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名前をつけてやる

スピッツの曲に、「名前をつけてやる」という曲がある。スピッツの曲の中でも特に好きな曲。ちょっと投げやりな(?)歌い方もいいし、何より歌詞がいい。

名前をつけてやる 本気で考えちゃった
誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな

スピッツ 「名前をつけてやる」

名前をつけるというのは、同じように見える世界の中から特別な何かを切りだして、「それ」をちゃんと呼べるようにする行為である。名前は、名づけたものと、名づけられたもの、どちらか一方に所有されるようなものではなく、両者の間に存在する。

学部時代、社会学の授業で、「千と千尋の神隠し」を見せられた。
教授は一通り映像を流したあと、「湯婆婆は現代の資本主義を象徴している」と言った。
湯婆婆はやってきた者の「名前」を奪うことで、人格のない労働力として迎え入れる。
「千尋」は「千」になって、湯屋で働かされる。自分の名前を忘れると、元の世界には戻れない。

教授の解釈が正しいかどうかはわからないが、社会に出る前の二十歳そこらの学生が受ける授業で、わざわざそれを説明していた教授の思いをたまに考える。

名づけるという行為はある意味呪術的な行為だ。世界のなかに独自の秩序を注入することで、意味づけを行なっている。名前は呪術性を帯びる。だからこそ「名前を書けば死ぬノート」や「名前を言ってはいけないあの人」というファンタジーが成立する。例え名前以外の別のもので個人を同定できたとしても、「マイナンバーを書けば死ぬノート」や「社名と役職を言ってはいけないあの人」では成り立たないのだ。

何かに名前をつけるときは本気で考えたい。
まだ名づけられていないものと出会い、それに対応する言葉を選び取る行為は、何ともスリリングで、可能性に満ちている。

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