いつもと違う夏

梅雨が明けた。ようやくだ。今年の関東は梅雨が長かった。梅雨明けは平年より11日遅いらしい。いつもの夏とは違う。

今年の夏がいつもの夏と違うのは皆が分かっている。梅雨明けが遅いだけでなく、何もかもがおかしいのだ。夏休みの時期が違う。プールはしんと静まり返っている。おかしいくらいの夏空は広がっているのに。

夏の一大イベントとなっている高校野球、甲子園も今年はない。正確に言えば、高校野球はあるのだが、いつもの高校野球はない。それを知った時、やむを得ないと思った。この状況で、命の危険すらある状況で誰がやれと言えようか。だが、一ファンとして悲しみを覚えずにはいられなかった。

わたしの夏はすぐそばに甲子園があった。中継がついているのは夏の日常風景だった。小学校の高学年頃からは自分の意思で中継を見るようになった。高校に入学すると定期的に雑誌を買い、お気に入りの選手や学校もできた。大学時代は予選を見に行ったこともある。社会人になってからは2度、現地へ足を運んだ。長蛇の列に並び、初めて球場に足を踏み入れたときの景色は今でも昨日の事のように思い出せる。

印象に残っている試合はいくつもあるが、やはり初めて球場で見た2試合が記憶に深く刻まれている。その2試合は、2017年の準決勝だった。勝ち進んだ4校全てに後のドラフトで1位指名される選手がおり、非常に華やかでハイレベルな試合だった。とは言っても、具体的な試合内容はあまり覚えていない。目の前にある世界に目も心も奪われたからである。テレビでしか見たことのない世界がすぐそこに広がっている。雑誌で見たあの選手が躍動している。それだけではない。どの選手のどのプレーも夏の太陽に負けない輝きを放っていた。一つ一つのプレーに目を奪われ、心動かされた。宝物のような試合だった。

甲子園のない夏は80年ぶりのことだと知った。前回中止になった理由は第二次世界大戦だ。既に歴史の1ページになりかけている時代。それと同じことがまさか、自分の生きるこの現代に起こるなんて、想像もしていなかった。できなかったと言う方が正しいかもしれない。それはわたしだけでなく、誰もが同じだと思う。選手や指導者のことを思うといたたまれない。この夏で人生が変わった選手だっていたかもしれないのだ。ただ、この夏はファンであるわたしにとっても、プレーしている選手たちにも特別な夏になると確信している。

来年の夏はどうなっているだろうか。何事もなく開催されるのだろうか。先のことなど誰にも分からないのだから、考えたって仕方がない。そんなこと百も承知だが考えずにはいられないのが人の性だ。そんなわたしに今できるのはたった一つ。それは願うこと。次の夏はいつもの夏でありますように、と。

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