恋する人に寄せる短編集
先日試験がひと段落したところでこのようなツイートをした。
返信をくださった皆さん、本当にありがとうございました。
せいぜい二、三冊くらいしか来ないだろうと思っていたため、想像以上の反響を得て嬉しい一方でどの本から選ぼうか決めあぐねていた。
専門書ばかりがずらりと並ぶ大学の本屋なら紹介していただいた本全てとそこで出会うことはないだろう。
あったものから読んでみよう。
そう考えてすぐ翌日に大学の狭い本屋に向かった。
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まず目に入ったのが森絵都さんの著作『風に舞い上がるビニールシート』であった。
手に取った。
「短編集か~。」
私は短編集があまり好きではなかった。
短編では読み足りなく感じ、長編の方が印象に深く残るからだ。
それでもせっかくの紹介だ。迷わず手に取ってレジに向かう。
*
短編小説ならではの心地よいテンポ、続きは読者に想像させる含みをもった一作目を読み終える。
そしてすぐに二作目を読み始める。
短編集には共通の登場人物や共通の舞台が現れる作集も多いが、この本は違っていた。
一作目とは全く関わりのない話。
しかし、二作目を読み終えてある共通点に気付く。
三作目、四作目を読みそれは確信に変わる。
主人公たちは皆何かに没頭していた。
没頭のあまりに、すぐ近くにいる人との向き合い方も疎かになる程に。
またある者はそれまで通りに生活を回すことが出来なくなる程に。
没頭する対象はそれぞれであった。
対象に向けられたこの主人公たちの持つ熱意をなんと呼ぶべきだろう。
少し考え、
「これは恋心なのかもしれない。」
こう思い至った。
主人公たちが心を奪われた対象は人ではないが彼らの心を捉えて離さない対象たちに魅せられる様子は、まさに恋心だと言えると思うのだ。
少し不器用な彼らの中には迷いもあったように感じられる。
このまま好きなものだけを追い続けていいのか。
これは誰の心にも存在するような、時として私たちが行動を起こすことを妨げるような迷いだ。
しかし主人公たちは決意を持って自分の道を進み始める。
作中では語られ切らない未来は明るさを感じさせ、同じように何かに恋する人、そしてその恋に迷える人の背中を優しく後押しするようだ。
*
私は今、表題作「風に舞い上がるビニールシート」を含むあと二作を残してこの感想文を書いている。
全て読み終えたとき上述の感想は覆るかもしれない。
それでも、この作品たちには同じように何かに恋する人の背中を後押しする力があった。
これは小さく洗練された短編だからこそ強く訴えてくる、そして作品によって形を変えて畳み掛けてくるような力だ。
この本読んで良かったなぁ。という充実感のある気持ちの良い本だった。
この素敵な小さな物語たちに出会わせてくれたちこさんに、改めて感謝を。
ありがとうございました!!!
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