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こうして出逢ったのも、何かの御縁

おともだちパンチ」を御存じであろうか。
「愛に満ちたおともだちパンチを駆使して優雅に世を渡ってこそ、美しく調和のある人生が開けるのです。」
美しく調和のある人生。その言葉がいたく彼女の心を打った。


今回は私が好きでオススメする小説『夜は短し歩けよ乙女』について書いていきたい。

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以前の記事で今度書きます!と予告した小説だ。



この本の概説は背表紙の紹介に譲ることとする。

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する”偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。
――森見登美彦著・夜は短し歩けよ乙女(角川書店) 背表紙より

※毎度私の読書感想文はネタバレが多すぎないか心配です。。。気になる方は読まぬようよしなに。



物語は全四章で先輩と黒髪の乙女を中心に季節を追って進んでいく。

この物語の魅力。私が書くnoteはいちいち堅苦しく頭を使うものが多かった気がするが、そんなの必要ない。軽く読める。そしてシンプルに先輩が、黒髪の乙女が、人々が、愛くるしい!!!


まずは先輩の人物像を本文から少し覗いてみる。

彼女が後輩として入部してきて以来、すすんで彼女の後塵を拝し、その後ろ姿を見つめに見つめて数ヶ月、もはや私は彼女の後姿に関する世界的権威といわれる男だ。
――第二章 深海魚たち より
今やなんとか彼女の眼中に入ろうと七転八倒している。私はその苦闘を「ナカメ作戦」と名付けた。これは。「なるべく彼女の目にとまる作戦」を省略してものである。

***

「それで、あの子とは何か進展あったの?」
「着実に外堀は埋めている」
外堀うめすぎだろ?いつまで埋める気だ。林檎の木を植えて、小屋でも建てて住むつもりか?」
――第三章 御都合主義者かく語りき より


黒髪の乙女を一途に追い続けるものの、積極的に会話をしたり誘い出したりする勇気はない。あまりに回りくどく拗らせた恋心。全面に共感はせずとも誰にでも気持ちはわかるだろう。健気を通り越して何だか滑稽な姿は青く人間味に溢れていて思わず応援したくなってしまう。


次に、そんな先輩の意中の人、黒髪の乙女。

彼女を一言で表すと「好奇心の権化」だと私は思う。大学の一回生とは思えぬ子供のような好奇心と純粋さを持ち合わせたくさんの人と出会い、感動し、まっすぐ歩き続ける。そしてみんなから愛され続ける。

冒頭で引用した台詞は彼女が姉から与えられた言葉である。美しく調和のある人生に向かって彼女がどんな人と出会いどんな景色を見てきたのか。いかにして『夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に』おいて主人公になりえたのか。また、「おともだちパンチ」とはいったい何なのか。
読者の皆様におかれても黒髪の乙女と同じくらいの好奇心を抱えながらページをめくり、確かめていただきたい。


他にも彼らが夜の街で、神社で、そして大学で出逢う人々。皆一癖あって優しいものあり、デタラメなものありで話していてとても心地よくなる。適当なようで突然妙に真理めいたことを言われると思わず唸ってしまう。


この本で森見作品を初めて読んだときは独特の文体に慣れるまで時間がかかったが、久しぶりに再読すると全く違和感なく頭に入ってきた。彼の作品を何個も読み、その少し古典めいた堅さのある文体に私自身多少なりと影響を受けてきたからだと思う。

また、この作品の舞台である京都にあまり馴染みのない人ならば文体と同時に詳細に出てくる地名に少したじろくかもしれない。しかしその分、彼の作品はちょっとだけディープな京都を徘徊したくなる要素で溢れている。

「先輩」の魅力に捉えられたならば、『四畳半神話大系』や『太陽の塔』にも是非目を向けてみてほしい。夜は短しには幸せでふくふくとしたムードがこれでもかとばかりに散りばめられているが、他の本では「先輩」の如き阿呆な大学生が青春を無駄遣いしている様子がより陰鬱に描かれている。彼らとともに京都の街を感じているのは実に切なく楽しい。

また、神様の存在など独特な古都の雰囲気に魅力を感じたならば、京都のあやかしめいた少しダークな魅力が詰め込まれている作品群(『宵山万華鏡』、『きつねのはなし』)も面白い。


ああ~、こう書いてて非常に京都に行きたい!!!!鴨川沿いで等間隔開けて座るカップルやりたい!!!!(実際に京都を訪れた際私は鴨川沿いのまさにその光景を目の当たりにしていたく感動した。笑)

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鴨川デルタから北へ進むと糺の森、下鴨神社。
本稿のサムネイルは下鴨神社の鳥居だ。



皆さんから本をお勧めしてもらった際に自分だったらどんな本を勧めるだろう?と考えて感想文というより紹介文に近いものになったが一つの記事としてまとめてみた。森見さんの大ファンであるのでまずおすすめしたい一作を超えての記事になってしまったがどうかご容赦いただきたい。

もしこの記事を読んで少しでも紹介した作品に興味を持っていただけたら幸いだ。

最後に、どのような本を読んでいるかはその人の個性にかなり影響すると思っている。『夜は短し歩けよ乙女』を読み「黒髪の乙女のような純粋さを忘れないようにしたいと思っている先輩のような阿呆な理系学生」を想像すれば私という人間を少しだけ理解していただけるだろう。



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