善いことと悪いこと。どちらが好ましいか?
問われつつ、問う。
「善いことだ」と、ある声が応らう。獣に追われる少女を助ける。当然だ。しかし、あるいは彼女が、多くを欺き、殺す胚芽であるならば?
意識の外とで成す悪こそ、まさに悪そのものであるところの悪である。では、手の届くところで、意志を以て「殺す」ことにも、やはり理はあるのだろうか?
かくて眩暈に、燈台の許とにぽっかりと空く闇へと思い至る。悪徳こそ徳であるように思われる。血の誘惑にふれるなかで、しかしある声は、「忘れる勿れ」という。悪とは、まごうことなく悪であり、悪でしかない。つまるところ、善いことはいま、ここに、直接与えらているのだ。
「だとすればどうしてここは、いまだどこでもなかったここでないのだろうか?」
――吐気と眠気の交差点で、ぼんやりと、かく惑う。
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