彼女の推しが卒業する

しーの方です。

今日の夕方、突然頭を殴られた。
もちろん物理的にじゃない。

「齋藤飛鳥卒業のお知らせ」

りんちゃんの推し。
いや、りんちゃんが、青春の全て捧げた、と胸を張って誇っている、そんな推し。

乃木坂の結成からずっと見てきて、
乃木坂という箱そのものが好きだった彼女が人生で初めて推した人だ、って。

そして、遠因ながら僕たちを繋げてくれた人でもある。
りんちゃんと出会った日、
8月10日は、飛鳥ちゃんの誕生日で、
彼女がすごく上機嫌でそのことを話していたのを覚えている。

それから数ヶ月後には、
僕が少し飛鳥ちゃんに興味を持ったところを、彼女が見逃さず、
ここぞとばかりに乃木坂を布教されて、
今ではすっかり坂道グループに沼らされてる。
人生で一度もアイドルにハマったことのないおじさんだったのに、
彼女がとても楽しそうに推しを語るものだから。

そして出会って一年後の8月10日、僕は彼女に告白して、お付き合いすることになった。
仮に結婚する日が来ても8月10にしようね、って約束してる。




僕たちは、基本テレワークなんだけど、
今日に限ってりんちゃんは、出社していた。
だから、「お知らせ」を見た時に、
彼女が無事に帰って来れるか、本気で心配になった。

連絡を取ったら、
やっぱり第一声で、「齋藤飛鳥卒業のお知らせ」の話。
向こうから言ってくれてちょっと助かった。

「迎えに行こうか?」
って言ったら、「気にしすぎだよ」って気丈に振る舞われたりするのかと思ったけど、
「じゃあ、お願いします。」
ってすごく素直で、正直気持ちが悪かった。

ずっと前から

「もう何度、飛鳥ちゃんが卒業する妄想をしたか分からん。」
「覚悟はできとるけん大丈夫」

って言ってたけど、
やっぱり、心配だった。

駅で待ち合わせた彼女は、すごく笑顔だった。

「やばいね、マジ。やばいやばい。」

あまりの出来事にハイになってる?らしく、
様子がちょっとおかしくなってた。
本人もその自覚はあるみたいだった。

僕も出来るだけ気を紛らわしてもらおうと思ったけど、
触れないわけにもいかないし。

過度にやさしくしすぎないように、
過度に茶化さないように
僕自身も、ショックを受けてたはずなのに、
気づいたら彼女のことで頭がいっぱいだった。

僕のショックなんか、りんちゃんが受けてるものの何億分の1くらいだろうから。

ちょっとだけハイテンションな彼女と帰路についたけれど、
ふと沈黙が続いたと思ったら、
遠い方を見て、心ここにあらずといったような感じだった。

その後は、驚くくらいいつも通りの一日だった。
りんちゃんも
「ご飯食えるんだなぁ。」
って言いながら普通にご飯を食べてたし、
特にいつもと変わらない様子で過ごしていた。


寝る前に、二人で他愛もない会話をしていて、
ふとその会話が途切れて、
りんちゃんが「うーん」って唸り始めた。

何故だか分からないけど、悲しいしショックなはずなのに、涙も出なくて、それですごく気持ちが不安定になってるらしい。

「泣ければ楽なのに」
って笑う彼女が寂しそうに見えた。


だからあえて、少しだけ、りんちゃんに飛鳥ちゃんの話をしてもらった。
今思ってることとか言葉にしたら気が楽になるかもしれないから。

「飛鳥ちゃんが好きなのは分かってたけど
飛鳥ちゃんがいる乃木坂も好きだったから。」

「飛鳥ちゃんが一人になっても応援するけど、
飛鳥ちゃんがいない乃木坂を応援できるかな。」

その言葉がすごく心に刺さった。
彼女が今日一日抱えていた棘。

でも、その棘を吐き出しても、彼女は結局泣いたりしなかった。

最後に、

「頑張ろう、私も。」
って言った彼女を見て、僕が泣きそうだった。

今日ほど彼女の心の内を汲み取って理解してあげたいと思ったことはないかもしれない。
今日ほど彼女の心にあえて触れずにそっと一人にしてあげたいと思ったことはないかもしれない。

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