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シリコンバレーでは「引継ぎ」がないというのは本当?その仕組みとは?

こんにちは。シリコンバレー人事のTimTamです。

例えば、日本では社員が会社を辞める前に、どれくらい前に会社に通告して、退職準備に入るでしょうか?はやくて1か月から、大体2か月前というところでしょうかね。そしてその期間は、会社が後任者を特定して、異動の手はずを整えたり、いわゆる仕事の「引継ぎ」期間として、できるだけ会社に迷惑がかからない形で辞め、最後は送別会などがあって円満退職、という感じではないでしょうか。

シリコンバレーのあるカリフォルニアでは、大体どれくらい前に辞めるのか、そして「引継ぎ」などはどうなっているのか?ご存知ですか?

シリコンバレーでの一般的な慣習は、'2 week Notice'、つまり2週間前に上司に辞める旨を告げるのが一般的です。ですが法律上は、at will employmentといって、いつでも会社は人を解雇できるし(注)、いつでも社員は会社を去る事ができます(注:解雇の方法はいくつかあります。パフォーマンスが理由で解雇する場合は、実際には、人種や年齢、性差別だと後から訴えられる事がないように、入念に弁護士と確認の上で進めますので、そういう事もなく自由に即日、社員を解雇する事が起きる事は普通はありません)。

そうです、テクニカルには、「上司に今日で最後です、さようなら」と言って、その日で辞めるという事もできるわけです。

この辺はいろいろなパターンがあります。シリコンバレーは実に狭い世界なので、業界における評判を普通は気にします。キーになるプロジェクトをきちんと完遂させてから、次に移りたい、というケースは、2週間を過ぎることもあります。逆に、かつて私が直接経験した最悪のケースは、入社して数日でドロンされるという非常にunethicalな(非倫理的な)事がありました。

このケースは本当に最悪で、入社してからもどうもその社員は集中しておらず、たまに行方不明になって、長い間席に戻ってこなかったりと、全然engagementがみられなかったのです。そこで自分のオフィスに呼び、何か困ったことでもあるのか、anything I can help you? と聞いてみたところ、実は、「他社からオファーをもらったのでそちらに行く。」といい、「カウンターオファーがあったら教えてくれ」と更に入社してまだ何も仕事もしていないのに現在の給与やタイトルを交渉してきたのです。

彼のポジションは非常に採用に苦労したポジションであったこともあり、入社時に、sign-on bonusといって、オファーを受けてくれたら2万ドル(約2百万円)払うよ、という契約を結びました。そこに、1年以内に辞めたら会社に返金すること(いわゆる'claw back clause')という条項も明記してあります。

彼はそれも返金しませんでした。カリフォルニア州の法律は、従業員に大変有利なものになっており、一旦会社が支払ったものは簡単には取り返せないのです。オファーの時の契約書に、「一年以内に辞めた場合は返金する」という項目を入れて、それにサインさせてはどうか?と思うかもしれませんが、それだけでは不十分なのです。返金方法と返金日を具体的に明示し、そこに改めて社員の同意(サイン)を取得する事が求められます。

この社員、その日であらかじめドロンする予定だったのか、すでに荷物も全然なく、前日にはほぼ私物は持ち帰っていたものとみられ、昼前に辞めると言って私のオフィスを飛び出したきり戻ってくることはありませんでした。

この時に、色々と弁護士も交えて調べてみましたが、やはり法律上は何の問題もないという事でした。辞めるといって本当にその日で最後だったケースとなりました。

話を本題に戻すと、ポイントはとにかく、その日に即日辞めてドロンしても法律上は何にも問題ないという世界の中で、平均在社年数も数年、そんなに人がクルクル入れ替わって、いったいどうやって回しているのか、と思いますよね?

ずばり、シリコンバレーでは「引継ぎ」なるものは存在しません

そもそも、前任者がいるうちに、後任者の採用をかけることは仕組み的に起きることは稀なためです。前任者が転職をして2週間Noticeでやめてしまったりして、後任の人の採用がきまって入社する事には前任者などすでにいません。また、社会全体でジョブ型になっており、採用されてくる人たちはすでにその道の専門家だからです。また、ジョブ型ゆえに、前任者がやっていた仕事は日本のように、ハンドルしている人により大きく職務内容の種類自体が異なっている度合も比較的低いです。

これは、会社が大きくなればなるほどその傾向が強く、会社が小さくなっていってIPO前のStart upとかになると、一人の人が色々な事をこなさなくてはいけないため、ジェネラリスト的傾向がみられる場合もありますが、それでも基本的には、みんなそれぞれ何かの専門家です。

日本式ジョブローテーションでは、前任者がおり、後任の人はその分野の専門家でもなく初めてだったりする場合もあるわけで、オーバーラップ期間を設けてちゃんと業務引継ぎを済ませた上で、前任者が次の職場に異動するという感じですね。

シリコンバレーでは、新たに社員が入社をしてくると、その会社のビジネスや、組織の事、現在もっとも課題になっている事、過去からの経緯などをささっと理解します。勿論この時には、周囲の同僚や上司の協力が必要で、色々と教えてもらう事が発生します。そして、自分の専門分野については、その人のこれまでの経験と知識により、あるべき理想像というものがあるので、その理想像と、部署の方針などをすり合わせて、自分なりのプランを作ります。この時、自分の前任者がどのようにその仕事をやっていたかをそのまま踏襲することなどはあまり気にしません。常に今の状況をよりよくするというのがミッションなので、あくまでも理想像と、現状のギャップを把握したら、それをどう埋めるかに注力します。

というわけで、日本のように、1ヶ月もかけて前任者から悠長にゆっくり引継ぎなどうけて少しずつ戦力化していくなんていう習慣はなく、入社してきた人はまさに「即戦力」となります。月曜日に入社して、その週の金曜日にはもうプレゼンをやっているとか、珍しくないです。もちろん、社員のレベルにもよります。ジュニアなレベルの担当者であればもう少しゆったりしている場合もあるかもしれませんし、上司に頼って仕事を進めていきます。Director以上など、ある程度シニアになると、最初の30- 60 daysで自分なりのプランを作って上とすり合わせするなどは、優秀な社員によくみられる傾向です。

とにかくゴールを定める。プランを作る。そしてそこに向かってブルドーザーのように進む。こういう狩猟民族的な動きをするので、かなり個性の強い、イケイケの人が入ってきたりすると、一緒に仕事をしていて本当に疲れることもあります(苦笑)。

ちなみに、その昔私が東海岸の田舎で働いていた時はこんなことは全くありませんでした。もっと全体がゆったりしていて、4時とかになると今日やらなくてはならないことがあるのに、帰りだす社員。お気楽だな~とか思ったものです。ところが、シリコンバレーに越してきてからというもの、そのエネルギー、スピード、優秀な人材に圧倒されっぱなしで、こんなにもカルチャーが違うものなのかと驚いたものです。勿論、会社によってカルチャーは異なりますが、一般的に、猛スピードで確実にこなしてprogressしていく傾向は、ハイテクグロース系の会社に見られるかもしれません。これについてこれないとか、value addがない、と思われれば、あっという間にクビになるという会社も多いです(カルチャーによるのですべてではありませんが)。その期間は、入社して数か月ということもあります。

如何でしょうか。日本は日本で、働きにくい独特の文化があったりもしますが、ここ(シリコンバレー)はここなりに、違う種類の難しさがあって、結局どこにも楽でおいしい仕事なんて存在しないんだなというのが現実かもしれませんね。

ではまた。

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