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きみの寝顔に、世界は頬を染める——杜野凛世sSR「別冊をとめ」感想・考察【シャニマス】

手を打てば
鳥は飛び立つ
鯉は寄る
女中茶を持つ
猿沢の池

詠み人知らず

 これは作者不詳の和歌。猿沢の池で手を叩く——すると、その音に驚いた鳥は飛び立ち、鯉は餌の合図だと思って水面から顔を出し、女中はお茶を運んでくる。
 仏教における唯識思想を説く際に俎上に載せられる歌であり、ざっくり噛み砕いて言えば——「手を打つ」というそれ自体は何の意味もない行為でも、観測する立場によって、あるいは心の在り方によってその解釈は異なる。そんな風に世界の有り様を描いた和歌である。

 2022/10/20、フェスツアーズ報酬として配布された杜野凛世sSR「別冊をとめ」もこれと同様。千差万別の解釈と、それによって世界の見え方が変わる有り様を描いたコミュです。

本コミュのイラスト。
シャニマスではおなじみ「物体視点」の構図。
二人だけの時間を邪魔せず、読者はこっそり覗き見するだけ……
そんな空気感が醸し出されている最高の一枚。

 イラストを見た瞬間テンション爆上げでしたね。うわこれ濃厚なじゅりんぜを摂取できるコミュじゃん!! FOOOOOOO!!

 ……ところが、蓋を開けてみると別の驚きが待っていました。なんと他コミュのネタが満載。しかも、それらを踏まえながら読むと、凛世が放クラと共に過ごしてきた時間・築き上げた関係性を実感できて、じんわりと心が温まりました。凛世コミュを熱心に読んできた人ほど感動できるご褒美コミュですよこいつは……ってことで私の「解釈」をちょっと語らせてくれ!!


(※以下、「別冊をとめ」および杜野凛世関連コミュのネタバレを含みます。ご注意ください)


時間の流れ——「別冊をとめ」と他コミュの関連性

 ではさっそく「別冊をとめ」の第1話「解釈しませう」のコミュを読んでみましょう——と、その前に。このタイトルだけですでに元ネタのコミュが4つあります。

「をとめ大学」はあの迷言が飛び出た伝説のコミュ

 まず「別冊をとめ」。こちらはすでに「をとめ大学」「をとめ辞典」「をとめ条約」というサポートコミュがあります。共通しているのはタイトルだけではありません。セーラーちゃん、ブレザーくん、詰め襟くんが登場する少女漫画が出たり。寮生活の様子が描かれていたり。といった共通項があります。

 続いて「解釈しませう」。こちらは意図的ではないかもしれませんが、「牛的情感盛り、一丁」の各コミュ名「学習いたしませう」「実践いたしませう」「意味にいたしませう」と重なります。凛世が放クラのメンバーと共に牛丼屋のマナーを学習し、ソロ牛丼を実践し、そこで得た知識を生活の端々で自分なりの意味として落とし込む、といったお話。

 今回の「別冊をとめ」は、これら4つのコミュから連綿と続く物語として読むことができます。例の少女漫画について夏葉、智代子、甘奈と語り合ったり。皆で牛丼を食べて新しい体験をしたり。箱入り娘だった凛世が放クラメンバーや他アイドルとの交流を通して、新たな物事を学び、様々な感情を抱く。そんな数々の出来事の延長線上に今回のコミュがあります。

 タイトルに込められたこの仕掛けが、すなわち時間の流れを感じられるこの演出が、コミュ終盤のカタルシスに繋がっているように感じられました。これを踏まえてさっそくコミュ本編へ!


解釈しませう——解釈の在り方、心の在り方

 少女漫画の朗読を行う放クラ一同。セーラーちゃん、ブレザーくん、詰め襟くん、三人は幼なじみ。ブレザーくんと詰め襟くんはいつしか、セーラーちゃんに好意を抱くようになった。いわゆる三角関係ですね。朗読している場面では、セーラーちゃんとブレザーくんがいい雰囲気になっているご様子。

 で、ここで解釈バトルが発生。樹里と夏葉は「心臓の音が夜の音にとけていくまで」「まつげ、長いな……」といった台詞から、セーラーちゃんとブレザーくんの恋愛感情が表現されていると解釈しました。

この辺り、凛世が限界化して語彙力消失したオタクになってて面白い
凛世コミュ読んだ直後の私じゃん
園田はさすがのフォロー力だな……(後方腕組み同級生)

 しかし、凛世と智代子は、幼なじみとしての関係性が壊れないように願っている描写であると解釈しました。そして、果穂は——

なーにが「きれいだなー」だよ!!!!!
果穂の純粋な心がいちばんきれいだろ!!

 ……すみません、取り乱しました。とにかく、「手を打つ」という行為が様々な意味で捉えられるように、「まつげ、長いな……」というそれ単体では特別でもない台詞も、描写の仕方や、読み手の感性によってこれだけ解釈が異なるのです。

 ……と、ここまでなら放クラのよくある日常を描いたコミュですが。これを踏まえて純度の高いじゅりんぜをぶち込んでくるのが「別冊をとめ」最大の魅力です。さあ行くぞ衝撃に備えろ!!


まみ伏せればきらきらと——A面:じゅりんぜ

う゛っ

 やめくてれ開幕プライベートドレスダウンは心臓に悪い……オフの寝起きの凛世だ……


う゛う゛っ

 えっ樹里ちゃん一人の時でも「いってきます」って言うんだ。これ絶対ご飯食べる時も手を合わせて「いただきます」って言ってるじゃん……良〜……


う゛う゛う゛っ!!!!

 樹里の早朝ランニングをお見送りする凛世〜!! 他の寮生を起こさないように口パクで「いってらっしゃいませ」って伝えてる!! うわーいいなこれ。朝の澄み切った空気と静寂に包まれる寮の情景が浮かんでくるな……


う、うわああああああ!!!!!!!

 「句と節ってやつ」って聞かれて、何のことかわからず戸惑いながらも、とりあえず樹里の話を聞こうとする凛世の健気さが一瞬の「……」に全部詰まってる!! そしてその事実にとっさに気付いて慌てて謝る樹里ちゃんの優しさ!! しかし何より、同じユニットかつ同じ寮で過ごしているからか同い年みたいに思っちまうほど打ち解けている二人の関係性!! 樹里と凛世の魅力、そして二人の関係性がわずかな会話に凝縮されてる最高の場面じゃないですか!!

 も、もうやめてくれ……情感あるBGMと美しい情景描写も相まって……こんな状態でスチルが表示されたら……


あっ……


ぐわあああああああああ!!!!!!!!





まみ伏せればきらきらと——B面:世界の見え方、心の在り方

凛世は樹里が無理していることに薄々気づいていながらも、
本人の意志を尊重してそっと見守っていた。
そんな心情が「やっぱり」という一言から垣間見れますね。

 これだけでもフェスツアーズを頑張った甲斐があったと思えるほど充分良いコミュですが、これだけで終わらないのがシャニマス。第1話「解釈しませう」を踏まえると、さらに奥行きが広がります。

 一緒に勉強をしていると樹里が寝落ち。彼女の寝顔を眺めながら、凛世は放クラで朗読した台詞をふっとつぶやきます「シャンプーの匂いがする」「まつげ、長いな……」——あの時、凛世は幼なじみとしての関係性が壊れないように願っている描写であるという解釈を主張していましたが、今回は少し違います。

 夏葉が言っていた「相手に特別な思いがあることを象徴的に表現する手法」という解釈を思い浮かべます。同じ屋根の下で暮らし、同じユニットで切磋琢磨する親しい友の、安らかな寝顔。そこから微かに感じられるシャンプーの香り、(こうして近くで見るとまつ毛長いんだな)という何気ない発見——それらに意識を向けると、友に対する特別にあたたかな気持ちが確かに湧き上がり、寝顔がより一層愛おしく思える。
 
自分の解釈だけでは前景化できなかったその微々たる感情に、凛世は思いを馳せます。各人の感性によって解釈は異なる。異なる解釈に触れれば、自分の心の在り方は変わり、世界の見え方も変わる——

1st page
鏡を覗いても 自分色なんて 自分じゃ見えない
だけど君が走る背中は 君色の羽が羽ばたいてる

[……]
Next page
その羽はきっと 光の当たり方で色を変える
君と笑っている私は 幸せそうな色をしていて欲しい

「シャイノグラフィ」
作曲:ヒゲドライバー
作詞:古屋真

 これまでの凛世サポートコミュを振り返ってみますと、凛世が新しい体験をする時はいつも放クラメンバーと一緒でした。犬と触れ合ってみたり(ふれんど日和)、牛丼屋のマナーを学んだり(牛的情感盛り)。なぜ彼女はそんな行動を繰り返すのか。それは友と共に過ごし、新しい価値観に触れることで、心の在り方が変わり、世界が色づいて見えるからなのでしょう。

 ——さらに、冒頭で述べた通り、本コミュのタイトルは他コミュの題材が散りばめられており、連綿と続く物語として読むことができます。それがここで効いてきます。放クラの皆と過ごした時間。そして、読者が知らない樹里の数々の苦労すら、凛世はきっと知っている。だからこそ、その寝顔が愛おしく思える。そんな歳月の経過に伴って積み重なる思いの強さが行間から伝わってくるのです。

 はぁ………………すき……………………(嘆息) こんな最高純度のじゅりんぜを供給してくれるなんて。サポートコミュの分量とは思えないほど満足度が高く、余韻に浸れるコミュでした。ありがとうシャニマス。


おまけ

 以下、雑記です。

  • 第2話のタイトルは「まみ伏せればきらきらと」。「まみ」は目って意味なのでー。目を伏せればきらきらと輝く、って意味だと思いますよー。ふふー。

  • 意図的ではないかもしれませんが、今回のイラストは西城樹里sSR「晴れ待ちのひと時」と対比的ですね。樹里ちゃんは寝顔を見守る存在でありながら、見守られる存在でもある。そんな放クラが大好きです。

  • 直近の「春告窓」に引き続き、脚の表情がめちゃ良い。足ふにふにしながらプロデューサーと電話したり、足ぷらぷらしながら樹里の寝顔を見守ったり。いいフェティシズムだ細かい仕草による心理描写が印象的ですね。

  • そういえば直近の「さよならごつこ」「春告窓」も、今回と同じように他コミュのネタ満載でしたね。これまた時間の流れが感じられてとても良い。次のコミュも楽しみです。細かい解説は以下の記事で。

 長々と語りましたが以上です。本記事が凛世コミュを楽しむための一助となれば幸いです。私の解釈に触れたことで、あなたの凛世コミュの見方が変わったかもしれません……つってね。それではまたどこかで!


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