見出し画像

Mandarin Oriental Parisのケーキ

2度目のインターン先のケーキがとても美味しかったので忘れないうちに書き留めたい。

11月末からクリスマスまでの1か月間のインターン先はパリ1区にある『Mandarin Oriental Paris』。
5つ星の中でもハイクラスな「パラスホテル」と呼ばれるホテルのうちのひとつで、そのパティスリー部門では、ルームサービスの他ホテル内とバーとミシュラン二つ星のダイニング『Camelia』でも提供されるケーキを作っていた。シェフパティシエはAdrien Bozzolo、陽気でクリスマスソングをよく歌いながら作業している。とても大きくて力強い体育会系のようなシェフだけど、作るケーキは香りにこだわった珍しい素材を多く取り入れた細工のようにとても繊細なものが多い。

この店のケーキは60個近くケーキを食べ続けた1か月のパリ滞在の中でも圧倒的に美味しかった。
もちろんルセットや作業の様子を自分の目で見て製造にも携わったためどの店のケーキよりもいろんな方向から考えて食べているし、シェフのこだわりや人柄も知っているのでどうしてもひいき目をもってしまっている可能性はある。また、ホテルのプチガトーの単価は18€と比較的高く、ひとつあたりにかけられる材料費や人件費も大きく違うため、街の有名パティスリーを主な比較対象にするのは適していないかもしれない。また、プチガトーでありながら、注文が入ってから仕上げることが許される環境であることも大きいと思う。実際にひとつひとつのケーキを食べて感じたことを書く。

Saint Honoré

一番人気で定番のサントノレ。

〇構成
pâte à choux,
arlette opaline caramel-vanilla,
pâte à choux crumble,
vanilla crème brûlée,
vanilla praline,
chantilly vanille with vanilla,
white caramel


写真で見るよりも小さく左下の小さいシューは3mmほど。これを注文が入るたびにピンセットでひとつひとつ乗せている。
複雑な香水みたいなケーキも私の好みで大好きだけど、この万人受けかつ他にないデザインのサントノレも本当に美味しいし好き。外側のサブレ(Arlette)は木目柄で可愛いし作るのもかなり大変。これだけで食べてもざくざくで美味しい。パーツが多くてひとつひとつを作るのもその組み立てもすごく時間がかかるし、クレームシブーストと置き換えたクレームブリュレ、キャラメル、マスカルポーネのシャンティも甘すぎなくてまとまっている。それとすごく気に入っているのが、これを倒して三角形の底辺の部分から食べ進めると後半に差し掛かったあたりで直径1㎝くらいのバニラプラリネがでてくるところ。パリブレストやナッツを軸にしたケーキだと、プラリネが入っていることが多い。他の店や学校のケーキはこれの比率が高すぎたり濃すぎたりして、私にはくどいと感じてしまうことがよくあるため、プラリネのはいったケーキは少し警戒して食べているんだけど、これはちょうどいい重さでバニラの風味もして嬉しい。プチガトーのパーツで考えるとプラリネは特に差がつく部分だと思っている。ナッツのペーストは工場生産のものがコストも低く、規格がぶれにくいので使っている店が多いと思うけど、パーツとしてそのまま取り入れるには少し落ちるように感じる。大規模な工場で生産する場合には必ず入れる必要がある添加剤があるからだと日本の製菓メーカーの人に聞いたことがあるけど、実際のところはどうなんだろう。

このケーキはしっかりとしたひとつひとつのパーツを使ってクラシックなサントノレから想像される構成や模様を保ちつつ、綺麗に組み直されていると思う。ただこのケーキは鮮度によるふり幅も大きそうで、キャラメリゼした外側のサブレの食感、シャンティ―の滑らかさ、シューの食感、プチシューのカラメルの食感など、水分移行で味がブレやすいのかもしれない。どのケーキでも言えるけどできるだけ組み立て直後に食べるのがよさそう。

このサントノレのレシピがネットにあがっているのを発見した。
自作すると一番新鮮な状態で食べられるのでぜひ作ってみてほしいしできたら食べさせてほしい。


Paris-Brest 100% Pistache

店で定番の形のパリブレスト。
〇構成
pistaches finement salées
crèmeux pistache
pâte à choux
crème praliné à la pistache allégée
décors pâte à choux pistache
glaçage pistache

ピスタチオのプラリネがすごく美味しいし、おいしい自家製プラリネを使っているから付随していろんなパーツがおいしい。ピスタチオは他のナッツと比べても特に市販のペーストやプラリネに独特な味があるように感じる。100%ピスタチオという名前だけあって内側のパータシュー以外の全てにピスタチオがメインで使われているんだけど、それぞれのパーツが異なるテクスチャーで時間差で口の中で変化するからか単調な印象は感じない。パーツ数も多いけどそれぞれをしっかり主張させつつひとつのテーマだけでケーキになっているのがすごい。
当然だけどピスタチオが苦手な人は苦手だろうし、ピスタチオ好きならかなり好きなはず。既存であるレシピにピスタチオパウダーやペーストを足しただけではなければ他の素材で厚みを出しているわけでもないのに単一テーマで美味しいケーキ。そういうものを作ってみたいしもっと探したいなと思った。

デザインも好き。少し厚めのつるつるのグラサージュ、シュー生地を細く絞った飾り、真ん中で切るとプラリネとカラメリゼしたピスタチオがあふれてくる。提供時だけでなく食べ始めてからどう変化するかまでデザインされている。この形のパリブレスト、前回はペカンナッツで出していたらしい。食べてみたかったな

Tarte Pécan

店で定番の形の垂直タルト。
〇構成
pâte de pécan
bonbon pécan whisky
pâte sucrée pécan sans gluten
biscuit slim pécan san gluten
glaçage neutre au sirop de mais noir
chantilly colée pécan whisky

垂直なタルトも季節によって木の部分のデザインと味は変わるがマンダリンオリエンタルパリでは定番の形になっている。細いチョコレートの飾りに2㎜ほどの葉を1枚ずつナパージュでつける。この組み立てが難しく、かなり慎重に作業をしても高確率で割れてしまうので注文が入るたびに深呼吸をする必要があった。これほど繊細な垂直タルトは単価の高いレストランでないとなかなかできないと思う。
今回はペカンナッツとウイスキーがテーマで、ウイスキーのボンボンショコラが乗っている。これもアルコール感はほとんどないので食べやすい。フランスではペカンナッツを使ったケーキを見かけることが多く、個人的に好きなのでそれが入っていると購入することが多い。このタルトのムースではペカンナッツペーストが中心に均一に薄く入っていて、渋さの強すぎないちょうどいい割合で美味しかった。
ウイスキーのボンボンショコラ、グルテンフリーのタルトとは合わせて食べたことがないので食感としてもやっぱりそれも合わせて完成するんだろうなと思う。単体で食べたこのタルトもとてもおいしくて、グルテンフリーとは思えないというよりむしろ、グルテンフリーでないと出せないもろい食感、味だと感じた。食べものを提供する場合のネーミングによる受け取り方への影響はかなり大きくて、無意識のうちにグルテンフリーという言葉だけをきくと味へのマイナスな印象をもつことに気付いた。
全体を通してチョコレートやペカンナッツの組み合わせはくどくなりやすいけど、まだ食べたいと思えるとても好きな味。ウイスキーの主張も激しくなく、深みがでていて美味しかった。

ペカンナッツは前回のパリブレストに続いて同じメインテーマとして扱われているが、パリのパティスリーを見る中で製菓雑誌の"FOU DE Pâtisserie"では2022の流行食材として挙げられていた。雑誌では他にこのタルトに使われているシャテーヌパウダー含む11種類の素材が挙げられていたけど、日本でも素材単位の流行って結構あるのかな

Black Mango

2022年11月の新作のケーキ。
〇構成
pâte à choux sans gluten
confit gimgembre
gel mangue
brunoise de mangue cuisinées
mousse vanille grillée
flocage noir
berre de cacao vanille grillée
décor pâte à choux

最初に食べたときびっくりした。かなり好き。香りを元にケーキを考えることが多いと言っていたけど、それを強く感じた。いい意味で香水を食べているような味。
グリルしたバニラのムースに米粉とシャテーヌとコーンスターチのパータシュー、薄いホワイトチョコに包まれた自家製のしょうがコンフィとフィンガーライムをあわせたマンゴーのグリル、とろみのついたマンゴーは素材より素材らしいように思えた。
素材の足し算ではなくて掛け算になっている。ただパティシエ内でも意見が割れていて外側のフロッカージュが合わない人もいたり、万人受けとは言えない味なのかもしれない。
好き嫌いはわかれるのかもしれないけど他にないこのケーキ私はとても好みだった。
見た目はグラサージュとフロッカージュ、パータシューがすべて黒で、花びらのオレンジを差し色に締まる。切るとグリルしたバニラのムースと鮮やかなマンゴーの色が現れる。
フィンガーライムやしょうがのコンフィ、グリル感も意識すると風味を感じる程度で、わざとらしくない隠し味のような使い方がいいなと思った。バニラをオーブンで焼いてアンフュゼする手法も知らなかったし、このケーキひとつでも学べることが本当に多かった。どれも期間限定なので、ここで食べたケーキをもう食べられることはないんだろうなと思うと寂しい。


Bûche de Noël 2022

ブッシュドノエル2022
〇構成
croustillant sucre noir d'Okinawa et bubu arare
biscuit chocolat intense
crémeux Loma Satavento et poivre rouge
gel mandarin Iyokan, gimgembre Kogane et baie de Tasmanie
mousse légère chocolat et poivre rouge de Madagascar

最初見たときチョコレート細工かと思ったくらい細かくて綺麗。すべての工程が完全に手作りで、持ち手についた飾りのパーツも含めて型から作っている。扇の上部分もプリントではなくひとつひとつシェフが描いている。扇はマンダリンオリエンタルグループのアイコン。ケーキには全然見えないし、これが何十台も並んでいたクリスマス直前は圧巻だった。パティシエ部門は12人だけど、ブッシュを作るのは完全にシェフとスーシェフの2人だけの仕事で他の人は全く触っていなかった。
見た目だけでなくて構成もすごい。テーマはVoyage au Japon、日本への旅なんだけど、なかなか日本でも見ないような材料を使っていた。調香師とのコラボらしく、香りからの発想でテクスチャーで各パーツを選んで組み立てていくそう。1台108€だったかな。手間やこだわりを考えると安すぎるくらいだと思う。ブシェットとして、小さめの似た構成のケーキもクリスマスの時期には販売していた。

その他印象的だったもの

マンゴーのリオレ:フロカージュした球状のリオレにマンゴーのソース  お米はイタリア産carnaroli
ジャスミンのホワイトティーのクリームとマンゴー×シトロンノワールのルリジューズ:このジャスミンのホワイトティーのクリームがとてもおいしかった。ジャスミンのホワイトティー。上に重ねるシューはクリームではなくてcitron noir入りのパイナップルのグリルとジュレが入っていた。そこまで強くなかった
シャンティヴァニーユ:たっぷりのバニラとゆるめのマスカルポーネ、ヴァシュランやサントノレに使う。クリームだけで美味しい
ホットワインのババ:vin chaudモチーフのサヴァラン作ってみたいと思っていたので。上掛けはナパージュではなく寒天いりのシロップ?ジュレもグラサージュもルセットメモしてる。
キウイのエヴァンタイユ:アメニティとして全客室に置かれる。小さくて一見普通のチョコレートだけど、キウイのジュレとグルテンフリーのビスキュイを詰めてピストレまで全部手作業
chocolat-tonka-lavande:レストラン用のデザート。組むのが大変。グラス、クリーム、サブレ、チョコレートで組み立てて、温めたチョコレートソースを添える。トンカ豆を使ったケーキはよく見られる
ショコラショー:牛乳と生クリームとGuanajaのショコラショー。バニラのプラリネをいれることもある

JING tea、ジャスミンのホワイトティー。中国からきているらしい
ルリジューズ
水分移行防止にカカオバターを塗ることはあるけど、粉状だと均一に広げやすいかも
ピンクペッパー?とカカオパウダーが混ざった粉。ブッシュのチョコレートに使っていた le comptoir des poivres https://www.lecomptoirdespoivres.com/fr/melanges-depices/poulet-des-iles-melange-d-epices-792.html  面白い素材多そう

シェフのおすすめパティスリーとルセット開発

このインターン先では直接教えられたことはもちろん、考えさせられたことも多く言語の壁があるとはいえ情報過多なインターン、パリ滞在だった。一度目のインターンや巡ったパティスリーもまとめられていないので、少しずつやりたい。
環境については、セキュリティや衛生もしっかりしていて、制服も毎日自動で管理されていたりしっかりとした昼食がついていたり、とても良い印象。学校生活はもちろん1回目のインターンとあらゆる面で相反していたことで、ケーキだけでなく働き方や生活面でも考えが広がっていくのが手に取るようにわかった。
マンダリンオリエンタルパリと言えば、ティエリーマルクスのイメージかもしれないけど、厨房が違うので1度顔を合わせたことがあるくらいで会話することはなかった。
あとは部門の先輩パティシエやほかのインターン生と合わなかったくらいかな。
パリ生活自体も不便は多いけど気に入っていて、総合的にはここにして良かったなと思ってるし毎日たくさんのことを学べたと実感しているのでとても満足している。

インターン終了後にシェフに感謝のメールと合わせて、厚かましくもパリおすすめのパティスリーとルセット開発の方法をきくと、とても丁寧に答えてくれた。おすすめパティスリーも最後においておきます。

〇シェフのパリおすすめパティスリー
3 chocolat
KL pâtisserie
La goutte d'or
Claire Damon
Yann Couvreur

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?