これから遺品整理業をはじめようと考えているあなたへ伝えたい!-知らなかったでは済まされない遺品整理と相続放棄の関係!
はじめに
遺品整理業界は参入障壁が低く、比較的独立しやすい業態でもあります。
しかしながら、遺品整理の場面は相続と密接に関連しており、昨今話題にあがることも多い、「孤独死」や「自殺」といった場面では、遺品整理業者自身も難しい判断を迫られることがあります。
そんな遺品整理の場面で遭遇しやすく、かつ知らなかったでは済まされないシリーズのひとつめとして、「相続放棄」について解説したいと思います。
相続放棄をした遺族からは遺品整理を受注できないと思っていませんか?決してそんなことはありません。
相続放棄に対する正しい知識とよくある事例を抑えておくことで、相続放棄をした遺族または相続放棄を予定している遺族からも遺品整理や特殊清掃を受注することが可能となります。
私自身はまだ遺品整理業者が数社しかなかった頃から遺品整理スタッフとして、一般の遺品整理から自殺、孤独死、火災現場などの特殊清掃を日々行ってきてまいりました。
おそらく、現場経験数でいえばトップクラスと自負しています。現在は遺品整理の主な依頼者でもあるご遺族の方からの相談に応じる為に国家資格たる行政書士の資格を取得して「遺品整理専門の行政書士」として活動しております。
今回はそうした遺品性業者としての知識と遺品整理専門の行政書士として活動してきた経験のなかから遺品整理業務にて遭遇しやすい「相続放棄」をする予定、また既に相続放棄をされた遺族からの依頼という場面で、遺品整理業者として知っておかなければいけない知識をお伝えしたいと考えております。
民法における相続放棄の規定自体はそれほど複雑なものではありませんが、ひとたび遺品整理と絡みあうと、ついやってしまいがちなミスを誘発します。
そして、そのちょっとしたミスがご遺族や果てはその遺品整理を担当した遺品整理業者にも莫大な責任を追及してくる可能性があります。
これから遺品整理業界へと参入しようと考えている方にはこうしたトラブルを回避する術としてご一読頂き、業務受注に繋げて頂ければ幸いです。
そもそも相続放棄とは
第915条 〔承認・放棄の期間〕
相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から3箇月以
内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但し、こ
の期間は、利害関係人又は検察官の請求によつて、家庭裁判所において、
これを伸長することができる。
2 相続人は、承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができ
る。
と民法では規定されています。
ここは法律を学ぶ場ではありませんので、条文の細かい解説はいたしませんが、必要な事だけ言うなら、相続放棄をする場合は、
・期間内に(自分が相続人になったことを知ってから3ヶ月以内)
・家庭裁判所へ
・相続放棄の手続きをしないといけない
つまり、遺品整理の依頼者の方が「私は財産を何も貰いませんので」や「相続放棄をする予定です」と言っているだけでは、意味がないということです。
遺品整理の現場での相続放棄にはどんな効果がある?
遺品整理業をはじめようと考えている方にとっては「特殊清掃」も視野に入れて業務を考えていることと思われます。
そうした特殊清掃が必要な場面と言えば室内で「孤独死」や「自殺」が発生しているという状況が一番多いかと思われます。
また、そうした孤独死や自殺が発生し特殊清掃が必要となるケースは賃貸物件の室内で起きていることも多く、孤独死や自殺が起きた現場での特殊清掃は、単に室内を清掃しただけでは終わらず、家主や管理会社との調整も必要になってきます。
ぱっと読んだだけでどうでしょうか?
「大家から文句言われるんじゃないの?」とか「作業中にご近所から苦情がこないかな」や「トラブルに巻き込まれそうでめんどくさいな~」と思われませんでしたか?
そう感じるのが普通です。遺品整理業をはじめようと思われる方でしたら、仕事と割り切って作業にあたることもできるでしょうが、一般のご遺族はそうではありません。
一般の方としては、
・大家さんから多額の賠償を請求されたらどうしよう
・付き合いも無かった親戚のためになんで私がこんな苦労しなくちゃいけな
いの!
・いっそ、なにもかも知らんぷりできたら簡単なのに!
と考えているケースがほとんどです。
もちろん、故人と遺族の関係もありますので、親子関係や兄妹関係といった場合は、親族の責任として遺品整理を真剣に考えていらっしゃるケースも多くあります。
ただ、遺品整理で遭遇する孤独死といったケースでは、甥や姪がある日突然警察から連絡をうけて長年付き合いもなかった叔父や叔母の遺品整理を相続人だからという理由だけで押しつけられているケースも珍しくはありません。
そうした疎遠な関係だった遺族の方としては、孤独死や自殺といったトラブルは自分達の生活をも危うくする危険な状況でもあり、できれば関わり合いになりたくないと考えるのが普通なのです。
そうした時に利用されるのが、「相続放棄」というわけですね。
では、そうした遺族が相続放棄をするとどういった効果があるのか?というと、簡単に言えば、
・はじめから相続人ではなかったことになる
・相続人でない以上、遺品整理をはじめとした故人が負っている債務や義務
と無関係になる
・大家や管理会社からの原状回復や損害賠償といった請求に応える必要がな
くなる
と、遺品整理の現場でいうならこうした効果があり、トラブルに巻き込まれたくない遺族にとっては、非常に有効な手段のひとつなるわけです。
遺品整理業者と相続放棄の関係
遺品整理現場での相続放棄の効果についてはお分かりいただけたかと思いますが、ただ、仕事として遺品整理や特殊清掃を行おうと考えている皆様にとっては、遺品整理をする必要のなくなる「相続放棄」は歓迎できるものではないですよね。
なぜなら「相続放棄」=「遺品整理をする必要がない」ということになってしまうのですから。
できれば、相続放棄をする予定の遺族からも遺品整理や特殊清掃の仕事を受注したいと思われているはずです。
相続放棄をする遺族から遺品整理や特殊清掃の依頼を受注するにはどうすればいいのか?
前提として押さえておいて頂きたいのが、
「相続放棄をしたら遺品整理はできなくなるわけではない」
ということです。
相続放棄をした場合は遺品整理を行う「義務」が無くなるだけで、遺品整理を行ってはいけない訳ではありません。
簡単な事例をあげてみましょう
・ある男性が賃貸物件で孤独死していた
・男性は消費者金融から多額の借金を負っていた
・遺族は男性の妹で、遺品整理はしたいが借金までは支払いたくない
・遺族の妹は賃貸物件の連帯保証人ではない
・長年お世話になった大家さんには迷惑はかけたくないと考えている
といった、状況でしたら「相続放棄」をした上で遺品整理を行う意味が十分にあります。
遺品整理を行っているとどうしても「相続放棄」を賃貸物件の家主からの原状回復や損害賠償とだけ結びつけてしまいがちですが、相続放棄の効果はなにも賃貸物件に関する事柄だけに効果があるわけではありません。
相続放棄をした以上は、故人の全てのプラスとマイナスの財産を一切放棄するという意味ですから、上の例で言えば遺品整理をする必要もなければ故人の借金も支払う必要はないということになります。
別の見方をすると、「どうせ遺品整理はするんだから相続放棄はしてもしなくても同じだろう」と考えてはいけないということです。
相続放棄をした上で遺品整理を行うのでしたら、遺族が負う負担は遺品整理だけとなりますが、相続放棄をせずにいると、遺品整理の他に借金についても遺族が支払わなければいけないことになってしまいます。
そういった複合的な観点から考えれば例え遺品整理を行う場合であっても相続放棄をしておく意義は十分にあるということです。
遺品整理業者の方としては、賃貸物件の「連帯保証人」になっている依頼者の方にはこうしたアドバイスは非常に有用なものとなりますので、覚えておいて損はありません。
賃貸物件の連帯保証人の方は、たとえ相続放棄をして「相続人」としての立場を捨てたとしても賃貸契約の際に結んだ契約としての「連帯保証人」としての立場で孤独死現場等の遺品整理を行わなければいけなくなります。
ですので、「どうせ連帯保証人として遺品整理はしないといけないのだから相続放棄はしなくてもいいか」と、依頼者の方が考えているようなら、
「いえ、そうではありません。もし、故人が他に借金を負っているような場合は相続放棄しておかないと遺品整理以外も負担をしなければいけなくなるかもしれないので相続放棄をしておいた方がいいかもしれませんよ」とアドバイスをしてあげるとグッと信用度があがることでしょう。
注意点としては、あまり深く「相続放棄」の仕方、例えば家庭裁判所の申請書の書き方など(ネットで調べれば簡単にわかる)までアドバイスしてしまうと、アドバイスされた遺品整理業者の方が弁護士や司法書士の資格を持っていないと罰則を受けることになりますので、親切にアドバイスをしてあげたいという気持ちは大事ですが、一般的な説明までに抑えておき、詳細な説明は「専門家に相談してください」とするのが安全です。
相続放棄をした上で遺品整理を行う場合の注意点
では次に、より遺品整理の現場に密接した状況での解説をしていきたいと思います。
まず知っておいて頂きたいのが、これまでに解説してきた相続放棄の効果に併せて、相続放棄ができなくなってしまう危険行為についてです。
先ほど、「相続放棄をした場合は遺品整理を行う「義務」が無くなるだけで、遺品整理を行ってはいけない訳ではありません。」と説明しました。
けれど、だったら遺品整理を自由に行ってもいいのか?というと断じて否となります。
そもそも、相続放棄された方は故人が遺した遺品に対してはなんらの権利も有していないことになります。(マイナスの財産を負わない代わりにプラスの財産も貰えない)
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