博士課程に在籍しながら、化学メーカーや製造業の事業課題を先端技術で解決。研究とビジネスをつなぐ秘訣を聞いてみた。
羽場 廉一郎(はば・れんいちろう)
シグマアイ 研究開発担当
東北大学大学院情報科学研究科博士課程
同大学量子アニーリング研究開発センター運営
阿部修平未来財団2020年度奨学生。2022年東北大学情報科学修士号取得。2022年より現職。
博士課程の研究を進めながら、ビジネスの世界に身を置いて、幅広い学びを得たい。
―まずは、シグマアイへの入社のきっかけを教えてください。
2022年4月、博士課程への進学と同時に、シグマアイに正社員として入社しました。修士課程から大関研究室に所属していて、「量子コンピューティングEXPO」などで接点があり、アルバイトとして勤務していました。そして、博士課程に進むにあたって、ビジネスと研究を両立できることに惹かれて、正社員として入社したのです。多くの博士課程の学生のように、日本学術振興会の特別研究員として収入を得ながら、研究を続けることも考えました。ただ、ビジネスの世界で活躍できる人材になるためにシグマアイへの入社を決断したのです。
―その前に、博士課程に進学しようと考えた理由も教えてください。
もともとは博士課程に進学するのではなく、修士課程を修了後は企業に就職しようと思っていました。メガベンチャーやコンサルティングファームなどの大手企業を受けたのですが、技術的に新規性の高い事業に携わることはなかなか難しいことに気づいたのです。既存の技術を活かす仕事がメインで、全く新しい技術自体を生み出し、それを起点にビジネスを拡げる機会は少ないと感じました。量子コンピューティングの応用を研究している身としては、新技術で世の中を変える仕事をしてみたかった。そこで進路を考え直して、博士課程への進学に舵を切ったのです。
入社直後から、大手化学メーカーと材料探索の効率化や、製造業のDXに取り組む
―シグマアイに入社後は、どのようなプロジェクトを担当しましたか?
2022年4月に入社して、5月から担当しているのが材料探索のプロジェクトです。MI (Material Informatics) と呼ばれる分野で情報処理技術を活用し、化学材料の開発期間短縮を目指すプロジェクトです。MIは必要な性質を持つ物質を生成するために、反応させる材料の組み合わせを探ること。どの材料をどのような分量で組み合わせるのか。そのパターンは無限に存在します。従来からMIには多くの実験を要することから、その時間を短縮するために、量子コンピュータやAIモデルを用いた実証実験を行っているのです。膨大な仮説検証の中から、ようやく答えが見えてきました。さらに、この成果を自社プロダクト開発にも展開しそうと、新たなプロジェクトを立ち上げました。社内メンバーと開発を進めています。
その他には、製造業のDXにもコンサルティングと自社プロダクト開発の両面から取り組んでいます。ある大手製造業とのプロジェクトでは、私がコンサルタント兼営業としてジョインしました。商談時に自分で作ったデモをお見せして、その場でニーズを引き出して検証を行いました。受注が確定した後は、ソリューションの仕様策定と実装をプロジェクトマネージャーとしてリード。プロジェクトは順調に進捗していて、今年の末にソリューションが実装予定です。
アカデミアと企業。それぞれの強みを活かして、弱みを補完する
―入社1年半にして、幅広いプロジェクトを任されています。さらに大学院での研究も進めていますが、現状をどのように感じていますか?
幅広い業務を担当できるのは、自分の志向に合っていると感じています。企業向けのコンサルティング業務では様々なお客様に対峙できますし、自社プロダクトも幾つかの領域にまたがっている。加えて、博士課程の研究活動の中では、中長期的に根源的な課題にも向き合える。それぞれの仕事をつなげることで新しい発見にも出会えます。研究成果をビジネスに活かせることも増えてきていますし、逆にビジネスの中での発見をアカデミックにフィードバックできるケースもあります。たった1年半ですが、それぞれのフィールドを駆け巡ることで、見えてきたものは沢山ありますね。
学術研究の社会への実装は、短期間でできることもある
―シグマアイの特徴を教えてください。
本当に自由な会社だと思いますね。「やりたい!」と手を挙げれば、ここまで幅広い業務を任せてくれていますし、社員の年齢や経験、職種に関係なく、自由に議論が繰り広げられる。珍しい会社だと思います。
―自身の今後については、どのように考えていますか?
材料探索のプロジェクトでは、目の前のお客様にソリューションを提供して、喜んでいただくことができました。ここまで1年半ほどの業務の中で、コンサルティングに楽しさを感じています。そして、来年度以降は、個社に向き合うだけでなく、自社プロダクトの展開も加速していきたいですね。
一般的にアカデミアで研究されている技術が、社会に実装されるには時間が掛かることが多いです。しかし、今回のプロジェクトを通じて、社会には既にニーズがあったり、短期的に活かせる要素もあることに気付けました。企業に在籍する研究者とは違った強みがシグマアイのメンバーにはあると思います。ロングタームの学術研究をしながら、短期的なビジネスの課題にも向き合うことができる。これからも、その強みを活かしていきたいですね。
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