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炎の魔神みぎてくん すたあぼうりんぐ 6「あのころヒットした歌謡曲は」

6「あのころヒットした歌謡曲は」

 十一月になると、バビロンの街路樹の木々もすっかり色づき始め、朝晩の空気もすっかり肌寒くなる。特に今年は夏は暑かったせいか、秋がやたら短いような気がする。台風シーズンも終わったので、天気もすっかり落ち着いて雲一つない青い空がここ数日続いている。まさしく「スポーツの秋」という言葉がぴったりの最高の陽気である。
 残念なことにボウリングというスポーツは完全に室内ものなので、少々天気が悪かろうが関係がない。なんとなくこんなに晴れている日に室内競技というのはもったいないような気がしてしまうのも事実である。

 もっともコージの内心は、この晴れやかな天気とは裏腹に、かなり「不安いっぱいどんより空」状態である。いや、これはコージだけではない。相棒のみぎては当然のこと、なし崩し的に幹事をする羽目になったディレルも似たようなものだろう。熟練の幹事であるディレルですら不安いっぱいなのだから、経験ポイントが足りないコージが不安じゃない方がおかしいわけである。
 不安の原因はシュリやポリーニの発明品の問題ではない。もちろんそれも多少は心配ではあるのだが(調子に乗った二人がなにを出してくるか予想がつかない)、実はもっと本質的な心配だったのである。つまり…「予想以上にボウリング大会が好評すぎる」ということである。

 コージたちの年代の感覚としては、ボウリングは楽しいスポーツだとは思うが、あくまでそれだけである。ところがセルティ先生やロスマルク先生の反応を見てもわかるように、おっさんどもにとっては単なるレクリエーションではない…青春の一ページそのものなのである。魔法工学部の教授連中が、あっという間にぞろぞろと参加表明をしてくるなど、コージには全く予想できたはずはない。が、実際には声をかけた講座はほぼすべて、直ちに「参加」を表明したのである。もちろんシュリ夫妻の結婚記念日祝いボウリング大会である以上、にぎにぎしいのは大歓迎なのだが、この好評ぶりはうれしい悲鳴を通り越して、絶対失敗できないというプレッシャーになってしまう。不安にならない方がどうかしているとも思える。

「あ、コージ、みぎてくん、賞品重かったでしょ?」
「まあこんなのは平気平気…そっちはどうだよ?」
「みんな早く来てるんですよ。まだ受付開始まで一時間もあるのに…ほら」

 山のような賞品を持ってボウリング場に到着したコージたちは、困惑の表情を浮かべたディレルに迎えられた。アプローチの後ろに設置された長机には、エントリー用紙と参加費の徴収箱が置かれて、いつでも受付ができる状況となっている。そして周囲には大学の先生方とか、学生とかが、既にうろうろして雑談をしている。

「えええっ、ちょっと気が早すぎるぜ…」
「僕もそう思うんですけどねぇ…」

 驚いて周囲を見回すみぎての感想に、ディレルも同意したようにうなづく。いや、単純に気が早いだけではない…どうやら一部の人は受付開始時刻までの空き時間を使って、ほかのレーンを借りて投球練習をやっているようである。

「…怖いくらいに気合いが入っているように見えるんですけど…」
「うーん、そんな賞品すごくないぜ…」
「賞品のせいじゃないことは間違いなさそうですねぇ…」

 今回コージたちが用意した賞品は、参加費から会場代を引いた分で買った景品と、それからエラ夫人の口利きでショップから提供してもらったボウリング用品である。優勝はボウリングの球(ローリングテラーとかいうすごい名前のボールである)、あとはボウリングバッグとか、お米五キロとか、ティッシュペーパー五箱セットとか、洗剤とか、今流行の卓上空気清浄器とか、パソコンにつなげる小さな扇風機とか…当たってうれしいものから、明らかにはずれのものまでいろいろである。が、数は飛び賞が五人に一つくらいだし、決してすごいもの(商品券一〇万円とか)があるわけではない。実は業務用スーパーとギフト用品卸ショップで買いあさってきたものなので、総額としても見かけよりかなり安いのである。
 その程度の賞品を巡って、大学教授たちが死闘を繰り広げるという光景を想像すると、コージはますます頭が痛くなってくる。

「どう考えても、賞品目当てじゃないよなこれ…」
「まあ、そうでしょうねぇ…シュリさんの結婚記念日を祝ってこれだけ集まるって言うのも変ですし」
「つまり…みんな、ボウリング好き。ボウリング狂」
「うちの大学ってこんなに隠れボウリング狂多かったんですねぇ…」

 普段何気ない顔をして授業をしている教授たちも、「ボウリング大会」となると本気なのである。往年のボウリング大ブームの血が騒ぐのだろう…少なくともセルティ先生やロスマルク先生の様子を思い出せば、やはりボウリングというものがおっさんたちにとって特別な存在、青春の一ページであったことだけは間違いなさそうである。

*     *     *

「そろそろ受付開始ね。ずいぶん集まったじゃないの」
「あ、セルティ先生。思ったよりも大人気でびっくりしましたよ」
「ボウリングってほんと、みんな好きなんだな…ってせんせ、そのスカート…」
「今日のためにそこのプロショップで買ったのよ。どう?いけてるでしょ」
「…目のやり場に困るくらい似合ってます…」

 受付開始一五分前になって、セルティ先生とロスマルク先生がにこにこ笑いながら登場する。セルティ先生は薄いピンクの背中空きシャツに、まるでテニスウェアのようなミニスカートという反則すれすれのいでたちである。もちろんこんな季節なので、会場までは上に何か羽織ってきたのだろうが…とにかく熟女のムチムチ太股がちらりと見えて、ちょっと目のやり場に困るほどである。

「セルティ先生もマイボール買ったんじゃよ」
「うふふ、バビロン大学教授会ののダイナミックボンバーと呼ばれた私の腕を見せてあげるわ」
「…そのキャッチコピー、カラオケでも似たようなの出てましたよねぇ…」
「っていうかダイナミックボンバーでいいのか…」

 「バビロン大学教授会の○○○」というコピーがやたら好きなセルティ先生である。が、ダイナミックボンバーというキャッチから来るイメージは、どう考えてもパワー爆裂型である。ムチムチ熟女のダイナミックボンバーと言うだけで、コージの脳内には女子プロレスしか思い浮かばないのは正常な反応だろう。

「あ、来た来た、間に合わないんじゃないかと心配したよ」
「アニキ心配しすぎ。あたしだってもう女子大生なんだから、遅刻なんてしないって」
「ええっ、どうかなぁ」
「ってゆーか、まだ受付開始前だしー」

 セルティ先生たちに続いて登場したのは、ディレルの妹セレーニアである。今年女子大に進学したばかりの彼女は、ディレルとは好対象なほどの今時ネエチャン、イケイケギャルというやつである。今日も髪の毛をアップにあげて、メイクもばっちり、キャミソールの上からジャケットを羽織って、ミニのスカートの下にはレギンスという女子大生らしいファッションで登場である。ちなみに最初にディレルを紹介したときにも話したが、彼の自宅は銭湯を経営しているので、当然このセレーニアも番台をやったりするのである。イケイケ女子大生が番台をやる銭湯というのもいかがなものかとも思うのだが、気さくで度胸のある彼女はお客にも結構人気で、おじさんどころかおばさんがたにも不思議と好評なのがおもしろい。

「ディレル…妹さん、ネイルしてるけど…」
「あ、うん、ボウリングできるのかなぁ」
「平気平気。もうばっちり偵察済み。ネイル対応のボール置いてるの、調べてあるから」

 イマドキギャル(これも死語)には常識なのだが、セレーニアもネイルアートばっちり装備である。コージたち男性にはよくわからないのだが、あんなゴージャスに飾られたつけ爪でも最近はボウリングか可能らしい。ネイル保護用キャップのようなものがあるのだろう。まああんまり長い魔女の爪のようなネイルだとそれでも無理だろうが、今日のセレーニアのようなきらきらのラメをつけている程度のネイルなら大丈夫なのかもしれない。

 さて、妹が無事にボウリング場に到着したことで安心したディレルだったが、心配ごとはまだまだ多い。

「ところでコージ。ポリーニ遅いですね…」
「また変な発明品用意してるんじゃないだろうな…今回は発明品はだめだってあれだけ言ったのに」
「そんなのはじめから無駄ですって。前回抜き打ちでシュリさんが発明品出しちゃったんだし…」

 「ファウル防止お仕置き装置」の衝撃は、食らったみぎてよりも、発明品競争で出し抜かれたポリーニの方がはるかに大きかったのは明らかである。彼女が今日発明品を持ってこないことなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。もはやほかのお客さんに迷惑がかかるとかそういうものでないことを祈るしかないのである。
 と、案の定向こうからポリーニが、でっかいカートを引っ張りながらやってくる。隣にはひときわ目立つ長いブルーの髪と、アーモンド型の目をした筋肉青年が一緒にいる。みぎてより多少小柄でスリムなものの、ほとんど匹敵する立派な体格と、近くにいるだけで感じられる強い精霊力…明らかにみぎてと同じ魔神族、それも風の魔神である。

「あ、蒼雷じゃん!」
「よっ!ボウリング大会だって?ポリーニに誘われたんで来てやったんだ。」
「蒼雷、ボウリングやったことあるんだ」
「そりゃ温泉町にはボウリングとピンポンは定番に決まってるだろ。結構得意だぜ」

 いたずらっ子みたいな笑顔を浮かべて、蒼雷はそう答えた。
 蒼雷はみぎてやコージたちの友人の中でも数少ない魔神族である。コージの同居人というイレギュラーな肩書きのみぎてとちがって、バビロンの北にある温泉町で神社の氏神をやっているという、ある意味とてもまともな魔神である…が、性格の方はみぎてと同じく単純単細胞である。コージたちが温泉旅行に行ったときに知り合って、それ以来彼らの数少ない「人間界に住んでいる魔神の友達」なのである。ちなみに最近はポリーニとつきあっていることも、彼らの間では公然の秘密である。

「あらほんとににぎやか。これなら楽しみだわ…」

 そうこうしているうちに、今回の主役であるエラ夫人、そしてことの起こりのシュリの夫妻が登場する。「主役」というのは、今回のボウリング大会が「プロにチャレンジ!」ということをキャッチコピーにしているからである。ボウリング場では結構見かけるイベントなのだが、大学講座のボウリング大会ではとても珍しい企画だろう。参加者が多数集まったことも、これが理由かもしれない。
 エラ夫人は今日は完全装備ということで、膝が見えるスコートとポロシャツ、さらに肘にはサポーターまでつけてという、プロボウラらしいいでたちである。ポロシャツにはBPBAと書いてあるワッペンが縫いつけてある。「バビロン・プロボウラー連盟」の公式ロゴだろう。
 一方のシュリはといえば、これも夫人とお揃いのポロシャツ(ワッペンはない)と綿パンである。どちらも明らかに新品というのがわかるほどきれいなので、今日のために買ってきたのは間違いないだろう。が、腕にはなんだかやたらメカメカしい手袋をつけている。一見したところボウリング手袋のようだが、ほぼ完全金属製である。

「準備は万端ですな。ポリーニくん」
「なによそれ、発明品ねさては」
「当然です。今日の勝負はもらいましたよ」

 ほくそ笑むシュリだが、コージの見たところあのボウリング手袋はすごいとかそういう以前に、めちゃくちゃ重そうである。ボールの方がもともとかなり重いのに、さらにあんなボウリング手袋を装備しては、シュリの場合肩が抜けてしまうのではないかという気がしてしまう。

「エラさん、あれ大丈夫なんですか?」
「金属製リスタイはプロでも使う人はいましてよ。でも主人のあれは…効果はちょっと疑問ですわねぇ…」

 どうやらああいう金属製のリスタイ(ボウリング手袋のことである)は、実際に市販品でもあるらしい。もちろん本人が「発明品」と豪語しているのであるから、なにか新機能があるのかもしれないが、いまのところは反則とかそういうものではなさそうである。
 が、この時点でもはやボウリング大会は発明大戦になることは決定的である。コージは顔をひきつらせてもう一方の発明家、ポリーニに問いただした。

「まさかポリーニも発明品持ってきてるんじゃないだろうな…」
「当然じゃないの。あたしと蒼雷君は完璧装備よ!前回みたいにシュリの発明品ばかりが目立つなんてこと許さないわ!」
「…俺は一応、止めた。止めました…大事なことなので二度言いました」
「…一応っていうのは、ほんとに一応っていうのがよくわかるぞ、蒼雷…」

 威勢はいいが、ポリーニにはめっきり弱い蒼雷が、ろくに反対できなかったというのは一目瞭然である。まあコージやディレルがいくらだめといっても無駄なのはいつものことなので、いたしかたないとはいえるのだが…
 しかしこうなってしまうと、コージたちとしては、もはやボウリング場に迷惑がかからず、それなりに無事に終わってくれることを祈るしかないのは言うまでもないことである。

*     *     *

「えー、往年のボウリングブーム時代から、もう二十年以上経ちまして…みなさま当時を思いこして…あのころヒットした歌謡曲は『親指の思ひ出』で…」
「…知ってますか?コージ」
「ナツメロで聞いたことしか…」

 挨拶に立った魔法工学部長のイリスコール教授のだらだらとしたナツメロトークに、しばしコージたちは呆然としたが(グループサウンズとか言われても、コージたちの年齢では知っているはずがない)、気を取り直していよいよ大会開始である。

絵 武器鍛冶帽子

 今回のゲームはアメリカン方式…つまり二つのレーンを投球者が一フレームづつ交互に移動してプレーするという、公式戦と同じ形式である。コージたちもこの形式は初めてなのだが、どうやら左右のレーンの状態が違うと、有利不利があるので、交互に交代して平等にするというものらしい。それを二ゲームして、合計得点で優勝を決めるという方式である。ちなみに女性はハンディキャップとして+四〇点(プロのエラ夫人は除く)あるので、女性軍だって十分優勝をねらえる。

「…バビロン大学魔法工学部ボウリング大会のみなさま、ただいまより五分間の練習ボウルを始めます…」

 ボウリング大会ではつきものの「練習ボウル」タイムのアナウンスと同時に、参加者は順番に練習投球を始める。実はこの練習ボウルは非常に重要で、レーンの状態(曲がりやすいとか、レーンに塗ってある油が多いとか少ないとか)をチェックするのに絶対必要なのである。もちろんコージたちもエラ夫人のレッスンで、少しはボウリングに関しての知識ができたので、こういうことの意味も分かるのである…が、実際に練習ボウルが役に立つかどうかについてはちょっと自信はない。

「蒼雷は…あ、やっぱり一五ポンドだ」
「当然だろ?魔神族は一五ポンド。あとは軽すぎ」

 蒼雷が手にしている濃いグリーンのボールは、予想通りハウスボールでは最大の重さ、一五ポンド玉である。最初みぎてが使っていた玉と同じかどうかはわからないが、コージなどが持てば指がぶかぶかなのは間違いない。

「え?みぎて、マイボール?買ったのかよ!」
「おう、俺さまハウスボールだとほんとに指入んねぇ」
「…おまえ、ほんとに手はでかいからなぁ…」

 レッドのマーブル模様のマイボールを持っているみぎてに、蒼雷は半分あきれたように言った。実際みぎてのボールの指穴は、ショップにあるドリルの一番大きいサイズだったのである。コージの指なら二本くらい入ってしまいそうな大きさだった。

「うふふ、せっかく買ったんだしマイボールの実力を見せてあげなさいよ、みぎてくんも」
「えー、まだまだ俺さまコントロールが甘いんだよな」
「といっても僕たちよりはうまいですよ。パワーが全然違うし…」
「よくボールが割れないなと思うけど…」

 セルティ先生に冷やかされて、みぎてはちょっと恥ずかしそうに笑う。ちょうどみぎての番なので、そのままマイボールを持ってアプローチへゆくのである。

「おっ、結構キマってるじゃん」

 蒼雷はみぎての立ち姿を見て、軽く口笛を吹く。さすがに先日からの特訓のおかげだろう、ボールを持って構えるみぎての姿は、かなりまともである。が…
 そのままみぎてが助走してボールを投げると、さすがに蒼雷は目を白黒させて驚くことになった。当然先日会得したばかりのローダウン投法である。バックスイングの派手さだけでも十分人目を引く。

「すげっ!」
「ローダウン覚えたのね!」

 蒼雷だけでなく、エラ夫人すらちょっと驚いたような表情で声を上げた。ローダウン投法は男性プロではよく見るパワー投法なのである。もしうまくなればエラ夫人だって侮れない相手と言うことになる。
 さて、ボールはまっすぐ魔神の手を放れると、猛烈な速度でレーンの中央くらいまで床に着かずにまっすぐ(放物線ではなく直線的に)飛び、そのまま矢のようにピンに突き刺ささる。一応多少はフックがかかっているのかもしれないが、あんな剛速球ではほとんど意味はなさそうな気がする。

「げげっ!」
「上に放り投げてるわけじゃないから、ロフトボールかどうかは微妙よねぇ…」

 ボールを空中に放り投げる投球は「ロフトボール」といって、レーンを傷める悪い投球とされるが、みぎての今回の投球は空中に放り投げているようには見えない。ただパワーとスピードがすごすぎて、ほとんどまっすぐレーンの上空数センチを横に飛行したように見えるわけである。さすがは魔神の投球という気はするのだが…
 問題はボールは中央のピンに当たった後、あまりの勢いに真ん中を突き抜けて、左右のピンはまったくそのまま残ってしまったことである。またしても地獄のスプリットである。

「あっちゃ~、またかよ」
「…調子に乗っておもいっきり投げるから…」

 ばっさりとコージにつっこまれて、みぎてはがっかりである。ボウリングはパワーだけがあってもだめだという見本のような投球だろう。

 さて、今度は蒼雷の番である。この風の魔神は早速ボールを持ってアプローチに向かった。ところが彼はおもしろいことにボールを抱えるようにして構えている。

「え?蒼雷?」

 蒼雷の変わった構えにコージやみぎてはびっくりである。が、彼はそのまま…つかつかと助走するとまるでドッジボールのように強引に円盤投げをする。と、ボールはレーンをすごいスピードで走ってゆき、驚いたことに途中から強烈に曲がってピンに突き刺さる。みごとなストライクである。とてもハウスボウルとは思えない、投げ方を除けばまるでプロのようなフックである。

「えっ!」
「あんな投げ方あるんだ!すごい曲がり方!」
「ツーフィンガー投げだわねぇ。最近若い子に流行なのよ」

 エラ夫人がコージたちに解説する。親指の穴に指を入れずに抱えて投げる投げ方である。ハウスボウルでもすごいフックがかかるので、最近は高校生とかの間で大流行らしい。実際マイボウルを買ったコージやみぎてでも、あんな曲がり方は全く無理である。さらに球速も速いので、ちゃんと中央に当たればすごいストライクがとれそうである。が…
 二度目の練習投球の時には、今度は曲がりすぎて溝に直行、ガターである。

「ちぇっ、ここのレーンちょっと曲がりすぎだ」
「あの投げ方はねぇ…コントロールがね、難しいのよ」
「…難しそうですね…」

 円盤投げに近い投げ方の上、めちゃくちゃ曲がるので、どうしても狙ったところに投球するのが難しいのである。これではストライクはそこそこ取れるが、スペアをとるのは大変だろう。さらに右端のピン(一〇番ピン)が残った場合は、曲がりすぎて絶対に取れないという決定打までついてくる。やはりボウリングはそんなに甘いスポーツではないのである。
 頭をかきかき蒼雷がベンチに戻ってきたところで、再びアナウンスが入った。

「練習投球終了です。それではバビロン大学魔法工学部ボウリング大会、スタートです!」

 ホイッスルの音が鳴り響くと同時に、レーンには一斉に参加者が並んだ。いよいよボウリング大会が(そしてポリーニとシュリの発明大戦も)開幕と相成ったのである。

(7「ボウリングの歴史終焉がちらついてきた…」①へつづく)


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