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vsG大阪

【試合前の雑感〜必要なのは勝点3のみ】

大阪市を二分する戦い"大阪都構想"を前哨戦にして臨むのは(三浦弦太の負傷後、直近)10試合で9勝1分と波に乗る宿敵・ガンバ大阪。ここ最近のガンバ大阪は圧倒的な攻撃力"GAMBAISM"という名の亡霊ではなく、ソリッドな堅い守備と2人前のセーブをする東口、2人分走り回る井手口、大事なところで誰が出ても点を取れる個人の勝負強さに支えられている。
とは言えこの9勝のうち、勝つべくして勝った試合が9試合あるわけではない。それが"勝てば良い派"と"宮本監督大丈夫?派"に分かれてしまう要因だろう。(個人的には勝てば良い派。でもロティーナなら負け試合でも信頼してます)
一方のセレッソは連勝が止まってからというもの、勝ったり負けたりを繰り返しながら、徐々にJリーグのライバルに飲み込まれつつ順位も後退している。多くの試合レビューで「今回の試合は悪くない」と書いて来たと記憶しているが、内容が良くても結果が付いてこないと苦しい、と言うのが正直な気持ち。シーズン中にそんな時期はあって当然なのだが、後ろから追いかけられている状況ではちょっと焦る気持ちもある。
だが、そんな状況で迎える大阪ダービーであっても言い訳は不要。必要なのは勝点3のみである。お互いに勝つしかなく、負けた時に仕組みや戦術、熱量といった側面から大阪ダービーを語っても慰めにすらならない。
そんな試合のスタメンはこちら。松田が戦列復帰、CB木本、LSB丸橋と並ぶ最終ライン以外はいつものメンバー。ここ数試合のプレーも格段に良いが、加えてパトリック対策として高さのある木本を浦和戦に続けて起用したのだろう。

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【セレッソの攻撃〜美しい経路の数々で翻弄】

今回のセレッソの攻撃経路は左右に分けてゴールへの道筋から逆算するとわかりやすいかもしれない。ということでアタッキングサード⇒ミドルゾーン⇒ビルドアップに分けて仕組みを見てみる。

まず、アタッキングサードから

右サイドの武器は坂元の個人突破&松田のセンタリングの2つ。特に坂元の個人突破であれば、クロスが相手に弾かれても松田がこぼれ球を拾う位置にセットできているので攻⇒守⇒攻へと再び攻撃に転じやすい構図となる。なので、手札の武器では坂元の個人突破が優先されている。

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一方の左サイドはシュートもパスも出せる清武が中でプレーすることに意義がある。というか今季の清武を見ればもはや意義しかない。なので、左サイドの攻撃でゴール前に侵入する経路は丸橋が大外から押し上げること、FWがズレたDFラインの背後を取ること(これは右サイドでも見られる現象)である。

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左サイドは清武があまり縦に突破しない分、(個々の特徴なので悪いとかではなく)推進力は右サイドに劣る。そのため前半の攻撃は右サイド52%、左サイド31%と偏りが生じていた。また、松田が後ろで待つ右サイドに比べて裏が手薄になってしまうデメリットはあるが、その分のリスク管理はボランチが左側に寄ることでカバーする。攻めるリスクを負う分、デメリットが出来てしまうのは仕方ないが、これがセレッソの最適解だと言えるだろう。

そしてこのアタッキングサードに持って行くためのミドルゾーンでは、中央に入った清武(藤田/デサバト/木本のパターンもあり)⇒坂元(逆サイドのアイソレーション)とボランチ(ヨニッチ/松田のパターンもあり)⇒丸橋/清武と中央に構える相手の守備をすっ飛ばして揺さぶる方法を採っていた

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これはガンバが4-4-2を敷いてくるから。5バックならサイドに揺さぶってもスライドせずに守備対応が可能だが、4バックならそうはいかない。所謂「サッカーとは丈の短い毛布である」という諺そのものである。特に最近はヨニッチが左サイドへロングボールを蹴るシーンが増えていたが、10月以降の対戦で湘南を除いて全て4バックだったこともその要因の一つだろう。(もちろんヨニッチがこれまで以上に鋭いロングキックを蹴れるように猛練習した効果もあるはず)

そして、左右に揺さぶることでカバー範囲の広い井手口、小野瀬、倉田を走り回らせる(=体力の消耗とスペースの創出)という副産物も出来ていた。

この左右へ揺さぶるミドルゾーンを作るためにセレッソがビルドアップで設計した形は、ボランチがCB木本の横に下りること。最近は片山を押し上げるために右サイドへ降りることも多かったボランチだったので、「あれ?」と違和感があったが、その後のボールの行く末を思い返すと「坂元に届けるために清武に渡したい」という道筋が見えて来る。こうすることで小野瀬が前のボランチに食いついたら清武と丸橋が高尾に対して数的優位になる構造が出来上がる。

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逆に小野瀬が寄って来なければ、ボランチはそのまま持ち上がる。そうすると井手口/山本が出てくるので、時計回りに清武/丸橋が動き、清武は相手ボランチの背後に潜って受けるようになる。

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もう一つは右サイドから攻める形。ここの狙いはもちろん坂元。とは言えシーズン終盤になって坂元対策をしないチームは(マリノスを除いて)ない。だが、その対策は2枚以上を選手を張り付けることしかないのも事実。そこで松田は坂元へカバーが入らないよう、倉田を引き出す立ち位置を取っていた。

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これこそ、いつかのインタビューで松田が語っていた「立ち位置で相手を動かす楽しさ」なんだろうな、と思う。(記憶が定かでないので、文面は曖昧です。すみません)そしてもしここをFWがケアして倉田が下がれば、逆サイドへ展開する。

サッカーにミスはつきものとは言うが、ミスをすればたちまちゴールを脅かされるクオリティをライバルチームは備えていた。しかし、この日のセレッソはそんなミスをしない。攻撃の仕組みはゴールから逆算して緻密に構築されており、本当に美しかった。

【ガンバの守備〜ハイプレスではなく、ガチガチの鍵でロック】

開幕戦や涼しくなってきた最近は"ハイプレス"をテーマにしているガンバ、と言われているが、この日のガンバはダービー2連敗の引き金になる先制点献上リスクを避けるため、宇佐美とパトリックでボランチを見る形でセットしてきた。(もちろん、状況に応じて前からプレスもかけていた)

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そしてこの状態で押し込まれたら、宇佐美も守備に下がってパトリックを1トップに残す。そして倉田のタスクは坂元のカバー役。そのため松田にアプローチをかけて剥がされても、素早い戻りで福田のカバーに入っていた。いつもは守備タスクを放免されている宇佐美の守備への意識や倉田のタスク量から、宮本監督のダービーへの意気込みが見て取れた。

そしてセレッソのアタッキングサードにおいて、ガンバの2ボランチと逆サイドのSHはの立ち位置はペナルティアーク周辺、最終ラインでは逆サイドのSBが絞ってゴール前に3人が並ぶことで、バイタルエリアをがっちり閉じていた。そのためセレッソは攻めてもほとんど弾き返される展開となる。

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【ガンバの攻撃〜下がる宇佐美と戦術兵器パトリック】

ガンバの攻撃は兎にも角にも戦術兵器・パトリックに届けることが至上命題。その経路は良くも悪くも様々あるが、高さのある選手にロングキックを蹴って有利な状況を作り出すのはサイドからというのが定石。ゴールキックを除いてSBから、サイドに流れたCBから、SHから、と狙える時はまずパトリックからスタートする。そのため前半終了時点の攻撃は左43%、右47%とほとんど中央を使っていなかった。

そしてそのルーズボールを拾ったら大外に展開し、再び中で待つパトリックへ。今季はエース・宇佐美が不発だが、出場したら点を取れる仕事人(パトリック、渡邉、以下略)がおり、特にセットプレーから得点の半分を稼いでいる。しかもパトリックのゴールは全て決勝点となっていることからも、これはセットプレーや高さを使った攻撃はここ最近のガンバの強さの源泉と言えるだろう。どんな強敵でも90分あれば20本くらい放り込めるし、それだけ放り込めば点が生まれる。

これは試合後のロティーナが「文脈のないところからでもチャンスを作ってくる選手たちがそろっています」と言っていたことからも明らかだろう。そして実際にセレッソが主導権を握る中で文脈と関係ない形でパトリックの力と技術と井手口の走力で先制に成功した。

【失点以降の雑感~すぐに追いつける勝負強さと勝ち越せない勝負弱さ】

失点後すぐにFKから豊川のゴールで追いついて、嫌なムードを払拭したセレッソ。そのあとはこれまでに書いてきた攻防で一進一退を繰り返す。試合の流れをお互い引き寄せたかったが、40分の藤田、41分の宇佐美が共にビッグチャンスを逸して前半は1-1で折り返す。

後半はガンバボールでキックオフ。この後、実に15分ほどはガンバの時間になる。これを"入りが悪い"という言葉で解決しがちだが、こうなったのは押し込まれてしまってクリアが拾われる構図になってしまったこと(逆に前半はセレッソがその構図を作って優位に立っていた)とイーブンなボールが偶然にも何度か相手に転んだことが重なったため。ここで失点していれば流れはグッと相手に傾く恐れもあったが、ワンパターンしかないので木本が割り切って競り合いに挑めるため、スクランブルにならない限りピンチは訪れなかった。

そして耐える時間がずっと続くことはない。セレッソが徐々にボールを持ち始めると試合の流れは再びセレッソへ。そんな試合にスパイスを加えたのは柿谷の投入だった。クリア⇒拾われる⇒追いかける⇒攻められる⇒クリアの悪循環で豊川にはボールが入らず、疲労が見えたため豊川に代えて柿谷を投入することになったが、ここにボールが入って清武や丸橋とパス交換が回り始め、セレッソがこれまで以上に左サイドで推進力を持って攻め始めることになる。

ここでエンジンが一段と上がったのが井手口。左サイドから右サイドまで丈の短い毛布を1人で十分な丈にしてしまった。

79分には福田がこの日何度目かの危険なファールで木村主審がやっとイエローカードを出したことで藤春と交代し、残り10分でお互いが勝つために前へ出たため、試合もオープンになる。アディショナルタイムには清武のオーバーヘッドも炸裂したが、枠外に逸れてしまい、この日の運のツキにも見放されて試合は1-1で終了。制限がある中でお互いのサポーターがアイディアを出し、気迫のこもったスーパープレーの数々とバカバカしいほどに稚拙な酷いチャージも含めて白熱した大阪ダービーとなった。

【試合後の感想~追われる立場から追う立場へ】

勝てば再び2位浮上、という中で勝てなかったことは非常に手痛い。ましてやシーズンダブルを目の前に、試合内容もほとんど理想的に進めながら引き分けとなったことは悔しさが残る。

理由の後付けは簡単だと断りを入れたうえで追加点に不足していたことを語ると、サイドを破って中に構えるガンバの守備陣6枚を壊す方法がなかったことだろう。左右の深さを取ってボールが入らない時に中の枚数を増やすのか、曖昧な立ち位置で相手を惑わすのか。去年のシーズン終盤は水沼や柿谷/田中が内側に入ることで枚数を増やして点を取れていたし、今年のホーム浦和戦や横浜F・M戦では曖昧な位置に立った都倉、奥埜が絶妙なゴールを奪えていた。結果論でしかないが、今節に限れば前者の方が機能したかもしれない。

とは言え終わった試合は取り返せない。できることは前を向くだけである。シーズン終了までは8試合残っており、しかもガンバには川崎との大一番が残っている。名古屋は得失点差では有利な立場にいるが、1試合消化が多い。

とポジティブな要素を上げたものの、セレッソに立ちはだかる壁も解任ブースト清水、復調&川崎撃破の札幌、運動量豊富な広島、明確なコンセプトを持った監督が率いる大分/横浜FC/鳥栖、オルンガ擁する柏、大の苦手な鹿島とどれも一筋縄ではいかないはず。だが、ダービーで演じた好ゲームを継続できれば、どの相手にも勝てるはず。今年のセレッソはそれくらい安定して強い。

さて、残り試合でミッドウィーク開催は2つだけ。シーズンが中断したときはどうなるかと思ったが、ついにゴールが目に見えるところまで来ている。そんな中、札幌、柏、セレッソにコロナ発症者が出たが、ここまでほとんどコロナを出さずに来たJリーグの取り組みは本当に素晴らしい。感染者が早く回復することを祈りつつ、この過酷なリーグでラストスパートをかけるセレッソ、そして天皇杯で川崎にリベンジを果たすセレッソをこの目で見たい。繰り返しになるが、今年のセレッソはそれくらい安定して強い。

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