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炎の魔神みぎてくんハイビジョンデジタル 5.「その…映像はよかったようなんじゃが…」①

5.「その…映像はよかったようなんじゃが…」

「ふう、いよいよ市内ロケのスタートか…」
「俺さま、もうこの時点でぐったりきてる」

 「バーチャル市内観光」の説明を済ませた時点で、もはやコージもみぎてもへとへとになっていた。興奮したポリーニの説明そのものもすごいのだが、彼女の説明がドラゴンにちゃんと伝わっているのかが微妙に怪しい。みぎてとちがってポリーニにとっては精霊語は外国語だし、首長竜かあさんのほうはどうも変な方言が入っているので、複雑な会話になると一気に混迷の度合いを深めてくるのである。もちろんみぎてもシンも(責任上)一生懸命補足説明をするのだが、ポリーニの説明は変に専門用語が多い。みぎての学力では訳しきれないのは当然である。さらに厄介なことに、首長竜かあさんのほうは…どうやらあの巨体で昼間市内観光する気まんまんだったようで、説得するのにこれまた一苦労だった。

「かあさん、どうもガイドブックで結構研究しているみたいなんだよね…」
「が、ガイドブック…」
「バビロンの観光ガイドってあるんだ…俺さま見たことねぇや…」

 驚いたことにシンの母上は、人間界に遊びに来るということであらかじめちゃんと観光ガイドブックで予習をしていたらしい。たしかに観光旅行に行く場合の当然の準備である。が、まさか水の精霊界に人間界観光ガイドが発売されているなど、いくらコージだって知るわけがない。というか自身が魔神族であるみぎてが知らないのだからあたりまえである。
 しかしよく考えてみると、観光ガイドブックで名所旧跡やおいしい店を予習する前に、人間界の決まりごと…たとえば交通ルールとかを予習してほしいような気もする。コージの知っている限り海外旅行のガイドブックにはちゃんとそういうことも(本の最初に)載っているはずなのだが…やはりそういうめんどくさいところを読み飛ばしてしまうというのは、人間でもドラゴンでも同じなのかもしれない。

 さて、既に時刻は九時を回っているので、そろそろバーチャル市内観光のスタートである。予定通り市内観光担当はコージとみぎて、そしてシンである。「おふくろさんを連れて観光するという設定」なので、カメラの前にはシンが映っている状態でないと困るわけである。
 ポリーニは改良した「ハイビジョン念写装置」をみぎてに渡す。前回のヘルメット用懐中電灯そっくりの念写装置からみると、若干大型化しているような気がする。

「これ、頭につけるのか?ちょっとでかいぜ」
「やっぱり無理?じゃあ肩にしてよ。肩の上にくくりつければいいじゃない」
「…くくりつけるのかよ…」

 さすがにこのサイズになると頭のところに固定するというのは無理なので、今回は肩の上に抱えた状態で持ち運ぶことになる。まあ重さのほうは魔神族のみぎてにとってはたいしたものではない。が、それなりにかさがあるので、なんだか本当にテレビ局のカメラマンという感じである。

「今回は前回と違ってかなり通信距離が伸びているはずだわ。バビロン市内ならほとんど全部カバーするはずよ」
「まあそれならいいけどさ。…このレンズみたいなのは何なんだ?」
「あ、それ?かっこいいでしょ?カメラみたいで…」
「…カメラみたいでって…」

 よく考えると念写なのだから、みぎての目が見ているものがそのまま送られるはずである。決してこの装置で撮影しているわけではない。それにもかかわらず妙なレンズが二つばかり設置されているのは、これはどうやらポリーニのデザインらしい。

「…ってことは恒例のさくらんぼマークもついているんだろ…」
「もちよ。ほら、ここ…」
「まあ小さいから我慢する…」

 ポリーニのブランドマークは真っ赤なさくらんぼ印である。どんな発明品だろうがなんだろうが、意地でもこのマークをつけるのが彼女のルールらしい。今回は箱ものの発明品なのでそんなに目立っていないが、よく彼女が作る変な服(これも発明品である)などの場合は、それがたとえ野球のユニフォームだろうが紳士服だろうが、絶対どこかにさくらんぼ印が使われている。下手をすると布地そのものがさくらんぼだらけである。

「で、コージには逐次こっちから電話入れるわ。そっちの会話は念写装置が送ってくれるけど、こっちからは送れないし…」
「…ってことはこっちの会話筒抜けかよ…」
「当たり前じゃないの!ロケなのよロケ」

 まあテレビのロケでも当然だが、生中継の場合は雑談だろうがなんだろうが筒抜けである。下手にポリーニの悪口を言おうものなら大変なことになる。逆はまったく聞こえないらしいのでなんだか不公平な気がするが、これはライブ中継のお約束であろう。
 ということで、準備に少々手間取ったがいよいよバーチャル市内観光は出発とあいなったわけである。ポリーニが口三味線ファンファーレを鳴らすと、六〇インチ液晶大画面テレビにハイビジョンの映像が映る。当然これはみぎての視界である。

「じゃあそろそろ出発する。シンさん、おっけーですか?」
「うん、OKだよ。それじゃかあさん、最初にどこがいい?市内ならどこでも大丈夫みたいだから…」

 バーチャル市内観光の目玉は、ハイビジョン念写の高画質映像もあるが、むしろ行きたいところにカメラマン(みぎて)が行ってくれるという点である。電話で連絡すればどこだってゆく、まさしく双方向番組なのである…が…

「△○×○□…」
「えっ?」
「…」

 首長竜かあさんの最初のリクエストを聞いたシンは一瞬凍りついた。いや、この場にいる全員一応は精霊語がわかるので、ドラゴンが言った言葉くらいはすぐに聞き取れる。が…それはちょっと厄介な場所だった。

「…オペルクラリア?それって…」
「…婦人服と雑貨の有名ブランドショップですよねぇ…奥様方に大人気の…」
「…いきなり難易度高いぜ、コージ…」

 セレブな奥様方には評判のブランド…しかし男性陣、それもコージたちのような貧乏学生にとってはまったく縁のない婦人服ショップが最初のターゲットだったのである。

「ドラゴン向けのアイテムなんてあるのかなぁ…」
「…さ、さあ…婦人服なんかわかるわけないし…」

 ディレルの無意味に冷静な発言に、コージは半分投げやりに答えるしかなかったのは言うまでもない。

*     *     *

 「オペルクラリア」は、バビロンを本店として世界各地で人気の高級ブランドである。婦人服や婦人向け雑貨、かばんなどが代表的だが、ほかにもコスメティック用品や家具、香水、果ては自然食レストランまで手広く経営している会社だった。特に婦人服では大胆なデザインの中に伝統的なモチーフを取り込んで、若い人からマダムまで支持を集めている。ユリのつぼみのようなマークは婦人服には疎いコージだってよく知っているほどのブランドだった。
 とはいえ、コージもみぎても、バビロンのオペルクラリア本店など行ったことがあるわけはない。もちろん超有名店ということで場所だけは知っているのだが、店の前を通過するだけで中をのぞいたことすらないというありさまである。(見たことがないのであくまで推定だが)店内にはセレブなおばさまか、ラブラブのアベックか、そういう人ばかりだという気がする。

「シンさん、行ったことある?」
「うーん、オペルクラリアはちょっと婦人向けが多いし、あんまり僕のキャラには合わないんだよね。」
「あ、そうかぁ…シンさんスポーツブランド向きだから…」
「そうなんだよねぇ…」

 もちろん多角経営しているオペルクラリアなので紳士向けの商品も少なからずあるのだが、「元水球選手」ということを売りにしているシンの場合、同じ高級ブランドでも紳士向けブランドやスポーツブランドのほうが合うらしい。キャラクターというやつである。あと体型の問題もある。みぎての場合が極端なのだが、シンも少なからずスポーツ体型…つまり筋肉がっちりの体型なのである。婦人服系のブランドの服の場合(ユニセックスになるので)合わないことが多いのだろう。
 ともかくコージたちよりずっとお金持ちのシンですら行ったことのないお店ということで、これはもう未知との遭遇、ミステリアスゾーンへの突入ということになる。さらに最低なことに、今回はメンバーが「男・男・男」というあまりにも高級ブティックには似合わない組み合わせである。扉をくぐった瞬間の痛い視線を想像するだけでうんざりしてしまう。
 が、指令は指令である。首長竜かあさんの熱い希望なのだから、やはりかなえてあげるのが親孝行というものだろう。

絵 武器鍛冶帽子

 ということで、三人はまたしてもドルチェタウン(先日の焼肉パーティー会場近辺)へと到着した。「オペルクラリア・バビロン本店」のビルはドルチェタウンの中心部、服飾ブランドの店が集まっている一角にあるのである。

「…なんだか俺さま浮いてねぇ?」
「…心配するな。みんな浮いてる。」

 朝十時すぎのドルチェタウンは、先日の焼肉パーティーの時とは違ってスーツ姿のビジネスマンやOL、それからショップ店員らしいおしゃれな服装の人が多い。まだお客が来る時刻には少し早いというのものあるが、それ以上にコージのような学生らしい風貌の人物などほとんどいないのである。さすがにシンになると(放送局の多いドルチェタウンなので)なじんではいるのだが、このメンバーで行動すると台無しである。
 「オペルクラリア本店」は、そんなドルチェタウンの一角にあるビルの一階にあった。ビル全体が「オペルクラリア本社ビル」で、そのうち一階と二階が本店になっているのである。一面ガラス張りのショーウィンドウがすごくおしゃれで、商品の写真やモデルのアップがわざとモノクロで描かれている。正面にはこれまた全面ガラス張りの自動ドアがあって、そこから店内に入ることができる。
 店の前に着いたということで、コージは携帯電話でポリーニに電話をかける。

「…えっと、あ、ポリーニ?ついた。今からオペルクラリアにはいる」
「見えてるわよ!ちょっとシンさんに伝えて。店の紹介とか説明とかしてほしいって」
「えっ…はいはい…」

 うっかりド忘れしやすいが、こちらからの映像と音声は本部…つまり首長竜かあさんのいるバビロン大学に直送である。おそらくあの六〇インチテレビの前で首長竜は釘付け状態になっている可能性が高い。やはりシンがリポーターらしく解説のひとつもするのがよいだろう。

「えっと…じゃあカメラ…ってみぎてくんがカメラそのものなんだよね…うーん」
「みぎての視界をそのまま送ってるんだから、そうなるよなぁ…」

 ポリーニにせっつかれて、シンは困ったような表情になるが、そこはプロである。あきらめたようにカメラ…つまりみぎてに向かって語りかけはじめた。

「えっと、かあさん。ここがオペルクラリアの本店だよ」
「げげっ!『かあさん』って俺さまに向かって言うと、めちゃくちゃ怖いんだけど…」
「でもみぎてくんがカメラ代わりなんだから…そうなんだよねぇ」
「…電話の向こうで爆笑が起きてる…」

 理性ではわかっていても、やっぱりこんな大男に「かあさん」と呼びかけないといけないという事実は、これはちょっときついものである。呼びかけるシンもそうだが、呼ばれるみぎてもつらい。赤面を通り越して赤黒くなってしまうくらい恥ずかしいのは当然だろう。どうやら電話の向こうのポリーニたちは、今頃になってそんなシチュエーションに気がついたらしく、腹を抱えて笑っているようである。いい気なものである。
 さて、こんな最低のロケはほどほどにして、いよいよ三人は店内に突入する。実はさっきから(店頭であんまりへんなことをしているので)店員さんやお客さんがじろじろとこっちを見ているのだが、もはや破れかぶれである。芸人は体を張るのが商売…といいたいところだが、みぎてとコージは現時点では決して芸人ではない。

「…俺さますっげぇどきどきする」
「そこまで緊張することないとおもうけど…単なるお店なんだし」
「っていっても、これは斥力感じるかも…」

 ドアをくぐると、そこは金色の光に包まれた店内だった。暖かい色の照明が店いっぱいに広がり、左右にはたくさんの婦人服が釣り下がっている。ワンピース、ツーピース、スカート、ジャケット、コート…既に季節は秋も半ばを過ぎているので、冬服ばかりである。一角にはブーツやハイヒールのような靴のコーナー、ハンドバッグのコーナーもある。どれもこれもやはり高級そうで、ご婦人向けである。

「…うーん…」
「かあさん、何が狙いなんだろう…」
「コージ、電話で指示もらってくれよ」

 自分が着る服を探すというならともかく、こんな御婦人向けのショップでは、どこを見たらいいのかさっぱりわからない。一応それなりにお金があって、ブランドショップなども知っているシンですら立ち往生寸前である。ましてや貧乏学生のコージとみぎてにいたっては、なんだかもう落ち着かないというか針のむしろというか…さっさと逃げ出したい気分でいっぱいなのは当然だろう。
 しかたなくコージは再び携帯を取り出して、本部のポリーニに電話をする。と…

「もしもし」
「あ、コージくん?セルティです。みぎてくんからみて左奥のほうの棚のバッグがセールなのよ。確認して。それから終わったら二階に上がって…」
「…セルティせんせがなぜ出てくるんだよ…」

 なぜかコージの電話を取ったのはポリーニではなくセルティ先生である。どうやら先生はオペルクラリアのショップについては(さすがに同じおばさんらしく)やたら詳しいらしい。というよりこれはセルティ先生とドラゴンかあさんが意気投合している可能性が高い。もしかするとこの店を勧めたのはセルティ先生かもしれない…
 というわけでコージたちは指示されたとおり、左奥の「オータムセール三〇~六〇%OFF」という棚をチェックする。確かに定価十万円くらいするバッグなどが、半額くらいになっている。といってもさすがにブランド品なのでコージたちの感覚からはやっぱり高いのだが…
 と、そのときやっぱりコージの携帯がぶるぶる震える(バイブモードである)。

「はいもしもし…あ、セルティ先生」
「それ。その黒の革のハンドバッグよ。あと二段目のトートバッグも抑えて」
「…シンさんのおふくろさんじゃなくて、セルティ先生がほしいんじゃねぇの?」
「…うーん、そうかも…まあ先生が買う分は後で払ってもらうからいいんだけどねぇ…」

 疑惑はすごく大きいのだが、ともかくシンは指示通りにバッグを手に取ると、レジに持っていって支払いをする。

「おっけいよ。次は二階に行って」
「二階ね。はいはい…」

 もはや何の感慨もなく、三人は言われるままに二階に向かった…が…そこはもっと男子禁制の場所だったのである。

「…ここって…」
「二階って化粧品コーナーかよっ!」
「…さすがに僕もここは…来たことないよ…」

 コージたちの目の前に広がっていたのは、ビューティー&コスメティックコーナー…化粧品や香水の売り場だったのである。三人は階段の踊り場でじっと立ちすくんだまま、しばらくの間金縛りにあってしまったのは言うまでもない。

*     *     *

 ほうほうの態でようやく「オペルクラリア本店」を脱出したコージたちは、ドルチェダウンの一角の喫茶コーナー(ここは今流行のオープンテラス式のカフェなので、今日のようによく晴れた日は最高である)で、いきなりの休憩ということになった。ちょっと早いのだが意外と荷物が多い。つまり、例のハンドバッグとトート、それから二階で購入したクリームとか口紅とかである。

「…ドラゴン用の化粧品があるなんて…俺さまぜんぜん知らなかった…」
「…うーん、僕も知らなかったよ。かあさんいつの間に…」

 紙袋の中には、ほとんど梅干のつぼとしか言いようがないサイズの大きなビンが二つも入っている。「うろこ・つめお手入れクリーム」とかいうもので、爬虫類系種族の化粧品らしい。それもこのサイズは明らかに大型種向けである。そんなにドラゴンがこの世に多いというわけではないだろうが…それでも商品があるだけびっくりである。ちなみに値段のほうは、このサイズだということを考えると意外と安い。量は軽く十倍あるのに値段はせいぜい三倍である。やはり化粧品の値段は中身よりビンのほうが主なのかもしれない。たしかにビンは乳白色の美しいもので、それなりの値段がするというのは間違いなさそうである。

「えっと…そろそろディレルがくるはずだよな、コージ…」
「うん、さっき出るって連絡入ったから、もう来るとおもう…」

 実はコージたちがここで休憩している理由は、単に疲れたからというだけではない。買った商品をディレルに渡して届けてもらうためである。何しろこれだけの大きなビンやかばん類なので、これを抱えたまま街をうろうろするのはいやなのである。特にビンは2つでおそらく5キロくらいはありそうである。既にみぎてはポリーニの念写装置を抱えている状態なので、これ以上の荷物を増やすのはあまりいいとは思えない。
 と、店の前にちょっと古い軽トラックが止まる。トラックには「銭湯潮の湯」の文字が書かれているので、あれはディレルの車である。

「あ、ディレル、来た来た」
「お待たせ。大変だねぇ…」
「もうとんでもねー赤っ恥。俺さま化粧品コーナーはもう行きたくないぜ」
「普通二度と行かなくて済むとおもうけどさ…」
「どうかなぁ。最近は高校生とかみんなコスメしてるよ。眉毛整えたり…」

 たしかにシンの言うとおり、最近の男子高校生とかはずいぶんおしゃれで、眉毛を整えたりにぎびのケアに気を使ったりとなかなか熱心である。コージは薬局のコーナーやコンビニで買っているのだが、たしかにいずれ専門の化粧品屋が普通になるかもしれない。おしゃれに油断は大敵である。
 さて、ディレルはコージたちから荷物を受け取ると、首を傾げていった。

「あれ?ケーキは?」
「ケーキ?聞いてないけど…」
「ポリーニ連絡忘れてるんだ。えっとね、この店のミルクレープは有名なんだって。だからホール2個買ってきてって…」
「…2個…ひとつは首長竜おばさんの分ね…」
「かあさん甘いもの好きだからなぁ…」

 生放送なのだからということもあるが、どうやらポリーニは単なる休憩など絶対に許してくれないようである。しかし立ち寄った店でかならず名物を買えというのは、彼らの荷物がまったく減らないということを意味する。とりあえずこれではこの後も何回かディレルに荷物を回収に来てもらうしかないだろう。
 さて、駐車違反が怖いディレルは、店からケーキを受け取るとさっさと本部に帰る。残った三人はコーヒーを飲み干すと次の任務である。

「コージ?次の行き先よ!」
「はいはい、聞こえてる。どこに行けばいいんだ?」

 さっきの婦人服や化粧品コーナーのことを考えると、もうたいていのところは怖くないという気がする。これ以上ひどい場所といえば婦人下着の店くらいなものであろう。
 ところが…次の目的地はコージにとってちょっと意外な場所だった。

「バビロン・スカイガーデンよ。あたしも行きたかったわ~」
「…スカイガーデン?…」
「それ、たしか遊園地だろ?観覧車とかある…」
「うーん、また不吉な予感がしてきたよ…観覧車って…」

 どうやらシンの脳内に結んだ不吉な想像図は、大の男三人で観覧車に乗るというきわめて不毛な光景らしい。というかこの状態ではほぼ確実にそういう展開になってしまう。カメラ役のみぎてに向かって「かあさん、あれがバビロンの街だよ」とかいいながら男三人で観覧車というのは、想像しただけでも赤面したくなる最低の光景である。

「…俺さまおもうんだけど、これってドラゴン連れ歩くのとどっちがましなんだ?コージ…」
「…微妙かも…」

 まあ大渋滞を引き起こすドラゴンの街歩きに比べれば、それでもみぎてとシンの赤っ恥のほうがましとはおもうのだが…だんだん自信がなくなってきたのはコージ一人ではないだろう。

(5.「その…映像はよかったようなんじゃが…」②へつづく)

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