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炎の魔神みぎてくん おみまいパーティー⑧「みぎてくん。覚悟してくださいよ」

8 「みぎてくん。覚悟してくださいよ」

 魔界七面鳥のローストは予想以上のすばらしい料理だった。みぎてが大喜びするのはもちろんだったが、コージやディレルだってこの味なら大好きである。その証拠に大きな七面鳥の丸焼きは、骨だけを残してきれいに消滅してしまった。こんなに見事に骨格だけ残ると、なんだか博物館の標本のような気がしてしまうほどである。
 さて全員が大満足になったところで、いよいよディナーはデザートタイムに突入である。

「さあデザートの準備ができたわ。ジョバンニ、持ってきて」
「はい奥様」

 執事のジョバンニはマダム・ファレンスの合図で、キッチンから紅茶の入ったポットを持ってきた。どうやらポットは銀製らしく、見事な細かい唐草模様が掘り込まれている。昔の貴族の館にあったような骨董品かもしれない。
 全員に紅茶を入れながら、マダム・ファレンスはニコニコ笑って言った。

「ほんとに今日はよかったわ。これだけたくさんおいしそうに食べてくれるお客ってなかなかいないのよ。さすがは魔神ねぇ。もてなしがいがあるわ」
「あ、みぎては大喰らいが最大の欠点ですから。そんなこといってほめると調子に乗って冷蔵庫の中全部食べますよ」
「えーっ!いくらなんでも俺さまこれ以上無理!冷蔵庫の中なんて冷たすぎて食えねえって!」
「みぎてくんそれ勘違い系ですって」

 みぎての抗議に全員爆笑である。まあいくらなんでも冷蔵庫の中を全部食べるというのは、いくらみぎてでも無理である。それに何より冷蔵庫の(特に冷凍室の)食べ物は炎の魔神には冷たすぎるというのもあるのだが、当然そういう問題ではない。
 ところがマダム・ファレンスはニコニコ笑って、突然妙なことを言い出したのである。

「どうかしら…ちょっと試作品のケーキ、みなさんで一緒に試してほしいのよ」
「試作品?」
「食い物なんだろ?食う食う!ケーキは別」
「そうですね、協力しますよ」

 みぎてだけでなくコージもディレルも二つ返事で快諾である。ここまでおいしいものを食べさせてもらって、試食の一つくらい断るというのはさすがにできない。ポリーニの母親だという事実をもっと重大に考えて、多少は躊躇したほうがよいのかもしれないが、少なくともいまは完全無警戒状態である。
 彼女はにっこり微笑んで、ジョバンニに合図をした。と…なぜかBGMが鳴る。どこかのグルメ対決番組でありそうな、ファンファーレっぽい音楽である。サウンドはさっきの高級オーディオ機器から鳴り響くので、スタジオみたいにすごい音響である。

「…なんだか大げさだな…」
「ママの試作品タイムって、いつもこうなのよ」
「…なんとなくわかる…」

 実はポリーニも講座で発明品を披露するとき、口三味線でファンファーレを鳴らすのである。こういうところは親子でそっくりなのだろう(父親のほうも、変なサンタクロース服を披露したとき、同様にファンファーレつきだった)。しかし日ごろから発明品で痛い目にあっているコージやみぎてにとっては、ファンファーレは不吉の合図である。

「…コージ、俺さま、急に不安になってきたんだけど」
「まさか。大丈夫ですよみぎてくん…」
「そういうディレルもちょっと不安なんだろ?顔見たらわかるぜ」
「…わかりますか…」

 が、そんな不吉な予感はともかく、ジョバンニが持ってきたのは丸い大きなケーキだった。よくある生クリームのお誕生日ケーキという感じである。チョコレートで表面にたくさんの文字が書き込まれているのがデコレーションのようでなかなかきれいである。が…料理研究家の作るケーキにしては思ったよりもシンプルである。
 しかしそのケーキを見た瞬間、みぎては「えっ!」という顔になる。

「コージ、これ魔法のケーキ…」
「ええっ?あ…」
「ほんとだ…このチョコレート、魔法円だ…」

 みぎての指摘でもう一度ケーキを観察したコージは、デコレーションがはっきりと魔法円を形成していることに気がつく。二重の円にさまざまな星座の記号、それから精霊語の魔法文字…床に書けば立派な召喚儀式ができそうな魔法円である。

「あらわかった?さすがねぇ」
「…さすがって…一応僕達魔法工学部ですし…」
「食べ物の魔法って始めてみるんですけど…これどんな効果なんですか?」

 こんなに堂々と魔法円を描けば、魔法をかじったことのある人なら誰でも判りそうな気もするが、それはまあどうでもいい。最大の問題はこれをいまからみんなで食べるということなのである。あんまりとんでもない効果なら、丁寧にお断りをしないといけない。
 マダム・ファレンスはニコニコ笑って解説をする。

「まだ試作なんだけど、パーティー用のくじ付ケーキなのよ。食べた人にいろいろ面白効果が出るはずなの」
「…面白効果ねぇ…」
「試作って言うのが一抹の不安要因ですけど…」

 面白効果というからには、命にかかわるようなたいそうな効果は出ないと考えるのが自然だろう。事実、魔法円を見る限りはさほど大きな魔力はなさそうである。せいぜいくしゃみが二・三分とまらないとか、その程度という感じではある。が…どうも気になるのは「試作品」だという点である。ポリーニの発明品でよくある話なのだが、予想外の効果が出て一騒動になることは充分ありえる。
 マダム・ファレンスはコージたちの不安をよそに、手早くケーキを切り分けて彼らの前に並べる。

「さあみなさん。ひとつづつ選んでくださいね。どんな効果が出るかはお楽しみよ」
「…お楽しみって…」
「私も試作品だから楽しみなのよ」
「…もしかして知らないとか…」

 どうやらマダム・ファレンスも作ったのは初めてらしく、ケーキでどんな効果が飛び出すか正確には把握していないらしい。これはますますもって不安である。が、断るのも難しい。ここまでうまいものを食っておきながら逃げ出すのは…なんだか食い逃げという気もする。

「コージ、みぎてくん、どうします?」
「…食うしかないじゃん…」
「俺さま、あきらめた…」

 三人はドンと並べられた、おいしそうでやばそうなケーキを見つめると、しぶしぶ一切れづつ選ぶしかなかった。やはり甘いものにはちゃんと罠があったのである。

*       *       *

 ケーキは意外なほどおいしい、すばらしい味だった。「罠があります」と予告されていなければ、もう極上も極上といってもいいほどの一品である。ポリーニが大好きな「喫茶店夢魔」のケーキよりずっとコージたちは好きである。何しろスポンジのきめが細かい。レアチーズケーキか豆腐じゃないかとおもうほど滑らかな舌触りなのである。それに甘すぎない。ポリーニには物足りないかもしれないが、コージたち男性陣にはこれくらいのほうがいいのである。

「これうめぇ。俺さま、ケーキってあんまりくわねぇけど、これいける」
「ですねぇ。どうやったらこんなにふわふわで滑らかなスポンジができるのかなぁ」
「そういえばディレルも自宅でケーキとかつくるもんな」

 前にクリスマスパーティーをやったとき、ディレルお手製のケーキが登場したことがあるのだが、そのときは台は市販のロールケーキだったのである。台を自分で焼くのはなかなか面倒らしい。ましてやこれだけの極上スポンジとなるとそう簡単にできるものではない。が、もちろんディレルが作りたいのは普通のケーキであって、こんな怪しげな魔法のケーキではない。

「でしょ?ママのケーキはおいしいのよ。あたしはちょっと甘さが足りないと思うんだけど…」
「男の人には甘すぎるケーキは苦手なのよポリーニ。今日はだから控えめにしたんだけど、どうだったかしら」
「うん、私はこれくらいがいいね」

 ポリーニ一家の三人は、これが罠付ケーキだという事実をまったく気にしていないようである。というよりも毎度こんな実験ばかりをやっているので、感覚が麻痺しているのではないかという気もする。まあ娘は娘で変な発明品を作るし、だんなはだんなで変な服を買うので、お互い実験に参加するのは家族の義務なのかもしれない。
 全員がかるくケーキを食べてしまった段階で、マダム・ファレンスはおもむろに時計を見る。ケーキを食べるのにはわずか三分(早すぎる気はするが、おいしすぎるのである)である。食べてから数分で魔法の効果は発動するので、そろそろ時間である。

「どう?誰か効果出てこない?」
「…出てくれたほうがいいのか、出ないほうがいいのか微妙ですね…」
「うーん、出るならさっさと出たほうがいいよな」

 変な効果が出るというのも困るのだが、効果が出るのが遅すぎて、帰宅してから大騒ぎというのはたしかに困る。一同は時計を見ながらはらはらどきどきしながらくじ引き(?)の結果を待つ。と…

「あっ!」
「ディレル、浮いてる!」
「ちょ、ちょっとこれって…うわぁっ!」

 突然ディレルはいすからふわふわと浮き上がりはじめたのである。どうやら一番手はこのトリトンだったらしい。まるで風船か熱気球のように身体が持ち上がり、ゆっくりと空中に浮き上がる。当然だがあわてていすをつかむのだが、胴体側はそのまま浮かび上がるのでさかさまになってしまう。

「やったわっ!成功よ!」
「ママ!すごいわ!」
「せ、成功って…ちょっとこれ!」

 「魔法のくじ引きケーキ」が大成功したもので大喜びするマダム・ファレンスとポリーニだが、空中に浮いているディレルはたまったものではない。まあこの手の効果はそれほど長時間続くわけではないし、せいぜいしばらく天井に張り付くくらいなので危険はまず無いのだが、困った効果であることには違いが無い。

「これ結構、効果強烈かもしれない…」
「コージ!それ…」
「えっ?…あっ!」

 みぎてにしゃべりかけたコージは、突然自分の口から吐息と共に炎が飛び出したのを見て仰天である。ドラゴンみたいな炎の息というやつである。実は炎の魔神族であるみぎてはちゃんと炎の息を放射することができるのだが、ただの人間族であるコージにそんなことができるわけも無い。

「コージ、しゃべんないでください!天井に熱が来るんですよ!」
「あ、そうかぁ。ごめんごめん」
「だからしゃべんないでって!」

 どうやらコージがおしゃべり…火炎放射をすると、天井に張り付いているディレルのところに熱風が吹き付けるらしい。予想外の災難である。

「こりゃずいぶん面白い効果だね…あっ!」
「あなた、いすがお尻に…」
「パパっ!張り付いてる!」

 今度はドクター・ファレンスの番である。どうやらいすがお尻に張り付くという、これまたマンガのような効果が発生したらしい。立ち上がることはできるのだが、いすも一緒である。まあ張り付いたのは普通の食卓いすなのでまだましなのだが、これでソファーだったらトイレにも行けない状況だったろう。

「ポリーニ、笑ってるのもいまのうちですって…あっ、マダム・ファレンス!」
「えっ?」
「髪の毛、踊ってますよ」
「あらっ!」

 天井からディレルが冷静に突っ込みを入れる。たしかにマダム・ファレンスの髪の毛は、まるで自分で意思を持ったかのようにうねうねとうねって遊び始めている。せっかくきちんと結い上げた髪型ももはやむちゃくちゃ、明日美容室に行くしかなさそうである。

「いよいよあたしかしら…どきどきするわ」
「…って楽しみっていう顔してるけど…」
「発明品ってこれが楽しいのよ」
「コージ、だから火炎放射禁止!」

 日ごろからとんでもない発明品で騒いでいるポリーニは、どきどきというよりうきうきといった表情で、効果の発動を待っている。まあどうやらいまのところは、ちょっと迷惑な効果ではあるが危険なものはなさそうである。パーティー料理としてはぎりぎりという気もするのだが…
 と、いよいよ待望のポリーニの順番がやってきた。

「あっ!光ってる!」
「わっ!すごいわ!これってあたりじゃない?」
「それは微妙だけど…」

 驚いたことにポリーニは全身が白く発光し始めたのである。それはあたかも映画かなにかで出てくる女神か…宇宙人のような状態だった。見ようによっては結構素敵な状態である。が…当然問題点もある。

「…ポリーニ、透けてる透けてる!」
「えっ!あっ!やだっ!みんな見ないでよっ!」

 実は映画に出てくる「輝く神様」などは、衣装もまとめて光っているのだが、今回の魔法はそうではなかった。ポリーニの身体だけが発光して、服のほうはまったく発光しない。下半身の分厚いジーンズは大丈夫だが、上にはおったTシャツは内部の光でスケスケ状態である。ボディーラインが丸見えという、かなりまずい状態になってしまう。大慌てで彼女は自分の部屋に戻って、分厚いジャケットを羽織るはめになる。
 さて、残るは当然みぎてである。全員が妙な効果で爆笑を生んだというのに、一番こういうときに派手なトラブルを生むはずのこの魔神だけが、まだ効果未発動なのである。既にケーキを食べてから十五分経過しているのだから、とっくに効果が出てもおかしくない。最初に効果が出てきたディレルなどは、もはや効果が切れて床に軟着陸しているほどである。

「そろそろですよみぎてくん。覚悟してくださいよ」
「うーん、今日はディレルもぐるみたいな事いってるな」
「そりゃ、僕だってひどい目にあったんですし、みぎてくんだけ効果無しはダメですって」
「…ダメって、それこっちの都合で決められることじゃないような…」
「コージ、火炎放射禁止!」

 どうもディレルは突然の空中浮揚で、かなりやけになっているようである。意地でもみぎてに恥をさらしてもらいたいらしい。もし効果が出なかったら追加でケーキを食べさせるといわんばかりである。

「俺さま、魔神族だからちゃんと効果出るのかなぁ…」
「わからないわ。そんなに強い魔法じゃないし…」
「絶対出るって僕は信じてますからね…あ」
「…来た…」

 ディレルとコージはほとんど同時に、みぎての異変を見つけた。いや、異変を起こしているのはみぎて本人ではない。正確に言うと「みぎての服」だった。そう、お約束どおりだが、突然魔神の着ているトレーナーがもこもこと動き始めたのである。同時にカーゴパンツのボタンやチャックがするするとはずれる。

「あっ!やべっ!」
「無駄無駄。あきらめろみぎて」

 大慌てで服を押さえる魔神だが、意思を持ったように動く服はその程度ではつかまらない。上半身を押さえるとズボンが脱げるし、ズボンを押さえるとトレーナーがたちまちめくれあがる。それどころか下着まで暴れ始めたのだから、これはもうどうしようもない。
 ということであっという間に服はみぎての制止を振り切り、四方八方に逃げ出してしまったのである。当然後に残ったのは素っ裸で真っ赤になった炎の魔神である。

「げげげっ!またこれかよ~」
「最後に最悪の効果が出ましたね」
「あたしじゃなくてよかったわ!」

 さすがに女性陣の前ですっぽんぽんというのは、いくら体格自慢のみぎてでも大赤面である。大慌てで隣の部屋に逃げ出すしかない。これには全員そろって腹を抱えて笑いころげたのは言うまでも無い。

絵 武器鍛冶帽子

*       *       *

 というわけで、予定通り試作品の「何が起きるかわからないパーティー用ケーキ」の試食会は、全員の大爆笑という、ある意味大成功に終わったのである。当初の目的である「ポリーニのお見舞い」はすっかり忘却のかなたに行ってしまったような気がするが、当のポリーニがすっかり回復しているのだから問題は無い。
 時刻は既に十一時半を回って、病院前からの最終バスはとっくに終わっている。まあ幸い病院の前にはタクシーが待機している(交代勤務の看護婦さんが乗るのである)ので帰るのは問題が無いのだが、ちょっと予定外の出費である。
 タクシーの中で、ディレルはコージを問い詰めた。

「参りましたよ。コージ、知ってたんですかこれって…」
「…両親がここまですごいっていうのは知らなかったって。金持ちって言うのは知ってたけど…」
「ほんとですかぁ?それにしては『発明品だけじゃない』みたいなこと言ってたじゃないですか」
「ギクッ…いや、でも俺もここまでは…予想外。やられた」

 実はコージは前に一度やはり(高校のころ)ポリーニの家に行ったことがある。そのときも確かマダム・ファレンスに会って、なんだかすごい味の料理を食べさせてもらった記憶がある。今から考えるとあれはおそらく試作品だったのだろう。
 しかし今回のように両親そろってのとんでもないパーティーは当然経験が無い。そういう意味ではコージは潔白なのだが…ちょっと自信を持って言い切れないのが弱いところである。「料理がすごい」ということだけは知っていたのだから、やっぱり有罪かもしれない。

「あー、でもほんとうまかった。最後のケーキも変な魔法が無かったら最高だったんだけどさ。」
「みぎてくん、立ち直り早いですねぇ」
「…ポリーニの発明で慣れてるってことね…」
「俺さま、それ慣れたくないんだけど…」

 うまいものをたらふく食ったみぎては、最後の赤っ恥などまったく気にしていないようである。まあ実はいままでもポリーニの発明でいろいろ赤っ恥を掻く羽目になっているので、いまさらという気もする。それに今回は実は全員平等に笑いの種になっているので、パーティーとすれば大満足だろう。

 タクシーはバビロン旧市街に入り、いよいよディレルの家が近い。「銭湯潮の湯」の高い煙突が暗い空にうっすら見えてくる。あと数分もすれば本日は解散である。
 ところが…そのときだった。

「あっ!しまった!」
「どうしたんだ?ディレル」
「えっ?忘れ物でもしたのかよ」

 びっくりしたコージとみぎての目の前で、ディレルは渋い顔になってかばんをあける。そして中から茶色のクラフト封筒を取り出した。その封筒を見た瞬間、二人とも笑い出した。

「ロスマルク先生から頼まれた書類、すっかり彼女に渡すの忘れてましたよ…」
「そりゃ、あれじゃあ忘れるよなぁ」
「俺さま、ポリーニが風邪引いてたことだって忘れてたし」

 一応彼らの目的は「ポリーニのお見舞い」と「頼まれた書類を渡す」だったのだが、あんなどたばたでは完全に失念してしまうのも当然である。まあポリーニに最初にあった段階で渡しておくのが正解だったかもしれないのだが、いまさら後悔しても仕方がない。
 みぎてはげらげらと笑いながら言った。

「でもさ、ポリーニ明日来るんだし、そのとき渡せばいいんじゃねぇのか?」
「あ…そうですねぇ。今週ずっと休むかもとか言ってたから、書類を持ってゆく話になったんですし」
「あれで明日休んだら不思議だって」

 あんなに元気にはしゃいでいた彼女が、明日も講座を休んだらびっくりものである。これなら明日ロスマルク先生に直接書類を渡してもらえばすむ。もちろん…明日も休む可能性が〇というわけではないのだが…

「でもさ、これで明日彼女がはしゃぎすぎてダウンしたらどうする?」

 コージが笑いながら二人に聞く。と、二人は笑顔をそのまま凍りつかせ、うめくように答えた。

「…明日…届けるしかないんですよねぇ、その場合…」
「俺さま…もう一度行くのちょっと怖いかも…」

 二日連続であんな騒ぎになるとすれば、さすがに彼らもつらすぎである。が、もしそんな事態になったとすれば、はしゃぐ原因を作った彼らだって責任がある。まあ腹をくくってもう一度「レジオネラ病院ポリーニ宅」に行くしかないだろう。
 しばらくの沈黙の後、しかし三人はもう一度一斉に笑い始めた。明日になれば元気なポリーニの顔が見れるのはまず間違いないからである。そして頭が痛くなるような恒例の発明品も。
 三人の乗ったタクシーは旧市街の街並みの中を、すべるように明日へ走っていったのである。

(みぎてくんおみまいパーティー おわり)

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