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sig.miyauchi
2020年9月24日 18:42
オーストリアを抜けた鉄道は、更に高度を上げる。電車の音だけが、ゆっくりと響いた。眠った頭を少し起こして、車窓を眺めて背筋が凍った。一面に澄んだ湖面が広がり、湖畔の森と灰色がかった霧を鮮明に映し出して、一瞬巨大な穴が、どこまでもどこまでも落ちていく様に見えた。あの時感じた恐怖は、一体何だったのだろう。転落の恐怖、海外への恐怖。そんな当たり前の恐ろしさを半分に、説明の難しい、憧れへの恐怖があった。