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YELLOW ⑦

 ​​​​​どれほどの時間が経過しただろう、


 気がついたときには

 さっきまで響いていた合唱曲は、


 映画の中の背景音楽のように

 ずっと後方へと退き、


 ほとんど聞こえなくなっていた。


 そして最後まで、


 僕の耳元すぐ近くで

 この唄を歌い上げていたのは、


 たった一人の女性。


 他のすべてのものの歌声が

 どこかへ消えてしまったあとも、


 彼女だけが たった一人、

 僕に向かって

 歌いかけてくれているようだった。


 ・・・いや、 違う。

 そうじゃない。


 皆の歌声が

 ぎゅっとひとつになって収束して

 彼女の歌声になった、


 という方が

 おそらく正しいのだ。


 しかし、

 耳を澄ませば澄ますほど、


 その歌声は

 僕の元から遠ざかり

 すり抜けていって


 次第に

 小さくなっていく。


 何かの幕が降りたみたいに、


 あたりには

 完璧な静寂が訪れる。


 ・・・もう何も

 聞こえてはこない。




 ​​​​​マンリョウの丘を訪れてくださり、  本当にありがとうございます。  私たち一人ひとりの、心の中の草原が、  やさしい風によって、  結びつき、つながってゆくことを、  心から願っています。