才谷識

思想と表現。

才谷識

思想と表現。

最近の記事

善いことと悪いこと。どちらが好ましいか?

 問われつつ、問う。  「善いことだ」と、ある声が応らう。獣に追われる少女を助ける。当然だ。しかし、あるいは彼女が、多くを欺き、殺す胚芽であるならば?  意識の外とで成す悪こそ、まさに悪そのものであるところの悪である。では、手の届くところで、意志を以て「殺す」ことにも、やはり理はあるのだろうか?  かくて眩暈に、燈台の許とにぽっかりと空く闇へと思い至る。悪徳こそ徳であるように思われる。血の誘惑にふれるなかで、しかしある声は、「忘れる勿れ」という。悪とは、まごうことなく悪であり

    • "Bauklötze"(Rie作詞、澤野弘之作曲)試訳

       『進撃の巨人』は未だ読んでも観てもいないが、そういう人が訳したものとしてご照覧頂ければ。なお、翻訳、ことに詩のそれに「解説」は野暮であるという仮説の許と、訳者の読みを前提した、大幅な意訳を施している点も留意されたい。以下本文: Es ist wie das Spiel mit Bauklötzen 丸でつみ木遊びかのように Ich mauere mit Steinen vorsichtig ぼくは悚然 積上げる Es ist wie das Spiel mit Baukl

      • 「わかっていないこと」を書く意味はあるのか。

         畢竟、このことに悩んだのが去年の僕である。そして今僕は、意味はなくとも意義はある、という仮説を措いている。これが今年の僕である。  調書のような、遺書のような、観念的切迫をもった記述を行うのが論文だとするのならば、僕はそれから降りる。審問も、葬儀も、すべて馬鹿馬鹿しいものだとわかった。先に旅立つひとびとは、特段変わったようすもなく、死に、死に、死に続けることによって生きている。ひとりでようやく死ねるのかもしれないと思っていたのが馬鹿みたいじゃないか。救われるだなんて。  で

      善いことと悪いこと。どちらが好ましいか?