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あなたは「イマジナリーフレンド」をご存知?

 ある日、あなたの子供が部屋で楽しそうにお喋りをしている声を聞いたとします。しかし、お喋り相手の声は聞こえてきません。あなたはそっと子供の部屋を覗きます。すると、子供が楽しげにお喋りをしている姿は見えますが、その相手の姿は影も形もありません。

「これは尋常なことではない」
 あなたはそう思うかもしれません。そしてあなたは子供に問いかけます。
「今、誰と話していたの?」
 すると返事はこうです。
「トオルくんとお話ししてたんだ!」
 あなたはきっと思います、我が子がおかしくなってしまったのだと。

 この「想像上の仲間(≈ Imaginary Companion)」は日本ではイマジナリーフレンドと呼ばれ、一部の人が知る都市伝説のような扱いを受けています。
 本人にしか見えず、本人にしか声も聞こえず、しかし決して本人と同じ人格ではなく、しかも多重人格ではありません。

 イマジナリーフレンドは本人の視覚にふいと現れアドバイスをしてきたり、普通にお喋りができたりするらしいのです。
 あなたはこう思うかもしれません。虚言か、あるいは実際に見えているとするならば病気であると。
 
 しかし、もしあなたがアメリカ人であれば、先ほどのように独りで喋る我が子を見ても、このような反応に終始することでしょう。
「ああ、私の子供には想像上の仲間(≈ Imaginary Companion)がいるのか」
 
 実はアメリカでは、このイマジナリーフレンドがごくごく普通の概念として一般に周知されているのです。
 一般に "Imaginary Companion(≈ 想像上の仲間)" や "Imaginary playmate(≈ 想像上の遊び友達)" と呼ばれており、文献ではなんと19世紀にまで遡れるそうです。
 
 麻生の論文(想像の遊び友達—その多様性と現実性)によると、イマジナリーフレンドは日本に見られないように思われているけれど、得意な例外的な事例ではなく、ある程度一般性をもった現象として存在しているそうです。
 
 かくいう私の友人にも、2人ほどイマジナリーフレンドを持っている人がいます。うち1人のイマジナリーフレンドとは私と間接的な知り合いの関係で、たまに連携まではいかないですが、一緒に彼女のストレスの軽減のお手伝いをしたりします。また、もう1人のイマジナリーフレンドは、ふと現れては示唆的なアドバイスをしたり難解な概念について議論したりするそうです。

 もしあなたがイマジナリーフレンドを持っているとしても、それは全くもっておかしなことではないので(ましてや病気などではなく人類に普遍的に見られるものなので)、是非とも安心してください。
 
 また、イマジナリーフレンドは幼少期に現れて大人になる頃にはいなくなるらしいのですが、大人になってもイマジナリーフレンドが残ることも多いらしく、私の友人らもその典型例です。
 
 また少し関連しますが、富田によると文献研究より、児童期から青年期にかけての時期に「準宇宙(= paracosm)」と呼ばれる、複雑な架空の王国や世界を作り出すことがあることを報告しています。同研究ではイマジナリーフレンドとは関係がないとしていますが、友弘らの論文では準宇宙の登場人物にもイマジナリーフレンドと同等の機能があるのではないかと推測されています。
 
 実は、私の友人の1人も準宇宙=Paracosmを持っているのです。私のかなりしつこい聞き取り調査(?)では、ちょうどこちらの宇宙≈現実世界の写像であり、鏡像関係のようなものも見られます。例えば晴れと雨、無機物と有機物というような対になる概念が、ちょうど鏡の関係になって反転した準宇宙=Paracosmを持っています。
 彼女の準宇宙ですが、私の見立てでは彼女の思考回路そのもので、人間の最小の命題;りんごは赤である, 猫には耳がふたつある といったものの中から矛盾するもの、例えば、命題1:りんごは赤である 命題2:青いりんごがある という2つの命題は同時に存在できませんが、そういった矛盾した命題を取り除いた結果、ちょうどヴィトゲンシュタインの論理哲学論考で語られるような矛盾とトートロジーの関係;記号結合の限界事例が反転してしまったようなものだと認識しています。
 ……と、少し語りすぎてしまいましたね。

 最後に、友弘らの論文(Imaginary Companionの定義に関する考察)によるIC(= Imaginary Companion≈ イマジナリーフレンド)の定義を紹介します。
①ICは視覚的イメージを有する
②ICはある一定の期限少なくとも数ヶ月の間存在する
③ICは彼自身のパーソナリティを持っている
④ICの所持には通常の物忘れでは説明できないような健忘を伴わない
⑤ICの所持者は自己の同一性に混乱していない
⑥ICは所有者の行動を統制することはない
⑦ICは臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こすものではない
⑧ICは物質または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものでもない
⑨ICの所有者はICが現実にいないということを意識している

 最後まで記事を読んでいただきありがとうございます。

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