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#06 西新宿 都会に咲く花《SOMPO美術館》

私は今、トリュフデミグラスハンバーグのために真夏の炎天下の中1人で30分も並んでいる。
CLANEのワイドフラワープリントのシャツにも汗が滲む。

数日前にSNSで気になるお店を発見した。
その名も君のハンバーグを食べたいというお店。
なんともインパクトがある店名に誘われて西新宿まで来てしまった。

土日のお昼限定でしか食べることができない幻のハンバーグということもあり、12時の開店前からSNS世代の若い女性達が列をなしている。
皆、私と同じようにインパクトがある名前につられてやってきたのであろう。

開店すると順番に店内へ案内され、1人客である私はカウンター席へと誘導される。

店内を見回すと、夜はお酒を出す別のお店に変身するようで、カウンターにはデザイン性の高い美しい酒ボトルが並んでいる。

「当店のご利用は初めてですか?」

フレンドリーで爽やかな店員さんが話しかけてくれる。

「当店のメニューはハンバーグ1種類のみとなります。こちらのメニューをご覧になってお待ち下さい。」

っと言って1種類のみが書かれたメニューを渡された。
メニュー1種類なのにメニューいるか!?っと思いながら文字を読む。そこにはこだわりのメニューの説明が書かれていた。

「トリュフデミグラスハンバーグ 肉肉しく柔らかジューシーな究極のハンバーグを目指し、試作を繰り返した結果、黒毛和牛と三元豚に行きつきました。肉の旨味と甘味を味わいください。ソースはトリュフを刻んでフォンドボーに入れ、たくさんの野菜と煮込み、今までにないデミグラスソースが出来ました。」

ハンバーグが来るまでに間に、強制的にこれから食べる料理の予習をさせられる。
今から食べようとしている味をここまで言語化して可視化されると、脳が文字通りの味を感じてくれそうだ。

「おまたせいたしました。」

目の前に予習した通りのハンバーグが置かれた。
丸みを帯びた曲線のハンバーグがソースの輝きに包まれて見た目が美しい。
食べる前に写真におさめる。
味の感想は、お店のメニューの説明文にお任せする。自分で感想を述べるより上手くまとまっているから。

「あぁ〜。満たされたぁ。」

お店を出て太陽がさんさんと照る空の下伸びをした。

食事を終えお腹は満たされたが、休日を終えるにはまだ時間が早い。

西新宿といえば2020年に新しく生まれ変わったSOMPO美術館がある。新しくなってから行ってなかったからこの機会に行くのもいいかもしれない。この暑い夏にピッタリなあの絵を見に久しぶりに涼みに行くか。

SOMPO美術館は、1976年に安田火災海上(現損保ジャパン)が本社ビルの中に東郷青児美術館として開館したのが前身だ。

「わ〜。新宿の高層ビル群が立ち並ぶ間にオシャレな建物が出来てる。」

やわらかな曲線デザインで構成された6階建ての低層ビルだ。ガラス張りの入り口は、ふらりと入ってみたくなるほどの開放感がある。ビジネス街の忙しい空気感の中に突如現れたのんびりな時間流れる空間がいい意味で浮いている。

チケットを購入し、エレベーターに乗り展示室へ向かう。

「あ〜。涼しい。夏の美術館って最高だよね。涼しいし、静かだし。たいがい空いてるし。」

順路に沿って展示を鑑賞しつつ、お目当ての作品を探す。最後の最後で危うく素通りするところだった。

「あった。あった。この絵が見たかったのよ。」

この美術館の一番の目玉といっても過言ではないファン・ゴッホの「ひまわり」。
厚塗りの筆のタッチとオレンジのひまわりの色彩が花に生命力を与え、エネルギーを感じる。

明らかに他の絵画とは待遇が違う。特殊なガラスで絵画は覆われ、「ひまわり」だけを照らす専用の照明がやんわりあてられて、展覧会のオオトリとしてラストに鎮座していた。それもそのはず。この絵画は、当時約53億円で落札されたと言われている。

「これが53億円か〜。何もわからず見たら53億円の価値を見出すのは難しいかも。」

今では、誰もが知る超有名な画家のゴッホであるが、生前は全く売れない画家であり、破天荒な性格で狂気的な人生を送っていた。もしも、ゴッホが生きている間に画家として成功していれば、彼の死後にこんなにも世界中で有名な画家にはなっていなかったかもしれない。
今では、ゴッホの作品そのものが素晴らしいのは勿論。彼の狂気的な人生も作品の付加価値を押し上げるストーリーとして人々に認知されているはずだ。

いくら素晴らしい作品があったとしても、売り方一つで作品の評価は随分と変わるものだ。お節介ながらゴッホの「ひまわり」にお品書きを添えてみた。

こんなのはどうだろうか。

タイトル:「狂いそうなほど君にこのひまわりを届けたい」

この絵画のストーリー:「1888年の夏。それは僕にとって夢と希望あふれる一夏でした。僕は、南フランスのアルルへ移住しました。この地へ来て『この地に画家仲間を呼び、芸術家の共同体をつくりたい』という夢ができました。僕の呼びかけに同じ画家のゴーギャンがおうじてくれ、彼がアルルに来ることになりました。そこで僕は思い立ったのです。ゴーギャンとの共同の生活の場であるアトリエを12枚のひまわりの絵画で装飾しようと。」

作品を描いた背景や意図、制作の思いの説明をストーリー仕立てに作品に添えて当時人々に公開していたら、また違った人生があったのかもしれない。

ゴッホは弟に宛てた手紙の中で、このように語っている。
「結局ボクの絵は、生きている間には理解されないだろう。でも100年後の人々の心を癒せるような作品が残せればいいと思っている。」
彼の思った通り、彼の作品は、彼の死後100年以上たった今も世界中の多くの人の心を癒している。

プロモーションとマーケティング次第で素晴らしい作品がより多くの人々に知られ認知され、彼が生きている間に自分の画家としての成功している姿を実感することが出来たかもしれない。
拡散力は、人の人生を左右する。

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#07 上野 アートに学ぶビジネスの法則 《国立西洋美術館》

※本日の美術館※
SOMPO美術館
https://www.sompo-museum.org
※本日のグルメ※
君のハンバーグを食べたい
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13257111/
※本日のファッション※
CLANE
https://clane-design.com