#2. 若手コンサルタントから見たコンサル業界の地殻変動とは?
1. はじめに
前回記事の続きです。主にこれからコンサルティングファームを目指そうと考えている方に向けた情報提供を目的として、いくつか記事を書いていきます。(もちろん、私自身のコンサル経験の棚卸も兼ねています)
今回は、業界変動について実体験も交えて記録に残していきます。前回示した全体マップだと一番上の部分ですね。
NewsPicksを頻繁に見ている人であれば、ここ数年間で起きているコンサルティングという仕事の変化については、ある程度ご存じかもしれません。NewsPicks有料会員の方は、こちらの一連の記事を読むことで、コンサルティング業界の大きなトレンドを把握することはできるかと思います。
これらの記事は、コンサルティングファームのパートナーやプリンシパル(執行役員)クラスの人々の視座で語られ、整理された業界動向であり、記事が連載されていた当初私も何気なく読んでいて、うなずいていました。
本記事は、コンサルティングファームの大きな業界動向を、スタッフ層であった私の視座から再構築したものとなります。具体的には、日々マネジャーから共有される情報(潜在的なクライアントに対する営業状況や所属ユニットの業績、プロジェクトワークの過程で共有される小ネタ)や実際に複数のプロジェクトワークを通して見聞きしたこと、他ファームで働いている若手の友達の話をベースに書いています。
もちろん、これが業界動向のすべてだなどと大風呂敷を広げるつもりはありません。網羅性のある業界動向は、すでに様々な媒体を通して執行役員相当の人たちによって語られています。ですので、巷に溢れかえったコンサルタントの中の一見解として目を通していただければと思います。
2. 全体像
私の目線から見た業界動向を、物凄くシンプルに図解すると、上図のようになります。少しばかり補足してから各論に入ります。
コンサルティング業務は、クライアントあっての仕事です。そのため、クライアントの抱える課題に着目することが、業界動向の理解を掴む上で最重要となります。
では、実際にコンサルタントが支援をするクライアントが置かれた状況はどのような状況か?
一言で表現すると「不確実性の高い事業環境」となります。
俗に今の世の中は、VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)と呼ばれます。具体的には、グローバルに商取引のある企業の取引相手企業が属する国の通商政策が変わることや、気候変動やパンデミックの発生によって経済・社会が停滞すること、あるいは画期的な技術が開発されることによってビジネスのゲーム自体が変わること、といった地球規模で見たPEST(政治、経済、社会、技術)が挙げられるでしょう。
これでは少し一般論過ぎるので、もう少し解像度を上げてクライアントが直面している不確実性を挙げるなら、この二つが真っ先に浮かびます。
1.「業界」の垣根を越えてくるかもしれない競合他社の存在
2.仮にデータがあったとしても捕捉しきれないほどに多様な顧客のニーズ
一点目については、Googleが自動走行自動車を開発したり、Appleがヘルスケア事業に参入したりといった動きが代表例でしょうか。
昨今、一見すると自社とは何の関係もなかったかに思われた企業が競合になる可能性が否定できません。そういった動きへの対抗措置として、例えばMaaS領域やライフサイエンス領域においてはコンソーシアムに加盟して協業相手を探し、高付加価値かつ唯一無二のサービス提供プレーヤーになることで生き残りをかけている企業もあります。
※MONETコンソーシアムは、MaaS事業を手掛けようと思っている企業群のアイデア/事業創出の場で、PeOPLe共創・活用コンソーシアムは、産学連携による機微情報の取り扱いも含むヘルスケア事業の研究・実証の場です。詳しくはリンクを参照ください。
なぜそこまでするのかと言えば、顧客を知るためのデータは世の中に溢れてはいるものの、それらを実際に咀嚼し、活用して、自社の売上アップに繋がる製品やサービスを提供するところまでには至っていないと、企業の人たちが薄々気付いているからだと思います。
では何をすべきか?となった時に、何から着手すべきか分からない。だから外部から意見なり知恵を貰って少しでも状況を好転させたい。といった期待からコンサルタントに依頼するといった流れになっているのでしょう。(実際に営業活動をマネジャー以上の人たちとやっているわけではないため、多少の想像が入っています)
これらの全体像を踏まえて、各論に触れたいと思います。
3. クライアントの期待
はじめに、上図の人のアイコンと吹き出しで示したクライアントの期待に関して、書いていきます。今、クライアントとざっくり書いていますが、私の経験則的にはクライアントは大きく二種類に分かれると思います。(もちろん、異論反論の余地はあるかと思いますが、これから書く説明にも一定の説得力を持たせるつもりです)
違いは何かというと、業界における立ち位置です。業界No.1~2なのかそれより下なのかが、まず何よりも大きな違いです。何をもってNo.1とするかも議論は分かれると思いますが、概ね売上シェアでNo.1であると考えて下さい。
3-1. 業界No.1~2の期待
業界No.1~2は、当たり前ですが、追いかける背中がありません。したがって、自社の取り組みが、そのまま業界全体の大きな流れを作る可能性があることを自覚しています。何度か行ったプロジェクトワークを振り返って思うのが、戦略案件であれ、新規事業であれ、業務改革であれ、他業界の事例こそ参考にするものの、業界内でみれば新たなスタンダードを設定することに意欲的なクライアントが肌感覚として多かった印象です。
もちろん、その分案件の難易度も高いですが、コンサルティングファームを志す人が一般的にイメージするコンサルティングワークにかなり近い働きが期待されます。
では、このような案件が多いかといわれると、減少傾向にあると言わざるを得ません。それはなぜか。思いつくだけの理由を列挙していきます。
(なお、ここで列挙する理由は業界No.1~2のトップマネジメント層の思考を想定しています。それ以外については、改めて書きます。)
■元コンサルタントが、事業会社の経営企画や新規事業の立ち上げのメンバーとして入り込んでいる。つまりコンサルティングファームに依頼するのではなく、コンサル人材を採用して自社で推進をしている
■事業会社がコンサル人材を採用しているわけではないが、巷に溢れているコンサルティングのハウツー本を参考に、社員自らが事業企画や中期経営計画策定を行っている(会社の最もコアとなる活動であるため、外注するという発想がない)
■コンサルタントが提示するファクトベースで積み上げた妥当な結論(過去の事例、他社・他業界の事例を基に構築した結論)は凡庸であり、直感的に言ってイケテルとは言い難く、結局経営トップの意思(思い入れ)が大事であると気付き始めている
■(二番目と重なる部分もありますが)戦略部分は自社で、戦術以下をコンサル等の外部専門家の意見を取り入れるといった方針を採っている
■いわゆるウォーターフォール型で意思決定をして、製品・サービスを市場に投下していくのではなく、アジャイル型で試行錯誤をしながら製品・サービスを改良していく事業の推進において、きれいな資料や絵は要らず、実践の場での仮説検証に時間を割きたい
このあたりが理由で、そもそも業界No.1~2あたりは、コンサルをあまり使わない、あるいは使うとしても本当に信頼しているコンサルタントにピンポイントで依頼をする、といった使い方をしているのではないかと思っています。
そのため、業界のルールを決めるようなクライアント企業の案件は、絶対数が少なく、またあったとしても要求される水準が高いため(教養+経験+デジタルテクノロジーへの深い理解)、かなりコンサルタントとして成熟していないと期待に応えられない、というのが現状かと思います。
3-2. 業界No.3以下の期待
業界No.3以下は、まず業界内で追いかける背中があります。実際、追いかけるのか差別化してニッチ戦略を採るのかはあると思いますが、いずれにしても、業界内に模範(≒説得材料)があり、業界外に目を向ければ更にたくさんの模範(≒説得材料)があります。
一文に二度も(≒説得材料)と書いたのには、理由があります。私は業界No.1~2企業のプロジェクトの末席を汚した後、No.3~の企業のプロジェクトに参加したのですが、仕事を進めていく中で抱いた違和感がありました。
それが、他社事例に対する感度の違いです。新卒1~2年目では議事録を書く機会も多かったので記憶が鮮明なのですが、定例会議の場において、業界No.1~2の主な関心事は世の中全般のトレンドや顧客の変化に向けられていました。上司はクライアントからの素朴な疑問に対して、幅広い知識とこれまでの経験を引き合いに出しながら議論を楽しんでいました。そのため、定例会議の場は、新たな気付きや洞察が出てくる、知的生産性の高い状態でした。これらの一連のやり取りの中で、少なくとも同業他社の事例が出ることはほとんどなかったと記憶しています。
他方で業界No.3以下はどうかというと、定例会議に向けて実際にまとめた資料の相当数が「他社の取り組み事項」でした。もちろん、クライアント自身も「他社の真似事をするわけではない。他社の取り組みを踏まえた上で、自社としての独自の方針を立てる」と発言されていましたが、新しいことを始めるための起点・基準として、まずは他社の動向を細かく知りたいというニーズが高かったように思います。
では、なぜ他社の動向が気になるのか。それは、社内合意形成の過程で説得材料としての他社の取り組みへの理解が求められるからです。論法としては「今後、X部門は〇〇をすべきだ。なぜなら、AでBでCだから。例えば他社YやZの同部門ではこのような取り組みをして成果を出しており、わが社においてもαという点を変えれば出来る余地があると思います。」といった具合です。
そもそも他社の取り組み事例程度のちょっと調べれば分かるようなことは、業界内の人の方が詳しいのではないか、といった疑問を持たれる方もいるかもしれません。しかし、私が経験した限りでいうと、同業であってもお互いのことは意外に知らないというのが実感でした。ですので、プロジェクトワークにおいても、若手コンサルタントは、他社事例を調査し、まとめ、示唆を出すという作業を繰り返すことになります。
少し長くなりましたが、業界No.3以下の期待をまとめるとこのようになります。
■業界No.3以下からの案件の依頼は、堅調にあり、依頼事項も多岐にわたっている(次節で具体的に書きます)
■しかし、クライアントのメンタリティ(追いかける他社があり、上司を説得する材料として突飛なアイデアは出しにくい)を踏まえると、他社の取り組みに若干の修正を加えたアイデア程度でないと受け入れられない
■また昨今、実行に重きが置かれており、新規事業や業務改革を実現するためのシステム導入に関連する案件が増加傾向にあるが、これも他社の取り組みを参考にしながら実行される
4. コンサルタントの提供メニューの多様化
だいぶ分量が多くなってきましたが、ここからは手短に記述していきます。
大きなトレンドとしては、グレイヘアー・コンサル時代(経験に基づくコンサルティング)から続く純粋な戦略案件の割合が相対的に減少し、戦略を実現するための実行にクライアントの関心の軸が移行しつつあります。
(いろんな書き方があると思いますが、一例として)
そのため、ピラミッドでいうところの戦術と組織に焦点を当てた、あるいは戦略からの一気通貫の中でこれら両方を扱う案件が、コンサルタントの提供サービスとして増えているように思います。
具体的には、以下のようなサービスメニューです。
・実行支援
・業務改革(BPR=Business Process Reengineering)
・IT導入(ERPやCRMを既存のインハウスシステムから切り替える等)
・人材・育成
・コストダウン
・変革
・事業再生
・M&A(Due DiligenceやPMI=Post Merger Integration)
これらに、デジタルの要素を組み合わせたものがお題として増えてきているといった実感があります。コンサルをこれから志される人からすれば「様々な経験を積める」という印象を抱かれるかと思います。ですが、実際は後述するプロジェクト難易度の二極化に伴い、ベテランと若手で関与するメニューが明確に切り分けられている、という印象を受けます。
5. プロジェクトの難易度の二極化
おおよそ言いたいことは、上図で示した通りです。
■これまでコンサルティングファームに依頼されてきたファクトベースで仮説を立て、検証するというサイクルを繰り返すことで一定の成果を出せていた図の真ん中付近の難易度の案件が空洞化
■他方で、デジタル化の潮流を深く理解した上で為し得る事業戦略立案や業務改革の依頼は一定数あるものの、難易度が格段に高く若手コンサルタントには殆ど任せられない。よってこれまでのコンサル経験で練磨されたベテランを中心にプロジェクトが組成され進められる
■残った案件は、いわゆる実行支援にあたる部分であり、ITシステム/ツールの導入や社内合意形成資料の作成、大規模プロジェクトの進捗管理(PMO)であり、これらを若手が担う
※あらかじめ断っておくと、本来的なPMOの役割は多岐にわたり、クライアント業務の深い理解と人間力が問われる泥臭くも重要な業務です。次回以降の記事で詳述しますが、このようなPMOを担うのも、ベテランのコンサルタントが現状行っているというのが、私の理解です。
今後書こうと思っている内容とも重複しますが、クライアントのニーズに応え続けるために、ベテランがより高難度のパートを担い、ある程度方向性やスコープが決まり、難易度が下がったパートを若手が担う、という分業体制が、同一クライアントの大規模案件では起こっていると私は理解しています。
元々分業体制だったと言われれば、その通りかもしれません。しかし、少数精鋭のプロジェクト体制において、プロジェクトマネジャーが営業活動段階で立てた仮説に修正を要する場合、ほどほどの難易度の案件(他社や他業界の事例を紐解いたり、確立された手法に基づき一定の確からしい結論が出せそうな案件)では若手コンサルタントにも、論点整理をしたり、解くべきイシューを絞り込んだり、示唆を出せる余地がまだまだあったように思います。
しかし、ある程度システムを導入する実行段階であったりすると(上図における難易度が低めの案件)、そもそも前提が誤っているといった部分に思考を至らせなくてよく、愚直に実行計画通りの作業をこなしていく方が期待されたりします。
また、経験がない若手コンサルタントが、直感的には正しそうだけれども、ファクトベースで見た時には説得材料が揃っていないアイデアを出した場合、一蹴されて終わるのが関の山でしょう。
それと同じアイデアをベテランのコンサルタントが出した場合、全く異なる反応になるような気がします。つまりクライアントの方で、ベテランコンサルタントがこれまでのファクトベースの「正解」を、今後のテクノロジートレンドや過去の経験則からくる洞察を踏まえて修正していると、解釈してくれる余地がある、と言うことです。
言い換えれば、若手がどうしても身に着けられない経験という点で、ベテラン勢の方が説得力があり受け容れられる可能性があります。
まとめると「何を言うか」ではなく「誰が言うか」ということが重要視される時代に逆戻りしているのではないかということを実際に働いてみてヒシヒシと感じていました。
現在の多くのコンサルティングファームでは、本当に難しい案件は若手に任せられなくなってきている、といった状況になっているのではないかと思っています。
そして、ほどほどのレベルの案件があるかというと、絶対数が少なくなっており、むしろ実行までをご支援する案件(この場合、スケジュールや手順に従って、確実に進めていく力が求められる)に若手コンサルタントは従事することになり、いつになったらプロジェクトマネジャーとの差が埋められるのか…といった環境が出来上がりつつあるのではないでしょうか。
6. 次の記事の内容予告
次回書こうと思っていた「コンサルタントは爆速で成長できるって本当か?」という問いの答えは、ほぼ出してしまったようにも思います。ですが、もう少し深く掘り下げて論じてみたいと思います。
興味のある方は引き続きお待ちいただければと思います。
※本記事で、グレイヘアーコンサルやファクトベースコンサルといった言葉を断りなしに使いました。この点の理解を深めたい方は、上述のNewsPicksの記事をご覧になるか、以下に挙げる参考図書をご覧ください。業界理解の読み物としても面白いです。特に2冊目は、McKinsey&CompanyとBoston Consulting Groupの両戦略ファームを経験された著者による、両者の比較を通したコンサルティング業務の面白さ、難しさ、型の多様性等を知ることができます。
大学院での一番の学びは「立ち止まる勇気」。変化の多い世の中だからこそ、変わらぬものを見通せる透徹さを身に着けたいものです。気付きの多い記事が書けるよう頑張ります。