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47.2㎏、目標達成。もうがんばらなくていいや。

下咽頭がんの化学放射線治療から約6年3か月。食道がんの手術から約5年6か月。
ひとつの目標にしていた体重をクリアした。

病気がわかったのは44歳のころ。もともと胃腸が強くなく、「最近たくさん食べているな」と思って体重が少し増えると、ひどくお腹をこわして数日あまり食べられなくなり、すっと戻るというのがパターンで、細身と言われていた。

それでも、代謝が落ち始める年齢でもあり、じわじわ太ってきたと感じ始めて、できるだけ太りたくないと焦り始めていた。身長161㎝、体重はその頃51㎏くらいになって、夕食ではあまりごはんを食べていなかったと思う。食べても70グラムくらいに少なくしていたはずだ。


喉の治療方針を固めるとき、「この病気で化学放射線治療を受けた人は、10㎏くらい体重が落ちる」と言われた。10㎏落ちたら確実に痩せたことが見て取れるだろう。私は病気のことをあまり周りに知らせたくなかったから、痩せることをすごく恐れた。
治療の前に太っておけばいいのだとトライしたけれど、そこまでたくさん食べられる胃腸のポテンシャルはなく、増やせなかった。


化学放射線治療では、私は抗がん剤にすぐ反応して吐き気で食欲を失い、その後も不可解な激しいしゃっくりの症状で食べたものを吐いてしまったりした。放射線によるダメージが強くなったとき、「痛くても食べる」という選択肢もあったけれど、私にはそれだけのガッツがなくてしばらく絶飲食。「半分食べられるようになったら退院」と食べることを促されてからは、お茶碗やお皿に盛られた病院食が半月の形になるまで線を描くように半分食べて、「半分食べました」と報告した。
退院のころ体重は44㎏。7㎏減。

その半年後、食道摘出の手術を受けるときにも、同じように平均的に10㎏くらい体重減少が予想されることを説明された。
手術後は、食道を切った胃管との縫合部がきちんとくっついたことを確認できるまで完全絶飲食。飲水や食事が開始された後は吐いたり下痢したりしがちで、胃袋がなくなったから飲食できる量がずいぶんと減った。
最低体重は退院してから自宅でマーク。39㎏台を見て、この身長で40㎏を切るのはさすがにまずいとショックを受けたことを覚えている。

それでも、10㎏落ちると言われた食道摘出の後の5㎏の減少と考えれば悪くはないのではないかと自分を励ましたりもして。結果的に、2つの治療を合わせて10~11㎏の体重減少だった。


食道外科の主治医は退院後、「食べられるものは何でも食べていい。あと30年生きるためにこんなにつらい治療を受けたんだから、元の生活に戻らなきゃもったいない。1日5食なんて言ってたら旅行も行けないでしょ? できるだけ3食で済むようにがんばって食べて!」という主義。
私はこれに100%納得、同意した。

最初はごはん30gとおかずをちょこちょこと。おそらく赤ちゃんが離乳食から固形物を増やし、量を増やしていくような経緯をたどったのだと思う。ごはんを50グラム、70グラム、100グラムと増やし、おかずも増やしていった。

食べられる全体量が少ないので。何かを多く食べるとほかが食べられなくなって、栄養が偏りやすい。また、消化器官をいじったので胃腸に馬力がないというのか、下痢など調子を崩しやすかった。飲み込みやすくて、体調を崩しにくくて、栄養のバランスにも気をつけて…と、いわゆる「健康的な」食事を自分に食べさせるようになった。子どもがいない分、自分を通して子育てを少し経験できた気がする。

飲み込みづらくて難敵だった鶏肉を喉に詰まらせた術後2年め、食道拡張術を受けてからは、加速的に通常食になっていった。
体調にもよるけれど、最近はお店で出される定食一人前(ごはん少なめ)くらいは食べられる。途中で苦しくなる日は、20分くらい休憩をとって第2ラウンドで食べきる。「食べなくては」という意識がとても強く、「苦しいけれど食べる」のが当たり前になっていった。

正直なところ、たくさん食べることはストレスだ。胃が袋状態だった時には、お腹いっぱいでももう少し食べられる“別腹”の余白があったけれど、今はまったくない。「お腹いっぱい」は、あと少しでも空気を入れたら破裂する…または空気を止めている指が今にも緩んで空気が漏れ出してしまいそうに、びっちびちの縦長の風船が腹部にあるような感じ。身体を傾けられなくなり、背中ががちがちに凝り固ったみたいでにぶく痛いような感覚を覚え、「苦しい、苦しい」と口に出してしまうほどには苦しい。

でも、40㎏を切ったときのかりかりな自分の姿を見るストレスのほうが、私には大きかった。
1日数回の食べるストレスのほうが大きすぎて、精神的に参ってしまう人もいるだろうと思う。年齢的な体力の違いもあるはず。(私は食道がん患者としては若手)だから、どちらがいいなどと一概には言えないけれども。


手術前の体重の44㎏には、わりと着実に戻った。食道摘出からプラスマイナスゼロって、なかなか頑張ってるなとひそかに自信にした。でもそこからが長く、1年かけて1㎏増で安定させ、また1年かけて1㎏増を安定させていくペースで。
先日、初めて47㎏を突破。

45㎏くらいのときはまだなんとなくか弱く見えたし、体力的にももう少し強さが欲しかった。見た目や体調的にいちばんバランスがいいのは47㎏ではないかと思えて、自分の中での漠然とした目標体重に設定されていた。

目 標 達 成。

体重計の「47.2㎏」の表示を見て、「できたじゃん!」と、力が抜けた。もうがんばらなくていいや。夕食のごはんの量を80グラムに減らした。もし増やしたければ100グラムに戻せば太れるとわかったし、更年期できっと太りやすくなっているし。

晩御飯の後に限界の満腹にならないのは楽だ。でも、術後すぐに楽な状態から始めて、後からがんばることは絶対にできなかったと思うから、私はこのやり方でよかった。


病気前は、久しぶりに会った人にいつも「痩せた?」と言われていた。痩せていなくても。むしろちょっと体重が増えていても。生活のサイクルはめちゃくちゃで、栄養も偏っていた。そのせいで顔がやつれていただけ。
その頃より4㎏くらい痩せている今の方が、顔はふっくらしている。
(加齢によるむくみの可能性も否めない)


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