私は久しぶりに大泣きした。脳みその水分がなくなる感じが、懐かしかった。(後編)
第14話
※後編です。前編を読んでから読んでください。
私は久しぶりに大泣きした。脳みその水分がなくなる感じが、懐かしかった。
懐かしかったのは、泣くこと自体が久しぶりだったのもあるが、それとは別に、
ある泣いた時の記憶とダブったからでもある。
とは言っても回想シーンを書けるほど覚えてはいない。
小2〜4の頃だと思う。
放課後に友達と遊んだときに、なんか嫌なことがあって、
その後母と話した。
「母:その友達と遊ぶのが嫌なのか。私:全部が嫌ではない。ただ、
遊ぶにあたって、相手に合わせないといけないところがある。
母:割とみんなそうだから。」
こんな内容だった気がする。
その時に泣いたのと、記憶が重なった。
共通点は、
「相手に合わせるために、自分をつくる」だろう。
普段はつくられた自分に何も思わない。
が、その本質に触れられたとき、
その「どうしようもなさ」に泣きたくなるのだ。
何がどうしようもないのか。
合わせないといけない仕組みの、この世界がどうしようもないのか。
それとも、合わせないといけなくなった、"私"がどうしようもないのか。
後者なら、その涙は悔しさの涙に近そうだ。
話の時間軸を戻そう。
それから父親には、いろいろ言われた。泣きながら聞いた。
例えば「直接話せないなら、手紙やメールはどうか」。
"文字と口じゃ別の人"と思っていたのがしっかりと分かったようだ。
さすがは実の父親だ。
だがその感心とは正反対に、こんな事も言われた。
父:「そうやって考えて書くの得意なんだろ?国語とか得意だし。
少なくとも"僕よりも頭良い"んだからさ、」
そんなことを感じさせない人柄の良さから忘れていたが、
父は大学には行っていなかった。
気がつけば私は父親を超えていたのだ。学業の面で。
そしてトドメにこんな事を言われた。
父:「僕は《名前》を応援してあげたいんだけど、」
……
優しすぎるから悪いんだ。
優しすぎるから、その優しさを踏み躙らないために、
"父親のことが嫌いな自分"が存在することがいけないと
思うようになったのだろう。いや、無意識かもしれない。
だから、「本心では父親のことが嫌い」とかではない。
そこに"本心そのもの"を消してしまったのだ。
ピントが合わなかったわけじゃない。
レンズ越しに見る対象がそもそも無かったのだ。
場面は、晩御飯を食べた後の、帰りの車内に移る。
父:「でも(お前は喋るのが苦手だけど)、塾で面談とかはあるんだろ?」
私:「うん」
父:「2者?3者?」
私:「3者。だからオバチャンがモンスターペアレントになってる。」
(「オバチャン」とは、父に母の話をするときに使う三人称である。
母と会話するときの二人称はママであり、使い分けている。)
それを言った途端、
父は〈待ってました!〉と言わんばかりのリアクションをした。
なんでも、そこがウザいのだそう。
そこが離婚した一要因だと推測される。
父:「でも《名前》は全部決めてもらったほうがやりやすいんだろ?」
1ヶ月以上前の私なら、快く「うん」と言っていただろうが、
今の私は何も言えなくなった。
子どもの自主性に任せる父親と、
方針を決めてくれる母親。
思えば、私は両極端な両親に育てられたものだ。
しばらくして、
父:「まあ、自分の望む人生を哲学的に考えなさい」
と言われた。何故そのような結論に至ったかは分からなかった。
あとは
「本を読みなさい」と、
「挨拶をしなさい」と言われた。小学生か。
本は本でも心理学・哲学の本。
そういう本は高1の夏休みに宿題だから読んだが、宿題としか思ってなかった。
そう言った。
「挨拶をしないと敵を作る」と。
これには少し反論したかった。もちろん出来ないが。
というのも、今日の一件から考えるに、
優しすぎる味方がいたからあんなことになったのだから、
敵を作った方がいいのではないかと。
家に着いた。
別れの言葉から察するに、次の月末も行くことになってそうだ。
別に訊かれてもそう言うつもりだった。その理由は、
哲学・心理学のくだりから、
「じゃあまず父親の観点を知らなきゃ、と思ったから」だ。
だか単に、行かなきゃいけないという義務はそのままに、
父親の様子を伺って理由づけしようとしただけかもしれない。
"理由"なのか、"理由づけ"分からない。
"自分"なのか、"つくられた自分"なのか分からない。
いつからか、分からなくなってしまった。
ということが分かった。
終わりです。
大学についての話は全く進まなかったんですが、
それまで父親から見た私は
「意思がない人」「何も考えていない人」だったので、
それを「何かしらは考えている人」に変えることができただけ進歩であり、
父親からしても得られたものがあったので
それ以上は(大学について)訊いてこなかったんだと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。