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社内のピッチイベントで「離婚」の話をした話

緊急事態宣言がひとまず終了して、世の中は模索をしながらも、少しずつ落ち着きを取り戻しつつある。シグマクシスも、そもそもリモートワークが土台のワークスタイルなので、コロナ以前よりさらにオフィスに人は少なくなったが、オンライン・オフラインの組み合わせのバランスが各自見えてきたのか、自然なペースで日々が過ぎている。私たちなりのニューノーマルが作られつつある感じが心地よいが、唯一物足りないのは、社内での集合イベントがメッキリ減ってしまったことだ。

シグマクシスではこれまで、社員の手による社内イベントが頻繁に行われていた。「必要なければオフィスにこなくてよい、自分のパフォーマンスが最大化できる場所と時間は自分で、そしてチームで選ぶ」というスタンスが徹底されているがゆえに、逆に何かと目的を作って集まろう、という雰囲気になりやすいのかもしれない。

オフィスのど真ん中にあるマーケットというフリースペースでは、「ナレッジフェア」と呼ばれるプロジェクト成果や海外カンファレンス視察の発表会、様々な組織の全体会議、内定者の集まりやらお客様をお招きしての懇親など、年柄年中催しものが行われていたのだが(下写真)、三密回避ということですっかり静かになってしまった。zoom飲みやオンライン勉強会はあちこちで行われており、それはそれで新たな機会を生み出しているが、やはりオンサイトで集まる熱気の再現はできなくて、社のコミュニケーション環境を支える部門を持つ身としても寂しさが募る。

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カーニバルが始めた「ハッピアワー」

いろいろあるなかで面白いのが「シグマクシスハッピーアワー」という企画で、若手が中心に全社を巻き込んで運営する飲み会だ。これは、田中宏隆というディレクターが4年ほど前に始めた。他社から移ってきてすぐ、人財の多様性にびっくりした彼が、「こんなに多様な人ばかりなら、もっとカジュアルなネットワーキングの場を創ったらおもしろそう。なんなら自分が若手巻き込んで始めます」と手をあげたのがきっかけだ。

ちなみに田中本人も多様性の代名詞。シグマクシス入社後、日本におけるフードテック市場創設の立役者として活躍し、今もなお同領域でトップランナーとして走り続ける。とにかく熱量の高さが尋常ではなく、社内でも社外でもイベントを企画して人を巻き込み続けるので、通称「たなカーニバル」、最近ではさらに縮められて普通に「カーニバル」と呼ばれているので、お見知り置きいただきたい。(↓)

さて、4年目に入った今、ハッピーアワーはそのカーニバルの手を離れ、代々の入社2年目の幹事団に引き継がれて、季節ごとに開催されている。新人が入る春には「クラブ活動紹介」をテーマに、常務執行役員以下メンバーが自分のクラブ自慢をプレゼンするのを聞きながら、みんなで酒を飲みつまみをつまむ。毎年のファミリークリスマスパーティでは、バーテンダー経験のある役員や社員有志が「ハッピーアワーカウンター」というバーを出し、ホテルの会場を盛り上げる。ちなみに今回の表紙の写真は、勢い余って彼らがつくった特設バーの看板だ。昨年度の「我が家の家族(ペット)自慢」というテーマの回では、猫自慢、犬自慢に加えて「蛇自慢」というプレゼンターも登場し、冷凍庫の中のエサ(=冷凍ネズミ)の写真に、参加者まで酒を片手に凍り付く、という印象深いシーンもあった。今年度は初の「zoomハッピアワー」が開催されて、新たな形へのチャレンジが始まっている。

そんなイベントに、私も2年ほど前に幹事に頼まれてピッチプレゼンターとして登壇したことがある。当時を振り返っていたらなんだか懐かしくなってきたので、今回はその時のことを書いてみる。

「トライはあるけどエラーじゃないよ」

「そのさん、次回のハッピーアワーでピッチ、お願いしたいんですけど」

と、その時の若手幹事は依頼にやってきた。

「いいよ、今回のお題はなに?」

「人生のトライ&エラーです」

「へえ、私以外に誰がプレゼンするの?」

「ガクさんとスミトさんです。ガクさんには”事業”をテーマに、スミトさんには”不動産投資”について話をしてもらおうと思ってます」

「で、私は何について?」

「えっと、、、できれば”結婚”でお願いしたいんですが。」

そんなやりとりだった。頼みにくそうにしている割には、受けてほしいという期待もいりまじり、困ったような顔をして立っている幹事の姿に思わず笑った。

なお、過去のメールをほじくってみたら、リーダー幹事から送られてきた正式依頼メールも見つかった。

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今回は「人生のトライ&エラー」と題し、酸いも甘いもかみ分けた諸先輩から若手メンバーたちへこれまでの人生経験や失敗談を話していただき、シグマクシスの風土として大切にしていきたい「挑戦と時には失敗」の重要性を再認識してもらおう、仲間の経験談から学びを得てもらおう、「挑戦・失敗することやそれをした人ってなんかかっこいいじゃん」という気持ちを持ってもらおうと考えています。すでに打診があったかとは思いますが「結婚」という文脈でそのさんのお名前が挙がり、ご連絡させていただいたという次第です。(大変失礼ですみません…)
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あの頃は、「新たな価値創造はトライ&エラーのアプローチなしでは動かない」と、社長倉重さん(当時)からも社内に声高に語られていた。それをうまいことひっかけて持ってきたという意味で、なかなかの名文ではある。社内の飲み会で結婚(この場合正しくは離婚)について話せというのはなかなか勇気ある依頼だが、彼らの意図は汲めた。「私の結婚はエラーではないよ。離婚も前向きな意思決定。トライの話としてでよければするよ」と快諾した。

貴女に贈る5つのヒント

さて、当日マーケットにいくと、そこにはいつも以上に女性、特に若手の女子が沢山そろっていた。告知をみて、プロジェクト先から今帰ってきたという人もいる。

ピッチタイム一人目のガクさんは、当時当社の経営企画室長。前職が大手電機メーカーの経営企画部長で、企業の売却・事業の整理に奔走したこと、その時の壮絶な日々を振り返りながら、気づきや学びについてリアル感満載で話してくれた。二人目のスミトさんは、個人でやっている不動産投資のポリシーと浮き沈みの話。口から出てくる金額感、「グーグルマップを頼りにアメリカの物件買いました。多分これです。」と写真をたどる姿には、私も仰天した。いろいろな人がいるなあという中で、私がトリだった。

チャートは全部で約20枚。15分にしては多いが、イメージやキーワードを中心にした。離婚がいくらポジティブな意思決定とは言え、相手があり子供ふたりの気持ちもある。が、語り出すと一晩かかるし、そこは本論ではないと考え、自分軸で話しきると決めた。

自分の年譜、元夫との出会い、子供たちとの会話、離婚成立までのやりとり、膨大な事務手続きの話。届を出した区役所の地下の喫茶店で離婚告知をFacebook投稿したら、200以上のいいね!と100以上のコメントが付いたこと、「名義変更」との孤独な闘いが予想外に大変だったことなど、改めて女性の離婚そのものについて考えるきっかけとなったエピソードにも触れた。

だが、そもそもこの日に私が伝えたかったのは、そう言った各論の事象ではなく、長い思考と行動のプロセスを経て、私が自分の意志で新しいステージに立っている、ということだ。

ピッチの最後はこのようなメッセージになった。

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「貴女に贈る5つのヒント」
①経済的に自立しつづけよう
②この人だ!と思ったら思い切って結婚しよう
③出産育児はとにかく大変。子供がほしいなら体力ある内が吉
④育児が本当に大変なのは「10年」。時間を買っても「そこ」をしのごう。使った分は必ずあとから戻ってくる
⑤キャリアは、どんなに細くなる瞬間があっても継続しよう。続けることにこそ意味がある

・・そして、自分に対して、正直であり続けよう。
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ちなみに最後のページは、期せずして前回のコラムで触れた鉄板語録、「正解は探すものではなく創るもの」で締めくくられていた。

大事なのは、自分の人生を自分でデザインする力

結局、私がオーディエンス、特に女性たちに伝えたかったのは、結婚や離婚の成否や是非そのものではなく、「男であろうが女であろうが、自分の人生は自分で設計するのである」ということ、そしてその人生の内数に、結婚や出産、育児、介護があり、時として離婚もあるんだということ。実際どれも自分の思い通りになかなかいかないことが多いし、相手もいれば自分がもって生まれた運命もあるから、何が正解かはわからない。でも、だからこそ自分がその時々でどうありたいかを決めるしかないし、自分らしくあり続けるためにも、経済的・精神的な自立をしていることがとても大事であること。日本は社会的にもシステム的にも女性がいまだマイノリティである中で、大変なストレスではあるけれども、それをおしても自分なりのキャリアを維持することは、自分の人生そのものを生きる上でとてもとても大事である。そんなようなことだった。

「この人と結婚して、仕事続けられるか?」「子供を産んで仕事と家庭と両立できるか?」「先にキャリアを構築してから結婚したほうがよいのではないか?」「この仕事をしていて育児と両立できるのか?」といった相談がわたしに寄せられることは今でも少なくない。そんなとき私はいつも「そんなこと誰にもわからないんじゃないかな」「自分がどうしたいか、どうありたいかをまず決めるのが先じゃないかな」と答える。絶対的な幸せの定義などこの世の中にはない。そして変数が多くなればなるほど、数式は解きにくくなる。だれしも明日がどうなるかすら見えない中で、本当に大事なのは、自分は物事を自らの意志で決めて生きていると自信をもって言える、ということなのではないだろうか。

なお、この日はたまたまだが「社内の飲みにケーション」という特集でメディアの取材が入っていた。デイープすぎた3人のプレゼンの中身には残念ながら触れていないが、雰囲気はこちらで(↓)。

そんなこんなでその日のハッピーアワーは盛り上がり、翌朝には参加者から感想やらお礼やら激励やら、はたまた面談の申し込みなどがきた。中でも印象に残ったのは、とある男性からのメールだ。

「専業主婦の自分の妻が今のままで本当に幸せなのかということを考えました。今朝、朝食の時に聞いてみたら、本人は何も問題意識はもっていないようだけれど、僕はもうちょっと彼女のこれからの人生の在り方について、自分なりに考えてみたいと思います。」

最近では、若手女子からの結婚の報告に「そのさんのあのピッチを思い出して決めました!」という一言が添えられていることがあり、それがなによりも嬉しかったりする。

三密回避の今は、こんな風に互いの心に灯りをともすような夜のひと時を、なかなかオフィス空間で創れないのが残念だが、オンラインだからこそできることにいろいろチャレンジして、このウチらしさを大切に育んでいきたいと改めて思う。

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C&C / 内山 その

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