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社長元気で留守がいい

現在、シグマクシスでは富村隆一が代表取締役社長の任にあたっている。現会長で創業者の倉重英樹から引き継いで、2018年6月から現職だ。親しみやすい風貌とキャラクターから、社内ではトミーと呼ばれている。

トミーは、オフィスの中に席をもたない。当然社長室もない。いつも彼は、ふらっと現れると自分の秘書の向いの空席に座り、定番の小さなリュックを傍らに置いてスマホをいじり、電話をし、オフィスを歩き回って社員と話しては、外に消えていく。

社員の私達にとっては当たり前すぎる光景なのだが、それが実は当たり前ではないんだと再認識したのは、東証一部企業の新社長を紹介する企画で、日経ビジネスの取材を受けた時だった。ウチのオフィスは完全フリーアドレスで、役員エリアもドアなしガラス張りのフリーアドレスなんです、という紹介をしたとき、「じゃあ社長はいつもどこに座ってるんですか?」と聞かれたのだ。

そう言えばそうだなと思いながら、が「ここ。。」と指差したのが、文房具や小物が並んでいる秘書テーブルだった。記者は「えっ!」と文字通りのけぞり、そして言った。「それで会社大丈夫なんですか?」

オフィスは会社が用意した「コラボネットカフェ」

社長に席がないという状況を理解いただくには、まずウチのオフィス事情を軽く説明しておく必要があると思う。

シグマクシスは、現在虎ノ門に本社を構えている。2008年にオープンした当初からフロアの間仕切りなし、役員も含めて完全フリーアドレス、全員に統一PC&スマホ(注:当時はガラケー)配布、個人キャビネットなし、業務プロセス、コンサルティングのナレッジもデジタル化してあるという完全ペーパレスオフィス。「自分のパフォーマンスを最大化できる時間と場所は自分で選ぶ」「オフィスは誰かとコラボレーションしたいときに使うための場所」という、創業来のワークスタイルには、会長倉重さんの「コラボレーションで価値の最大化を目指そう」という強い思いが込められている。

そもそも働く場所はデジタル空間の中にあるわけで、物理的なオフィスは、いわば会社のコラボネットカフェ。だから、設立から12年を経て、社員数が本社開設時の10倍以上になっても、執務スペースは全く拡張されていない。

ちなみに、最近では電子帳簿保存法に対応したシステムと業務プロセスを自社導入して、経費精算や請求書処理もペーパレスとなった。おかげ様で、緊急事態宣言の後も社員はオフィスに一切出社を求められることなく、普段通りのリモートワークで業務を続けることができている。

さて、話を戻すと、そんな風に作られた本社オフィスで、会長の倉重さんは自分自身でプレゼンチャートを作ったり資料をまとめたりすることもあるので、フリーアドレスの役員スペースの席の一つを選んで仕事をしている。一方トミーはと言えば、副社長当時から社内よりも外にいることが多かった。お客様先、取引先、友人と会っては、手に入れたさまざまなトピックをみんなと共有して、また飛び出していく。そのトミーが社長になったからといって、突然おとなしく椅子に座るようになるわけはない。肩書と責任は変わっても動き方は変わらないので、自動的に「席のない社長」が誕生した。

「・・・というわけで、全然大丈夫なんですよ」と、私は記者に答えた。彼は狐につままれたような表情で頷いていたが、最後はとてもトミーらしい記事に仕上げて出してくれた。それがこちら(↓)。


社長も社員も外に向かう

ではそんな会社はどのように動くのか?私はトミーの直属に位置するので、その立場から見える社長の動きとあわせて考えてみたい。

まず、社長はいつも外にいる。一般的に社長というと、大きな社長室の奥の席に座り、入口に秘書がいて、用がある人はアポイントをとって社長室に報告にいく、というイメージだが、トミーはほとんどの時間、会社の「外」にいる。「意思決定するときに、自分に知識や経験、自分なりの視点がなかったら正しい判断ができない。だから常に世の中の情報や人のネットークの中にいて、情報と世の中の変化をキャッチする必要がある」というのが本人のポリシーだ。このデジタルの時代、意思決定は部屋がなくてもできる。大事なのは適時適切に意思決定できる状態に自分があるか、ということなのだろう。

ちなみに、ほとんど外出なので、必要な生活雑貨は肌身離さず持ち歩く。以前は小さなクラッチバックを破裂寸前まで膨らませて歩いていたが、最近はさすがにiPadなども入れたいらしく、小さ目のリュックにバージョンアップした。車の中もちょっとしたドラッグストア並みに何でも揃えられている。まさに一日中走り続けるタイヤのついたオフィスを、止まることなく朝から晩まで支える秘書とドライバーには、本当に頭が上がらない。いつも本当にありがとうございます。

そういうわけなので、社長のネットワークの幅は圧倒的に広い。そもそも好奇心旺盛、人が好きと言うこともあるのだろうが、「社員がこれやりたい、こういう提案したい、というときに、社員にないネットワークを自分が持っていて提供できることにこそ価値がある。」と言い放つ。そして、業種・業態・年齢の上下に関わらず、とにかく多様な人とコンタクトし、名刺交換するだけではなく驚異的なスピードで仲良しになってしまう。どんどん次の約束を入れるのでオフィスにいる時間はさらに短くなっていくのだが、一方で適任だと思う社員をクラスに関わらず自分の人脈に巻き込んでいくので、全社のネットワークパワーは横に縦にと拡がっていく。とにかく、このネットワーク構築のエネルギーレベルは、全社ダントツナンバー1と言って間違いない。

そんなつながりの中から、社長がビジネスの種を見つけて社員に持ってくることもある。「こんな面白い話聞いた、ウチでなんかできない?」「あそここういうことで困ってる、ウチのあの能力使って助けられないかな?」そんな電話やメールがしょっちゅう飛び込んできて、それをきっかけに社内にチームが組成されて動きだす。あれだけ外にいながら、誰が何をしてるかよく把握できるなあ、と感心するが、とにかく外も中も縦横無尽につなぎまくるのがトミー流だ。

なんでそれができるんだろうと考えた時、情報は自分で取りに行くというトミーの姿勢に思い当たる。気になることは、相手が社員だろうが社外の人だろうが、シニアだろうが若手だろうが、その瞬間に電話をかけて確認する。オフィスに来た時は、フリーアドレスで散っているお目当ての社員を探し出し、隣に座りこんで会話する。「週に一度の定例」とか「事前報告ミーティング」の開催をじっと待っている理由がトミーにはない。なぜならビジネスにおいてはスピードが競争力だし、常に自分の情報をアップデートしておかないと、変化の中で適切な意思決定ができないからだ。

では社員はというと、トミーの目線が「事業を駆動するのは社員。価値創造に向けて社員が自らの意志で動くときに、それを支援し加速させるのが自分の仕事」という点にあるが故に、社長がオフィスにいないのと同様に、社員もオフィスにはいない。お客様へのプロジェクトデリバリー、提案活動はもちろんのこと、ソーシャルネットワーク活動、トレーニング受講、現地視察、社内外のコラボ活動などなど。社長がいないからマネジメントチームもオフィスにいない。社員もわざわざ報告に帰ってくる必要もないし、そもそもデジタル上でコミュニケーションできるから、業務上の用件がないとオフィスには立ち寄らない。

結果、それぞれがそれぞれの役割を果たし、組織を超えてつながり、サポートし合いながら前進することに集中していくので、全員のエネルギーが外へ外へと動くようになる。新型コロナ対応でオフィスがクローズしても、トミーはstay homeであらゆる手段を駆使して社内外とつながり続け、社員も会社の環境を最大現活用して活動を続けた。何事もなかったように業務やお客様プロジェクト、ネットワーク活動が動いているのは、完全デジタル環境の恩恵に加えて、日ごろの私達の動き方そのものが関係していたのかな、と今になって思う。

部下の心得「電話に出よう」

さて、だいぶ長くなったが、最後に「社長が元気で留守だと部下には何がおきるのか」という点に触れてこう。当社ではトミーの直属メンバーがキモに銘じていることがある。それは「電話に出る」ということだ。

外を走り回る間に得た硬軟とりまぜた膨大な情報を伝える時、あるいはものの考え方や意思決定の結果を適時適切に伝える時、最も有効なのは「電話」だ。チャットやメール、WEB会議ツールなどいろいろあるが、環境を選ばずにワンタッチでニュアンスも含めて伝えられる。文字を書いている時間があるなら、話してしまえばそこで終わる、という意味で生産性も高い。というわけで、動き回るトミーと私達の生命線は、とにかく電話だ。

困った時、相談したい時に電話をすると、トミーは必ず出てくれるし、出られなくてもすぐコールバックをくれる。その裏返しで、トミーの電話はつながるまでかかってくる。ミーティング中にどうしても出られなくて留守電に落とし続けていると、秘書から電話がかかってくる。それも出ないでいると、チャットで「富村さんが電話に出てくれといっています」と伝言がくる。ウチのある常務は、トミーの友達でもある某社の社長を訪問していた時に、トミーからの電話を留守電に落とし続けていたら、訪問先の社長秘書が部屋に入ってきて「富村さんからお電話があり、電話に出てほしいとおっしゃってます」と言われた、と苦笑していた。

私達の言う「トミーの電話に出る」というのはそれくらいのレベル感なので、日中はもちろん、彼の業務が一段落するくらいの時間は、電話タイムとして常に傍らに電話を置いておく癖がついた。大変といえば大変なのだが、一方で「つながり続ける」というのはこういう事なんだろうとも思う。

ネットコミュニケーションは、反応するかしないかは受け手次第。でも電話はもう一歩踏み込んだコミュニケーションの意志が、「電話をかける」という行為自体に込められる。一緒に事業を運営している仲間同士が、互いに強い意志をもってつながり続けなくてどうする、というトミーからのメッセージだと私なりに解釈して、今日も電話を握りしめている。

物理的に離れているからこそ、強くつながる。自律的であるからこそ、協働する。これは、これからの時代においての大きなアジェンダのように思う。緊急事態宣言が明けて、ドタバタとしたエピソードと共に会社の姿がどのように進化していくのか、引き続き楽しみだ。

(C&C / 内山その)

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