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F1 2022 プレビュー ~HONDAとF1とのかかわりは、消えない!~

F1は開幕に向けて準備が進んでいます。
各チーム新車がほぼ出そろい、2/23よりいよいよプレシーズンテストが始まります。
ようやく各チームのニューマシンが走る姿を見ることができて、ファンとしては「待ってました!」という気持ちです。

そんな中での今回のF1記事も、3月の開幕に向けての準備号です。
前回の記事でマシンの大幅なレギュレーション変更について語り、F1ファンのみならず多くのスポーツファンのみなさんに読んでいただきました。
本当にありがとうございます!


その流れで、今回はパワーユニットについてのお話。
日本のF1ファンが一番気になっていたのは、ホンダとF1とのかかわりだと思います。
2021年の劇的なチャンピオン獲得に沸き、誰もが「これで終わりなんて、もったいない!」と思ったはず。

しかし、ホンダとF1とのかかわりは、完全に消えた訳ではありません。
今回はホンダF1撤退発表から今年に入るまで、ホンダとF1との関係がどのように変化していったかを振り返ってみたいと思います。

ホンダ撤退発表から最近までの動き

2020年10月にホンダ撤退の報を聞き、その日のうちに悔しさと怒りをひとつの記事にぶつけました。

あれから1年半ほど経った今、状況はかなり変わりました。
まず、答え合わせ…ではないですが、その後の動きから見ていきたいと思います。

自動車産業再編の波

ホンダがF1撤退を決めた理由としては、2030年を目標に生産車の3分の2を電気自動車や燃料電池車など、「エンジンを搭載しない自動車」に置き換える、という事でした。
現在も、その動きに変わりはありません。

研究所では、より安全で高性能な製品を作ることが期待できる「全個体電池」の開発が進んでおり、NHKスペシャルでも紹介されました。

新たな才能 角田裕毅の未来

これはファンのみなさんへの説明は不要ですね。
記事を書いた2020年10月の段階では、F1直下のカテゴリー、F2でランキング3位。

その後のバーレーンでの4レースで着実にポイントを稼ぎ、ランキング3位を死守。
スーパーライセンス獲得に必要なポイントを満たし、晴れて2021年、スクーデリア・アルファタウリチームと契約しました。
日本人F1ドライバーがまたひとり誕生したわけです。

ルーキーイヤーとなった2021年は、苦しい局面もあったものの、チームや周りにインパクトを与える活躍だったのではないかと思います。

続く2022年もアルファタウリから継続参戦。新しいマシンでどのような活躍を見せてくれるか、今から楽しみで仕方ありません。

レッドブルチームの行く末…が大きく変わった!


2021年をもってホンダを失ってしまうレッドブルとアルファタウリ。
以前の記事にも書いた通り、レッドブルとルノーとの関係は悪化したまま。
メルセデスやフェラーリも、協力なライバルとなり得るチームへのPU(パワーユニット)供給はしたくないでしょう。
すると、現状頼れるのはホンダのみ。
ホンダのPUを使い続けるために、レッドブルはどのような策を講じたのでしょうか。

パワーユニット開発凍結に全チームが同意

まずレッドブルが起こしたアクションは、パワーユニットの開発凍結。

レッドブルの働きかけにより、2022年開幕から2025年まで、全メーカーのパワーユニット開発凍結が全チーム一致で採択されました。
これにより、パフォーマンスアップのためのPU開発が禁止され、2022年開幕時仕様のPUを2025年まで使用することになりました。

ホンダは今まで、PUの開発に多くのリソースを割いてきました。
その開発メンバーを次世代ビークルへの開発にシフトさせることが、F1撤退の理由でもあります。
しかし開発が凍結されれば、規定された仕様のパワーユニットを年に何台か「生産」すればいいだけですから、開発リソースは割かずに済みます。
理屈としてはホンダの継続参戦も可能となるわけです。

しかし、ホンダは撤退を撤回しませんでした。
ではどうするか?

新会社「レッドブル・パワートレインズ」の設立

ホンダの継続参戦が困難であれば、自分たちでパワーユニットを作ってしまえばいいのです。

開発凍結が正式決定した同月、レッドブルが新たにPU制作会社を立ち上げ、ホンダから知的財産を引き継ぎ、自らの工場でPUを制作、参戦すると発表。
これで、「レッドブル・ホンダ」ではなくなりますが、実質ホンダのPUを2025年まで使用することになります。

ここまでとんとん拍子に話が進んだのは、ホンダ撤退から新会社設立まで、レッドブルが裏できっちり動いていたという事なのでしょう。
しかも、主催者側も各チームも、今後のF1の利益のために協力してくれました。一部が仲違いしたままでは、F1界の今後のためにならないという事での合意だったと思います。

ただ、最近のニュースでは、ホンダが2025年までパワーユニットを制作することが決定したそうです。レッドブル・パワートレインズ自体はPUの管理や発注などを行うものと思われますが、今後はどのような動きになるかはわかりません。

他のメーカーのF1とのかかわり方

カーボンニュートラル実現に向けて自動車産業の変革に立ち向かう、という課題は海外メーカーも同じはずです。
ではなぜメルセデスやルノーは撤退しないのでしょうか。

メルセデスは90年代後半からエンジン供給という形でF1に携わります。
当初、F1用エンジンの開発、制作を行っていた「イルモア」という会社に資本提携し、徐々にメルセデスブランドに変えていった経緯があります。

そして2010年に前年チャンピオンを獲ったブラウンGPを買収し、ワークスチームとして活動を開始。
その後の破竹の勢いはもはや説明不要でしょう。
しかも、ブラウンGPの前身は、第3期ホンダのワークスチームだったわけですから、日本のF1ファンにとっては本当に悔しい限りです。

ルノーもウィリアムズと共に90年代を席巻した後撤退を発表しますが、ルノーが開発したエンジンを別の会社(メカクローム)が制作を請け負い、供給するという時期や、チームを買収してワークスチームとして参戦した時期もありました。
その後、F1エンジン開発部門が独立。市販車の部門とレースを行う部門が分かれているのです。

このように、各メーカーは市販車とは別にレースを専門に請け負う会社や組織があります。

ちなみにフェラーリについてもお話しておきます。
フェラーリは1950年にシリーズが始まった当初から継続して参戦している唯一のメーカーですが、彼らの主な活動目的はレース。
レースに参戦するために市販車を開発、販売していたルーツを持つチームなので、他の2メーカーとは立場が異なります。
もしフェラーリがF1から撤退するという事があれば、それはよほどの事ではないでしょうか。

ホンダは、創始者である本田宗一郎氏の「技術はレースで磨かれる」という言葉のもと、技術研鑽のためにF1に参戦していましたが、完全に組織を分けるような形ではありませんでした。
そのため、会社の方針転換で参戦継続が難しくなることもあります。
現に4回、そのような状況に立ったわけです。

他のメーカーが組織を分けてまでF1に参戦する理由は「マーケティング」ではないでしょうか。

技術研鑽はもちろんですが、レースに出て活躍すれば、大きな宣伝効果になります。
メルセデスベンツのテレビCMでは、F1ドライバーが出演するものもありました。ミハエル・シューマッハはドイツの英雄ですし、ニコ・ロズベルグは普通にイケメンですしね。ニコとハミルトンが仲良さそうにベンツに乗るCMもありました。

その点、レッドブルはスポーツ界のマーケティングに長けている会社でもあります。
モータースポーツ以外でもアスリートを幅広く支援しており、「レッドブル・アスリート」は世界に数多くいます。
北京オリンピックで活躍した、スキージャンプの小林陵侑選手や高梨沙羅選手もレッドブル・アスリートです。

実際、レッドブルからホンダにも「マーケティングで協力できることがあれば言ってほしい」という打診もあったそうです。
主にヨーロッパでの宣伝効果を考えれば、レッドブル・ホンダとしてのF1継続参戦は、マーケティングにとってもひとつの大きなファクターだったのではないかと思います。
実際、2021年のドライバーズチャンピオン獲得もかなりのインパクトになった筈です。

ホンダも他のメーカーのようなかかわり方をしていれば…
と思っていたら、ホンダ側もさすがに前向きに考えを変えたようです。

HRCの組織変更

2021年10月、ホンダのモータースポーツ活動を「HRC(HONDA Racing Company)」がすべて統括すると発表されました。

元々2輪の分野で活動していた同社ですが、今後は国内も含めた4輪の活動も統括すると発表があったのです。

2輪の世界では海外ともかかわりがあるので、国内のみならず海外での活動もHRCを通して行うことができます。

【注】アメリカのインディカーへのエンジン供給は、ホンダのアメリカ法人が立ち上げた「HPD(HONDA Performance Development)」が行っており、HRCとの関わりはありません。

HRCがレッドブルとの連携を強化できれば、今後ホンダのF1活動に大きな影響をもたらしてくれるはずです。

結果的にパワーユニットの製造もホンダが請け負うことになりました。
HRCとレッドブルやアルファタウリとのかかわりも続くことになり、2チームのマシンには「HRC」のロゴが付けられました。
日本のF1ファンにとって、これほど嬉しいことはありません。

このままHRCとF1との関係性が崩れなければ、いずれマシンのノーズに「H」のエンブレムが戻ってくる可能性はゼロではない。
そう思わせる発表もF1側からなされました。

2026年の新しいパワーユニット

2021年12月に、2026年から採用される新しいパワーユニット規則が明らかになりました。採用については現在検討中ですが、このまま採用される可能性は高いと思います。

ターボチャージャーのタービンに接続し、ターボの動力補助と回生を担っていた「MGU-H」が撤廃され、エンジンの動力補助となる「MGU-K」の電力向上による出力アップへ。
また、二酸化炭素を排出しない次世代燃料を採用する、という話もあります。
注目は、パワーユニット開発コストの上限が決められる事でしょう。

既に昨年からマシン開発、制作をはじめとするチーム運用資金に上限を設けるレギュレーション(コストキャップ)が適用されており、それがパワーユニットへも波及すれば、メーカーやチームがより参戦しやすくなる環境が整うことになります。
現に、ポルシェやアウディが参戦を検討しているという報道もかなり過熱し、現実味を帯びてきました。

HRCが制作するPUをレッドブルやアルファタウリに供給できるのは2025年まで。
それ以降の参戦は全くの白紙ですが、3年のうちに状況が変われば、栃木県のさくらで新しいPUを開発し、ホンダの名を冠してF1に戻ってくる可能性もゼロではありません。

それには、今後のHRCとレッドブルとの関係性が大きく関わってきます。

2021年までホンダのマネージングディレクターを務めた山本雅史さんがホンダを退社され、よりレッドブルとの関係を強化させるべく新会社を立ち上げる、というニュースもありました。

日本のF1ファンとして、これからのホンダの動向に注目せずにはいられません。

クルマに乗る人すべてに注目してほしい「E10燃料」

2022年のパワーユニットにおける技術的なレギュレーション変更は基本的にはありません。
ただ1点だけ大きく変わることは、燃料が「E10燃料」に変わること。

E10燃料とは、ガソリンにバイオエタノール燃料を10パーセント混ぜたもの。
2021年まで、F1ではバイオエタノール混合燃料を使ってきましたが、その混合率が7.5%から10%に引き上げられます。
これにより、20馬力程度出力が低下するというデータもあり、各メーカーは開発に取り組んできました。

果たしてこの問題を各メーカーはクリアできるのか?どのメーカーのPUがアドバンテージを持つのか?そこも楽しみなところです。

さて、E10燃料はF1のみならず、今後市販車向けに販売される予定でもあります。
既に欧米では採用している国もあります。

地中深くから原油を取り出して生成するガソリンは、燃焼すると二酸化炭素を排出しますが、トウモロコシやさとうきびから作るバイオエタノールは、作る過程で光合成によって二酸化炭素を吸収します。
理屈は、100%のガソリンよりも二酸化炭素の排出量が結果的に抑えられる、というもの。
ただし、エンジン内の部品劣化が激しくなってしまうため、日本では「E10燃料対応車」を販売する計画だそうです。

それに向けて環境省と大阪府が協力して、今後実証実験を行うとのこと。

ホンダは電気自動車や燃料電池車の開発に前向きであり、トヨタは全方位でカーボンニュートラルに立ち向かうと発表しています。

今後どのようなエコカーが市場に受け入れられるか、今は見極めの時期になるわけですが、モータースポーツ界もカーボンニュートラルに向けた取り組みを今後加速していきます。
エンジンは、なくならないのです。

いちモータースポーツファンとして、今後のモータースポーツ界の取り組みについても注目してほしいと思っています。

※タイトル画像はオラクル レッドブルレーシングチームの公式Twitterより使用させていただきました。
エンジン部に貼られた「HRC」のロゴが誇らしい!
これからも密な関係性を築いていってほしいです。

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