ひとり上手

 還暦を過ぎたが、未婚である。若いころに見合いを十三回したが、断られることが多かった。相手の方と一緒に映画を見、美術館、テーマパークにも行ったが、それ以上に進展することはなかった。恋愛で女性の方から誘われて、付き合ったことはあるが、長続きしなかった。
「彼女いない歴」がずいぶん長い。
 独りでもやっていけるよう、料理教室に行ったが、おいしい料理を作るのは難しすぎた。月に何回か来てくれるヘルパーさんに料理を教わり、野菜炒めはできるようになった。外食より自宅で食べる回数の方が多い。
 もう年だし、美人でなくても心が優しくて一緒においしい料理を作って、食べてくれる人が現れればいいなと、思うこともある。ヘルパーさんの作るものは、味が濃すぎる。それを伝えると、私の口に合わせて作るのは大変だ、と言う。自炊は自分好みの薄味にすればいい。
 まめで情が濃いような女性に、
「お茶でも」や、
「メールアドレス交換しませんか」と言っても、笑ってごまかされる。

 振り返って四十代の時、二十歳近く若いAさんと付き合った。ドライブをしたり、映画やカラオケに行ったりした。それほど美人というわけではないが、何事にも積極的な人だった。
 私の生家は着物問屋で大人は仕事が忙しく、五十七歳で亡くなった母は、焼き魚や茄子の丸焼きという簡単なものを作った。手の込んだものを食べさせてくれなかった。だから私は食べ物の味をあまり気にしない。しかし、Aさんは、
「どの定食屋がまずい、あそこのスパゲッティ屋はおいしい」
 と言うのでその都度、相槌は打った。
 試しに独りでその定食屋に行っても、普通の味である。スパゲッティ屋では、食べる量が少なく物足りない。食事は一人でしても、周りの人は気にしないと思う。しかし、一人でするより、誰かと一緒に食べた方が安らげる。
 私と彼女は精神的な障がいがある。彼女が、しつこく携帯電話で変なことを言う。
「結婚式場に一緒に相談しに行こう」
 付き合っているうちにぎくしゃくしてきて、自然と会わなくなった。
 気を遣うのはしんどいので、若い女性とはメールやラインでやり取りをし、本を読んで私小説、エッセイを書いたりしている。

 中島みゆきは孤独を愛する北海道育ちの天才ミュージシャンだ。私生活では一人で過ごすことが多い、と彼女の著書【女歌】に書いてあった。それを読んで私が思うに、男との浮いた噂が無いのは彼女の性格によるかもしれない。彼女の「ひとり上手」の歌詞の一部に、
 ♪ひとり上手とよばないで
  心だけ連れてゆかないで
  私を置いてゆかないで
  ひとりが好きなわけじゃないのよ

 同調性や協調性が尊ばれる日本では、群れから外れることは悪いイメージがある。男女の仲なら孤独でいることに慣れすぎると結婚が遅れるかもしれない。
 しかし、一人でいることを受け入れ「ひとり上手」になるのは、これからは大切なことではないだろうか。孤独のイメージを変えて、視点が変わると、開放感が味わえる。頼れるものは自分しかいないと気づいた。自分だけで過ごせる能力をもっとほめていいと思う。ひとりでいる意味をもっと積極的に考えることにしたい。

 〈注釈〉

 NHK文化センター高松の文章教室を二〇一〇年から学んでいます。私が書いたエッセイを、二〇一一年十二月に「ひとり上手」という題で、西日本放送が「百十四ラジオ文芸 心の詩(うた)」で放送してくれました。これを録音したCDを頂きました。これを下のホームページに上げる予定です。
 見ることができない方はCDのコピーを実費の三十円で差し上げます

 筆者は、こころの病、ひとり上手、などの作品もホームページに最新の物をアップしています。一部でも、ご覧いただければ、作者にとって幸いです。

 HPアドレス:https://www.okumato.com

 メールアドレス : sikokut@gmail.com

           2121/7/8

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