見出し画像

SIIFと一緒にシステムチェンジ(社会構造の変革) を探索してくれる 事業者・団体を公募します。【前編】この公募で目指すもの

 2023年10月、SIIFは共に社会課題の根本的な解決を目指す、志とアイデアを持った仲間を公募します。ターゲットとする社会課題テーマは「機会格差(世代をまたいだ経済格差の拡大と固定化)」と「地域活性化(地域の経済衰退とコミュニティ消失)」。1団体あたり最大6000万円の資金を提供し、互いに意見を交わしながら協働していきたいと考えています。

Systems Change Collective 公募ページ

ここでは、事業を担当するSIIFインパクト・オフィサー加藤有也とSIIF常務理事工藤七子が、今回の公募の趣旨をご説明します。前編ではまず、SIIFがなぜこのテーマを掲げて公募という手段を執ることにしたのか、事業全体を通じて何を目指すのかを語ります。

(左)SIIFインパクト・オフィサー加藤有也
(右)SIIF常務理事工藤七子

「インパクト投資」から「もっとインパクト投資」へ。社会課題の根本解決を目指す

加藤 SIIFは2022年に、注力する社会課題として「地域活性化」「機会格差」「ヘルスケア」の3つを特定しました。その後約1年かけてそれぞれの課題構造を分析し、仮説を立て、アクション案を考えて「ビジョンペーパー」にまとめています。今回の公募は、ビジョンペーパーの成果を踏まえ、各課題の根本的な解決、すなわち「システムチェンジ」を目指して実践に乗り出す第一歩です。

私はインパクト投資ファンド「はたらくFUND」の担当として、日本社会においてインパクト投資は本当に可能なのか、仮説検証を行ってきました。その結果、グローバルから学んだインパクト投資の手法は、日本でも十分活用できると確信しています。今では多くのプレーヤーがインパクト投資に取り組み、VCや上場株、融資など、様々な分野に拡げてくださっています。

社会課題の解決を目指す企業に着目して投資すること、その過程で、お金以外の価値、すなわちインパクトを測定し、マネジメントすること。その手法はグローバルでも共通のフレームワークができつつある と言っていいのではないでしょうか。

こうした積み上げをしてくるなかで、インパクト投資がもつポテンシャルをより根本的な課題解決に活用するにはどうすればよいのか?という次の疑問が膨らんできたのが、今回の事業を立ち上げるに至ったきっかけです。

工藤 加藤さんはよく「点を打っているみたい」と言っていましたね。私たちはこれまで、個別の投資先企業が生み出す成果に引っ張られすぎていたかもしれません。インパクトを出せそうな企業を見付けて投資し、投資期間中にインパクトKPIが4倍になりました、というように。それ自体は喜ばしいことですが、それでその企業が取り組んでいる社会課題が解決されたかといえば、社会の構造はそんなに単純ではありませんよね。

そう考えて我が身を振り返ってみると、投資家として社会課題に対する知識や認識が全然足りていないことに気が付きました。SIIFはインパクト測定やマネジメントの専門性は磨いてきた けれど、機会格差や地域活性化の専門家ではありません。とはいえ、課題に対する認識が浅いままIMM(インパクト測定・マネジメント)をしても、本当のインパクトが出せるとは思えなくなってきました 。それで昨年来、注力する 課題を定めて、ビジョンペーパーをつくる作業に取り組んできたわけです。

加藤 ビジョンペーパーの作業を通じて、改めて社会課題の構造の複雑さを思い知りました。解決に向けて投資家が担える役割は、そのうちのほんのわずかな要素に過ぎない。そこで今回のプロジェクトでは、私たち投資家だけでなく、投資先・支援先の企業、さらにそれ以外のプレーヤーやステークホルダーとも一緒に議論し、協働したいと考えました。

社会課題の解決を目指すコレクティブな活動において、SIIFは、そしてインパクト投資家は何をするべきか、何ができるのか。その答えを探るのが、このプロジェクトの短期的な目標といえるかもしれません。

工藤 これまでは点を打ってきたけれど 、社会課題の複雑な構造を認識したうえで、そのどこに点を打つのかに意識的になれば、一歩先に進めるかもしれないと期待しています。これまでとは違う新しい試みを始めるというよりも、更に深掘りする、 「もっとインパクト投資」をやる 、という感じでしょうか。

加藤 インパクト投資家がこれまでも取り組んできた「投資の全体戦略」や「ファンドレベルのToC(セオリー・オブ・チェンジ)」を掘り下げていくと、必然的に課題構造の複雑さに突き当たるのではないかと思うんです。そうすると、課題を生み出す構造、システムそのものに対するIMMを目指す必要が出てくるのではないでしょうか。

公募を通じて共にシステムチェンジを目指す同志に出会いたい

加藤 今回、公募という手法を選んだのは、1つには、私たちがまだ出会えていない企業や団体に出会いたいと願っているからです。私たちがまだ 知らないところにも、社会課題の現実を深く知り、解決や変革を目指して模索したり、行動を起こしたりしている人たちがきっといるはずです。

工藤 私たちはビジョンペーパーで社会課題の全体像を整理したけれど、外部にはすでに、実際に課題の重要なレバレッジ・ポイントに手を掛けようとしている人たちがいるかもしれない。システムチェンジを目指す社会課題を生み出す構造・システムそのものを変えようという、私たちの試みに共感してくれる人がいたら、ぜひ手を挙げていただきたい ですね。

加藤 そして、システムチェンジを目指す私たちの新たな取り組みを、より広く、より多くの人に知っていただくことも、この公募の狙いの1つです。

工藤 SIIFが注力する3つの社会課題のうち「ヘルスケア」については、すでに「SIIFICウェルネスファンド」 を設立し、スタートアップ投資の手法でシステムチェンジを目指す試みに踏み出しました。この「機会格差」と「地域活性化」については、スタートアップ投資の枠組みにこだわらず、多様な形態、手法で課題解決を目指すビジネスアイデアを募りたいと思います。

加藤 今回の応募条件は、持続可能なビジネスを核にした取り組みであれば営利・非営利の別を問わず、任意団体も含みます。対象領域で課題解決を目指すのであれば、まだ計画の段階であってもご応募いただけます。

工藤 課題を解決するために、世の中にまだ存在しない事業や企業が必要だとしたら、これからつくってしまいましょう、というところまで視野に入れているんですよね。

加藤 そのためにまず、ご応募くださる団体や企業がターゲットとする社会課題をどのように分析し、どこをどうやって変えようとしているのかを、私たちにも教えていただきたいです。私たちにとっては、その情報そのものが社会課題をより深く知るための貴重な材料にもなると思います。

協業を通じて投資家に求められる役割そのものを探索する

加藤 今回の試みは、共にシステムチェンジを目指してくださる人たちと出会うためのものなので、資金提供以外に協働する内容についても、SIIFが一方的に決めるのではなく、どんな取組が必要なのかを一緒に考えていくつもりです。

そもそも「インパクト投資家は資金提供とインパクトの可視化をするだけでいいのか」という疑問が出発点なので、システムチェンジという視点から、投資家が果たすべき役割そのものを探索したい。

工藤 この公募に限らず、SIIFとしてはこれから、どうすればインパクトエコノミーがシステムレベルで社会課題にアプローチできるのかを探っていきたいですね。単にお金を渡すだけでなく、そこから関係性が生じ、対話が生まれたり、投資家同士が協調したりと、もっと開かれた概念で投資行動を捉えれば、きっと進化できるのでは。

私たちが生きているうちに、システムチェンジを実現できるかは微妙かもしれないけれど、「投資家としてシステムにアプローチするとはこういうことだ」という手応えは得たい。だから今回の公募は、支援先を募集するというよりも、一緒に探索してくれる人たちを募集するというのが正しいかもしれません。

後編では、公募のテーマ「機会格差」と「地域活性化」について掘り下げます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?