避することに繋がりました。

繰り返しますが、大手コンサルティングファームは今、売上拡大至上主義に陥っているきらいがあります。従来は引き受けなかった水準(≒やる気)のクライアントからの引合を、売上拡大のために引き受けているのです。

そして、その案件を実行するべく、新卒採用枠の拡大と中途未経験者の積極採用を進めているのです。大量に採用された人たちに対して、継続的に給与を支払うために、従来引き受けなかった案件を引き受け続けており、それによって売上は順調に伸びています。

コンサルティングファームの生存戦略としては成功していますが、個々の案件の内容やその案件に従事するコンサルタントの満足度は当然ながら下がっていくことが目に見えています。

そのことを、当然執行役員(プリンシパル、パートナー層)は重々承知しています。ですので、この流れ自体を逆行させることはしませんが、積極的に成長させたいと思う弟子には、そのような案件には極力入れないよう便宜を図ることがみられます。

ですので、力のある執行役員の信頼を、プロジェクトワークを通じて勝ち取ることが、プロジェクト配属のリスクを下げることに繋がります。

4. まとめ

ここまで議論してきたことをまとめます。

若手コンサルタントの成長機会、達成感を感じさせる案件は、案件内容そのもの(≒お題)では決まりません。

それよりも大切なのは、自分ではなかなかコントロールがしにくい、プロジェクトマネージャーの力量とクライアントの熱量だということです。

幸い、若手コンサルタントの内は比較的短サイクルでプロジェクトが変わります。そのため、「この人は!」と思う仰ぐべき師匠を見つけ、師匠に認められ、師匠の息のかかったプロジェクトに入れるように社内営業をすることで、事態は少しずつ改善できる可能性があります。

5. 次回以降予告

転職先の入社日まで残り半月あまりとなりましたが、それまでに次のトピックは書いておきたいと思っています。

・コンサル経験3~5年程度の転職市場の実態
・私自身が身に着いたと思うスキル・マインドセット
・昨今、業界を賑わせているDX(デジタル・トランスフォーメーション)の実態
・スキルや専門性よりも大切な組織の心理的安全性


大学院での一番の学びは「立ち止まる勇気」。変化の多い世の中だからこそ、変わらぬものを見通せる透徹さを身に着けたいものです。気付きの多い記事が書けるよう頑張ります。