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アナログレコードのある暮らし。

この記事はDP9アドベントカレンダー21日目の記事です。

こんにちは。20年度入会のlouisです。ほぼ使用していなかったnoteのアカウントを掘り起こし久々に稼働させました。


ここ数ヶ月、アナログレコードの収集がマイブームになっています。以前から1年に多い時で2,3枚買っては聴いていたのですが、ここにきてその収集が趣味に移行した形です。

ストリーミング全盛の時代に逆行するかのするように、アナログレコード(※1)の売り上げは2010年代以降増加傾向を見せています。とりわけ、2020年には売上高の前年比がアメリカで46%、イギリスで30%(※2)を記録するなど、その勢いは止まることを知りません。CDの売り上げがめっきり減った最近では「ストリーミング配信とレコードのみのリリース」という売り方も散見されるようになりました。

今日はそんなアナログレコードの世界の一端を、私個人の観点からご紹介したいと思います。最後までお付き合いいただけると幸いです。

はじめに:「アナログレコード=音が良い/悪い」は本当か?

私を含めアナログレコードに魅せられた人間は、その何に惹きつけられるのでしょうか?ーその理由の一つとしてよく挙がるのが、「デジタルな媒体には無い音質」です。それはしばしば「温かみのある音」「まるで生演奏を聴いているような臨場感」などと形容され、しばしば「デジタルとアナログ、どちらが高音質か?」という不毛な議論に持ち込まれがちです。

この「デジタルvsアナログ」論争、ハイレゾ音源の普及が進んでいる2021年現在も決着を見ないわけですが、個人的には「媒体ごとに特性があり、その好みは主観による」、というだけの話だと思っています。カメラを類似の事例として比較するならば、もともとフィルムカメラの代替手段としてデジタルカメラが開発された経緯があるにもかかわらず、結果的にそのレタッチが好まれてフィルムカメラが再評価され、両者が共存している状況と同じように考えてもらえればよいかと思います。(カメラにはあまり明るくないのでこの程度のザックリした認識しか無いのですが、もし間違っていればご容赦ください)

以上を踏まえてアナログレコードの音質上の特性を挙げてみると、「低音に強い」「収録できる音量の幅(ダイナミックレンジ)がよくも悪くも狭い(※3)」等があります。各々についての詳しい説明は割愛しますが、これらは決してプラセボ効果ではなく、アナログレコードの記録・再生の原理をデジタルな音源のそれと比較した際に説明がつくものです。

また、こうした事情から、録音からミックスまで全てソフトウェア内で完結することの多い最近の音源であっても、アナログレコードに刻めばちゃんと「レコードの音」になってくれます。

前置きはこのくらいにして、ここからはアナログレコードの楽しみ方について具体的にお話ししていきたいと思います。

アナログレコードのある生活その1:コレクションとして

これが一番ポピュラーな楽しみ方でしょう。自宅に再生環境が無くてもジャケット目当てでコレクションしている、なんて話も聞きます。
ジャケット以外にも、封入されている特典が多い、1枚ごとにシリアルナンバーが入っているなど、コレクターの心理をくすぐる仕掛けが多いのも特徴です。
(このあたりはCDにもある程度当てはまると思うんですが・・・CDジャケットとLPレコードでジャケットの大きさを比較すると面積にして6倍以上の差があるため、このあたりがコレクターズアイテムとしての存在感につながっているんでしょうか)

同じ内容のレコードであっても、生産の段階でレコード盤の品質に個体差が生じます。この個体差はCDなどの光記録メディアではさほど問題になりませんが(※4)、「摩擦」として音の情報が刻み込まれた溝を針で直接読み取るレコードの場合、この個体差が直接音質の差につながります。中古品の場合、ここに保管状態や再生回数などの要因が加わるため個体差がさらに増大します。

この個体差のおかげで、「利き酒」ならぬ「利きレコード」とでも呼べるような楽しみ方の余地が生まれます。

レコードショップに行くと、盤面の品質状態によってグレードや価格が分けられていたり、慣れてくると目視で確認できる溝の状態から音質がある程度予想できるようになりますが、最終的には針を落として耳で聴いてみないとわからないもの。新しいレコードを買ってきてプレーヤーにセットする度、盤面の状態に一喜一憂するのが最近の小さな楽しみです。

アナログレコードのある生活その2:前の持ち主に思いを馳せる

先ほどの「中古版における保存状態・再生回数」と関連する内容です。

針が盤面に直接触れるレコードの場合、盤面に針の通過痕が蓄積されていきます。いわゆる「レコードが擦り切れる」というやつです。この通過痕が、そのまま聴き手の痕跡となって現れるのです。

音質がA面とB面で違うのはざらにあることで、極端な場合特定の曲だけやけに擦り切れている、ということもあります。ここから、前の所有者の趣味嗜好が手に取るようにわかるのです。
また、レコードの反り具合や微妙な匂いから、前の持ち主がレコードを雑に扱ったか、反対に物持ちが良いタイプの人だったのかというところまで想像できます。

中古で本を買ったら前所有者の書き込みがあった、なんて話はたまに聞きますが、レコードの場合この痕跡が不可避的に残るのが面白いところでしょう。

アナログレコードのある生活その3:タイムキーパーとして

最後に、アナログレコードのちょっと変わった聴き方をご紹介します。

ストリーミングやCDでアルバムを聴く場合、1曲目から再生を始めればざっと1時間前後はノンストップで聴くことができますが、レコードの場合片面あたりの収録時間は長くて25分程度。両者を比較すると驚きの短さです。しかし、この短さが意外とちょうど良かったりします。

25分というとかの有名なポモドーロ・テクニックを連想しますが、これと全く同じ要領で、やらなければならないタスクがあるのにどうも気乗りしない時、とりあえずレコードをセットして一周終わるまで作業・・・というような使い方をしています。
この場合、作業にかかる時間も「レコード何周分」という形で把握できたりします。

また、就寝時に睡眠導入としてレコードを小さい音量でかけることもありますが、一周25分ならばそのまま寝落ちしても安心です。

おわりに:配信戦国時代、アナログレコードは「音楽の架け橋」

以上、アナログレコードの楽しみ方をご紹介させていただきましたが、最後に一点、「これからのアナログレコードのあり方」のお話をー。

レコードの場合、生産にかかるコストの関係で1枚あたりの単価が高くなりがちです。新品市場の場合アルバム1枚で平均して5000円前後が相場だと思います。また、きちんとした再生環境をゼロから整えたい場合、それなりの出費を覚悟しなければならないのも事実です。

ストリーミング配信の場合、配信する側/聴く側の双方にこうしたコスト面の心配が全くありません。それにもかかわらずアナログレコードでのリリースが年々増えているのは、レコードが作り手と聴き手の双方を幸せにする媒体であるからだと考えています。

ストリーミングの場合、1回の再生あたりでアーティストに入るのは、0.1円単位の非常に微々たる金額になります。拡散力のあるメジャーなアーティストであればそれでも良いのですが、こだわりを持って「良い」音楽を作っているにもかかわらず知名度が今ひとつなアーティストの場合、ストリーミング配信だけで活動費を賄うのは非常に難しくなります。

このご時世、わざわざレコードで音楽を聴くのはよほどのファンか、音楽に対して強いこだわりを持つ人です。そういった人たちにより1枚のレコードが購入され、数千円の収入が入ることは、金銭的価値を超えてアーティストにとって大きな励みになります。
こうした状況を反映してのことか、最近ではBandcampやShopifyといったECサイトを通じ、販売にかかる手数料をできるだけ抑えて自身のレコードをリスナーに直接販売する独立系アーティストが増えています。こうした仕組みを通じてファンが音源を購入する一方、アーティストは音源に特典を封入することで手に取ってくれたファンに感謝を伝える、という好循環が生まれ、レコードは単なる音声メディアを超えて音楽を通じたコミュニケーションツールへと進化しているのです。


ー以上、アナログレコードのある暮らしについてお話しさせていただきました。最後までお付き合いいただきありがとうございました!

深掘りしたい人に向けての注
※1 「アナログレコード」という用語は、捉え方次第ではレトロニムの一種として考えることも出来るかもしれませんが、レトロニムの典型例として言及されることの多い「アナログテレビ」(「テレビ」が指す対象がいわゆるブラウン管から薄型テレビへと変化したため、従来テレビと呼ばれたブラウン管を「アナログ〜」として区別する必要が生じた)とは異なり、「レコード」という単語がデジタルな代替手段を指すようになった訳ではないため、正確には不適切であると言えます。また、現在「レコード」と言った場合に一般的であるLPレコード(33 1/3回転)あるいはシングルレコード(45回転)がポリ塩化ビニル製であることから、"vinyl"=「バイナル」という呼称も存在し、私も普段はバイナルと呼んでいますが、この記事では明快さの観点から原則「アナログレコード」あるいは「レコード」の呼称で統一しています。

※2 「ストリーミングの時代に、なぜアナログのレコードが売れているのか:世界を読み解くニュース・サロン」  ITmedia ビジネスオンライン.

※3 やや専門的な話になりますが、収録できる音量の幅が低い(音の強弱の幅が狭い)ことをレコーディング/ミックスの現場では「音圧(loudness)が高い」と言います。一般に楽曲全体の音圧が高いと聴き手の印象に残りやすいことから、商業音楽において音圧を稼ぐことは重要視されていますが、音圧を上げすぎてしまうと楽曲本来の立体感が失われたり、繊細な音が聴こえにくくなったりする弊害もあります。レコードではデジタル音源と比較して音圧に物理的制約があったため、過剰に音圧を上げる処理をせずとも自然な範囲に音量が収斂します。レコードが「自然な音」と呼ばれるのはこれが所以かもしれません。このあたりの詳しい事情についてはこちらの記事を参照してください。

※4 収録されているのがデジタルデータであるがゆえに、読み取り時の符号の誤りをエラー訂正で対応できる点、光学メディアの場合、データ記録層の表面が保護層により守られている点などによるものです。



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