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長野凱旋・4

完。


猿地獄

 宿から車で10分程。グネグネ山道を車で上る途中、一匹の猿が道端を歩いていた。地獄谷野猿公苑へはもう少しあるぞ、もう出会えたじゃん。猿は悠々としている。こちらの車に気付くと、パァっと茂みに飛び込んで逃げた。野生の猿を見たのは初めてで、「ホントに尻が赤いな」なんて間抜けな感想が口から飛び出した。猿の尻って赤いんですよ。知ってました?

 野猿公苑の駐車場に着いた。受付のおじさんに駐車料金を渡すと、「まだねぇ朝だから、猿の群れが来てないかもしれないですけど、まぁ上に行って聞いてみて下さい」と教えてくれた。えっ。朝だと猿いないんですか。じゃあなんで朝から営業してるんだ。
 ガイドブックを貰い、野猿公苑を目指す。駐車場から続く川沿いの道を進むらしい。猛暑とはいえ秋は秋か。草木に若干の赤が見えた。川はそれなりの水量で、鉄分が沈殿しているのか上から見える川底は赤い。そして湯気が上がっている。川だけでなく、山から続く細い水路からもちょくちょく湯気が立っているポイントがある。そうか、上流から温泉が流れてきているのか。良い眺めだ。9月の上旬でこんな感じなら、寒い冬はもっと風情があって綺麗だろうな。今度は冬に来よう。いややっぱ寒いからやめよう。

ここから結構な山道

 ちなみに道中所々で動画を撮影していたが、この記事を書く前に全て一本に繋げて記録用の個人YouTubeに上げた後データを消してしまった。いやぁ残しておけば良かったぜ。良い景色だったんですよ。ホント。

 足を滑らせたら割と危険な山道を抜けると建物が見えた。というかこんな山道だなんて聞いてないぜ。手元の地図によるとあれはどうやら宿らしい。凄い立地だ。あ、入口に立っていた看板の「後楽館」ってこの宿の事か。調べると一泊2万円ほどで宿泊できるらしい。猿と一緒に入れる露天風呂が売りなんだとか。ちょっと僕は遠慮しときます。なんか、あの、アレなんで。すいません。気になる人は泊まってみてもいいんじゃないですかね。かなり雰囲気ありましたよ。

 宿の軒先を抜けると大きな噴泉が見えた。地獄谷噴泉。温泉っていったら噴泉だよな。そうか?意外と硫黄の匂いはしない気がする。そもそも硫黄泉じゃないんでしょうか。近づくと、漂う風の中に飛沫が見えた。意外と熱気は感じられない。むしろ少し涼しいような気がする。柵の向こうで「ゴオァー」と轟音を立て吹きあがっている噴泉、迫力が凄いぜ。どうしようもない自然の力を感じる。動画を撮影していると外国人の男性が噴泉に近づいてきた。大きなバックパックを背負って額に大粒の汗をかいている。今日も暑いっすよねぇ、ここちょっと涼しいですよ。目が合ったので会釈をした。話しかける度胸と語学力は無い。そそくさと先へ進む。

僕も汗が出てきた

 野猿公苑への入口。階段を上り、また少し山道を歩けば到着らしい。さっきの噴泉を下に見ながら歩みを進める。途中どこかでピリリと笛の音が聞こえた。何だ?熊払いか?そんなん鳴らしたら猿も逃げない?と思いきや、通ってきた宿の方に一匹猿が見えた。宿の露天風呂から山肌へ移動している。なんだ猿いるじゃん。もしかしてスタッフが呼び寄せてるんだろうか。つまり先に行けば猿たちが集まってる?期待値上がるぜ。

 受付が見えてきた。入園料を払う前に受付のスタッフから「まだ猿が降りてきてないんですよ。他のスタッフが呼び込んでいるんですが、もしかしたらお昼過ぎまで出会えないかもしれないんですけど.…」と伝えられた。駐車場のおじさんは正しかった。猿、まだいねぇってよ。「さっき一匹見たんですけどあれは.…」と尋ねると、群れから離れたはぐれ猿らしい。はぐれ猿とかいんのかい。はぐれ猿は再度群れに合流することはほぼ無い為、あの猿がいれば群れも近くにいる、という事ではないようだ。なんだ、猿の群れを見れないってかい。参ったなコリャ。しかしここで引き返すわけにもいかないので、「ちょっと待ってみます」と言って入場した。「猿と出会えなかった時は受付に伝えてください。記念品があるので」とスタッフ。何それ、ちょっと欲しい。

川のせせらぎがよく聞こえる
猿いねぇ

 どうやら本日の第一号の客らしい。誰もいない。川に沿うように遊歩道が作られ、川べりに下りられる階段と、奥にある猿用の温泉に続く橋が見える。橋を渡った先にスタッフが1人、笛を吹きながら山肌をするする登っていった。おぉ、結構な傾斜なのに。さっきの笛の音はこれか。橋を渡り、戻って川べりに下りてみたけど一向に群れがくる気配は無い。というか生物が全くいない。トンボとか蝉もいないし、魚なんて一匹もいない。あるのは川の音と虫の声だけ。お金を払って「環境」を見に来たんか僕は。

見えますかね

 記念品貰って帰るか、なんて思い始めた頃、一匹の猿を見つけた。笛に呼ばれたな。もしかしてさっき見かけたはぐれ猿だろうか。それか群れの猿か。後者、いや後猿であってくれ。じっと眺めていたが、その猿はそそくさと山の奥の方に行ってしまう。はぐれ猿だったか。

 諦めて引き返す途中、受付のスタッフが駆け寄ってきて「群れが来たみたいですよ!」と教えてくれた。おっ、マジか。また来た道を戻ると、奥の山の斜面から猿の群れが降りてきていた。笛を吹いていたスタッフが今度はコンテナからリンゴを取り出して辺りにバラまいている。なるほど、さっきの笛はつまり餌の合図だったのか。しかし凄い数の猿だ。山の上からバラバラと降りてくる群れ。成体の猿から子猿まで大量に山を駆け下りてくる。あれだ、パチンコ台の玉みたいだ、この眺め。パチンコやった事ないけど。ふと気づくと、僕の後ろに先程の外国人が立っている。あんたも来たんかい。目が合ったので会釈。パチンコみたいじゃないすか?これ。話しかける度胸と語学力はない。動画でも撮ろう。

こいつはここから動かなかった

 一通り満喫したところで、外国人の団体客がやってきた。少し脅えたりしながら楽しんでいる。よし。帰るか。地獄谷野猿公苑、よい地獄でした。死後に堕とされるならこの地獄でも良いね。

 一応撮影した動画全部ひとつなぎにしたヤツ貼っときます。雰囲気を感じ取ってくれ。

名物(石川産)

 その後、ちょっと道を間違えながらもレンタカーを返却して長野駅に戻った。レンタカー屋から送迎して貰った時、長野駅周辺で昼から飲める店を訪ねたけど、運転手さんは下戸との事でお店は知らないようだった。事前に調べておいたお店へ向かう。

先端が細い割り箸ってあるよね

 大宮に戻る新幹線まであと1時間強。切符も発券済みだし、荷物もロッカーに預けた。もう僕を縛るものは何もない。駅前の天ぷら屋に入り、冷たいビールを流し込む。残暑の昼になんの気兼ねもなく飲めるビールはいつも以上に美味い。天ぷらの盛り合わせと野沢菜漬けを注文。野沢菜がポリポリシャキシャキで美味しい。自分用にも買って帰れば良かったぜ。

野沢菜漬け

 ひとまずの盛り合わせを食べ終わり、もう少し何か食べようかなとお品書きを覗き込むと「ビタミンちくわ」の文字。なんじゃそりゃ。お店の人に聞くと「石川県の会社が作っているビタミン豊富なちくわで、なぜか長野県民にずっと愛されているちくわ」らしい。ほう。石川の会社が製造しているのに長野県民の愛されフードなのか。気になる。ビタミン豊富ってことはいつも食べてるちくわと味わいも異なるのかしら。じゃあそれ下さい。あと紅生姜も下さい、

ビタミンちくわと紅生姜

 ビタミンちくわを頂く。美味しい。でもただのちくわだな、これ。

 ビールからハイボールに移り2杯くらい飲んだ頃、野沢菜をつまみながらふと気づいた。やっべ。職場用のお土産買ってないじゃん。買う予定のお土産は前日の善光寺ですべて買っておくつもりだったが、何となく良いものを見つけられず、「まぁ明日新幹線乗る前に駅で買えば良いか」なんて先送りにしていた事を思い出した。時間を見ると新幹線の時間まで残り20分。やべぇ急いで買いに行かないと。

 お会計を済ませて外に飛び出した。5杯ほど飲んでしまってるから早歩きは危険だ。酔いが回る前に会社用のお土産を調達しなければ。駅のお土産売り場へ向かい、小分けできるお菓子みたいな物を探していると「昆虫食」の文字が目に飛び込んできた。よし、「いなごクッキー」とかで良いだろ。the長野って感じだし。文句は言わせねぇぜ。

願わくば主食にならない未来を

 陳列された商品を眺めるが、いなごクッキーは見つからなかった。というかクッキーよりもう少しガチな昆虫食のラインナップだな。いなごの甘露煮と蜂の子の花九曜煮(なんだそれ)の2つ。これじゃあ職場で分けられないな。違うものを探そう。というか結構良い値段するねぇ。蜂の子なんて1缶1620円て。レイトで映画一本見れるお値段じゃない。どんな味か興味が沸いたけど流石に手が出なかった。食べた事がある方、感想お待ちしてます。

 その後、長野限定のじゃがりこ的なお菓子を手に入れ、発車の少し前に新幹線へ乗り込んだ。滑るように車体が動き出す。ありがとうございました、長野市。僕の苗字発祥の地。僕のルーツの地。とても良い場所だった。かつてここで栄えた人々の血を、姓を受け継いで僕は生きているんだな。そして僕がそれらを子孫に繋げていく事になるんだろう。血と姓を繋ぐ一人になるんだろう。いつか、僕に子供が生まれて大きくなったら、是非この地に行かせたいと思う。あの神社に行ってほしい。そして知ってほしい。「苗字発祥の地と言うにはどうやら諸説あるらしい」と。近くの薬局に行くと1000円でお札が売られていると。それにしてもあのおじさんホント余計な事教えてくれたな。ありがとうございました、おじさん。

ラジオタイム

 窓から見える風景が山々から人工物に変わった。大宮に到着。この後はこの旅行のもう一つの目玉、マヂラブの寄席とハライチ御用達のラーメン屋へ。うっひょ~。超楽しみだぜ。ロッカーに荷物をぶち込んでからまずはマヂラブの寄席に向かう。それにしても大宮は人が多すぎるな。駅前もう少し広くしても良い気がする。

ちょっと迷った

 吉本の劇場は初めて来た。端の席に座るとちょうど開演。トップバッターの「もも」はあんまりだったけどその後の「サルゴリラ」はめちゃくちゃ笑った。そりゃキングオブコント獲るわ。最後の方でお目当てのマヂカルラブリーが登場。ネタに入る前のまくらで「ちょっとゲームやりたいと思うんですけど参加してくれる人ー?」と村上が挙手を募ったが誰も手を挙げなかった。今思えば挙手しとけば良かったぜ。自分の引っ込み思案が憎い。結局若い女性が手を挙げ、「片目を隠した野田は寄り目になっているかどうか当てようゲーム」に参加させられていた。なんだそのゲーム。

 あっという間の楽しい時間。劇場を出るとちょうど良い時間だったので、大宮駅から東大宮のラーメン店、「正直もん」へ向かう。ここも超楽しみな場所だ。東大宮駅からは徒歩。長野とはだいぶ違う暑さにヒィヒィ言いながら歩を進めると15分くらいで到着した。ハライチの二人が一番うまいラーメン店だと呼び、たまに食べにくるお店。夕食には少し早い17時だったが、カウンター席と小さいテーブル席だけの店内には先客が何人かいた。やっぱり人気店なんだよここ。

そもそもスープがうまい

 券売機でハライチ澤部のおすすめであるネギ塩ラーメンをチョイス。少し待つとラーメンが運ばれてきた。一口すする。豚骨の割に臭くなく、そしてくどくもない。すっげ。これ超美味しいじゃん。確かに一番うまいラーメンだわ。

にゃんぞぬデシも書いてるんかい

 あまりの美味しさに速攻で完食してしまった。もう少し味わって食べればよかったな。お冷を飲みながら改めて店内を見渡すと、前にラジオで岩井が話していた、「店主が勝手に貰ってきたエッセイ本のポスター」があった。しっかり岩井のサインも書かれてあったので1枚写真を撮りたかったが、手前のお客さんが写ってしまうので諦めた。次来た時だな。

ごちそうさまでした

体力の限界

 外に出て、もと来た道を駅へと戻る。それにしても結構疲れたな。この感じだと大宮に戻ってから少し時間の余裕があるぞ。喫茶店とかで休もう。駅周辺の喫茶店を検索するも休めそうなお店は見つからず。まぁ行ってから探すか、と電車に乗り込んだ。大宮着。改めて駅前を眺めるけどホント休めそうなとこが無い。あ、ネットカフェとか行こうか。

 しかし目星をつけたネットカフェはどこも満席で、諦めて少し離れた知らないチェーン店に入った。どうやらそろそろ席が空くようで少し待てば入れるとの事。会員証を作成して呼び出しを待ったが、結局呼ばれたのは入店してから20分後くらいだった。移動の時間を考えると滞在できるのは30分程度だ。これじゃあ駅の中でどっか座ってた方がよかったのでは?無駄な労力とお金と会員証が発生。駅でセーブしとけばそっからロードし直せるな、なんて考えながらリクライニング席で少しだけ横になった。体力の低下を感じる。

総じて最高の旅行でした

 新幹線内で発車を待ちながら撮影した写真を見返す。沢山撮ったな。いやそれにしても楽しい旅行だった。遠くの一人旅は初めてだったので実はちょっと二の足を踏んでいたけど、来て正解だった。善光寺、苗字発祥の神社、とんでもねぇ事を教えてくれたおじさん、地獄谷野猿公苑、大宮よしもと、正直もん、全部最高。悔いが残るとすればやっぱり旅館の食事だろうか。もう少しだけ名物的なヤツを食べたかったぜ。まぁそれも良い思い出だ。さて、後は帰って寝るだけだ。スマホにNetflixの作品ダウンロードしてあるしお酒もいくつか準備してある。ゆったり帰ろう。なんて思っていたら僕の隣の2席に大学生くらいの眼鏡をかけた男子二人が座ってきた。しかもマックの紙袋とコンビニ弁当を携えて。おいまじかよ。

 もうちょっとお酒買って早く寝ればよかった。マックくせぇ~。

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