父とクッキー🍪(短歌も)


わたしの家族からは死臭がしていた。
腐ってじゅくじゅくしたところが見えているのに、見ないふりをしていた人たちにお似合いの顛末だったけど、いつしか各々が勝手に幸せになれば良いと思う。

今日は久しぶりに父と会ってきた。
(わたしは彼のことを父親と思っていないんだけど、色々と割愛して文字の上では父と書きます)

なんかの良いところにあるホテルのレストランにでも行くの?ってくらい色々と気合を入れた。行き先は田舎のココスだけど、身体のあらゆる箇所を武装しないと辿り着けなかったから。

父と自称する人の置き場所について、わたしはずっと決めあぐねている。家族、先輩、信頼する人、友人、たまに会う人、嫌いな人とか、わたしの持つ引き出しのどこにも収まらず宙ぶらりんのまま。こんまりさんなら、「ありがとうって伝えて捨てましょう!」とか言ってくれるかな。不燃の日でいいかしら。

父と会ってる時は何かの釜の蓋が開いてしまいそうで、頭のスイッチを切ってしまう。本当は蓋を開けた先にある魑魅魍魎が見たいはずなのに。
分からないモヤモヤした物の輪郭だけでも掴みたいけど、色々なことが少しずつ難しい。
わたしと唇の形がそっくりで、誰なんだろうあの人は。今回も疑問符で終わっちゃった。


「これ覚えてるか?」と嬉しそうに鞄から出してきたのは、小さい透明な袋に入ったゴルゴンゾーラチーズ....?いや、これは腐ったクッキーだ。黴により自我を無くしているタイプのやつ。
わたしが中学2年生の時にあげたものらしい。
嬉しくて食べられないからずっと飾ってたんだと笑う。これを見せられてどう反応すれば良いんだ。ありがとうなんて言えなくて、匂いを嗅いで「臭いよ」と笑った。10年以上前だもん、覚えてないよと返したら、そうだよなぁと言いながらジップロックに入れて鞄にしまっていた。黴を保存するジップロックって有りなの?チャックが閉まり切るところまで何となく眺めながら、今ここでそのクッキーを食べてくれるかなぁと思った。

1時間くらい話して解散することに。
去り際にお小遣いを渡そうとしてきた。いらないよと断ろうとしたのだけど、わたしの中の村上(関ジャニの)が「もろとけ!もろとけ!」と言うので有り難くもろとけしておいた。臨時収入だわーい。
これから先も謎の人だろうけど、とりあえず不自由のない範囲でそれなりにおじさんになりながら生きていて欲しいなと思う。子どもは切ない生き物でもあるな。
何だか疲れたのでニンニクをたくさん食べたら、腹痛になってしまったよう。

クッキーと言えば、高校の時バレンタインにサッカー部の加藤君へチョコチップクッキーをあげたことがある。
「クッキー ラッピング」って検索したら、ラッピングシートで包んで麻紐なんかで縛ると可愛いって出てきたので、赤い水玉のシートで真似てみた。中々に見栄えするのではとちょっと自信あり。
お昼休みとかに呼び出して、サッと渡してすぐに教室に戻った。16才のわたしは照れ屋だったから、「これあげる」しか言えなかったのだ。ダニエル・クレイグよろしく大ミッションを終えたわたし。よくぞ渡せた!と、5限あたりまでホクホクしていた。
噂になってんのよ、「加藤がゴブリンの石を貰った」と。....ゴブリンの石??あの赤い包みのことか?石じゃなくてクッキーなんだが。ぱっと見は石に見えなくもないの....?てか待って、わたしゴブリンって呼ばれてんの?
16才のわたしの肩を抱いてやりたい。多分加藤とその友達はわたしのことをゴブリンって呼んでたんだよ。そんで一個下の可愛いマネージャーからの本命チョコで喜んでんの。あいつ体育館の壁と同化するくらい日焼けしてたくせになぁ。元気出してよゴブリン。
加藤君がそう呼んでいたから、その日からわたしゴブリンになると決めた。好きだったので。

同窓会かなんかであい見える日が来るのなら、今度は笑顔で投石攻撃でもしてやろうと思う。
村上が嬉々として生地を捏ねている。


硝子戸のそちらの僕は平穏で
手を振るように 笑われている

イートインとは何と問う爺らの
「ライススリー!」も伸びやかなココス

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