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夏をおわらせる方法{web版・日日の灯 2023.08.31}



ホームランを打っている高校生
「狂気の女の子は映像の土地を見つけました」

[HASAMI group - Summer]



遠い昔の夏祭りで手首につけて走っていた、蛍光色の光る輪っかがコンビニに売っていて、ひさしぶりに着けると思ったより繊細で良かった。これは夏の化石。時間によって図らずもゆっくりゆっくり押し出されていくわたしたちが現実をかき分けていくとそういう、ある年齢を超えた人間みんなで共有されるメガ・集合記憶の銀行みたいなものがあって、そういう蓄積の中で突如、価値を持って輝きはじめるアイテムやシチュエーションがある。いま話したケミカルライトもそのうちの一つで、細長い棒をパキッと折ったらじわじわ光って黄緑色やピンクになる。腕に巻けばブレスレットになるし、数珠繋ぎにして首から下げたらけっこう目立つ。だから小学生はこれが好き。そしてそれから誕生日をたくさん迎えると、そういう安っぽい断片にもう届かない位置に来る。たとえば祭りの日に一人で夜の公園へ向かうときの心細い感じを努力すればすこしだけ思い出せるかもしれないけど、既にその汗っぽい心象はそれなりに美しい人生のディティールとして時間の中から取り出されて標本になっている。記憶は何度もヘビーローテーションする。磨かれていって、どんどん光りやすいものになる。そういう光がインターネットにあふれていて、過去へ行けば行くほどまぶしい。この文章は日記だから、ほんとうに結論が何もない。言いたいこともない。でもとにかくその光るブレスレットを見て夏の終わりの気配を感じている。いま確実に差し迫っている夏という劇場の死についてすこし、考える。今年の夏はもうすぐ終わるし、さっきからもうずっと終わりつづけている。そしておそらくこれまで自分が身を置いてきたその都度の現在地は、いつも何かがゆっくり終わろうとするただなかにあって、終わった瞬間ぽいと放り出されてまた別の終わりへの滑走空間に立っている。そんな気がしつづけている。それでもじぶんの身体はじぶんがいるどこにでも持っていける、ありがたいのかありがたくないのかわからないけど。腕の先でケミカルライトが光っている。本物の光。とはいえ5時間が経てば消えてなくなる火。それもまあ、季語だよねと隣でだれかが言う。夏にあるものがぜんぶ夏の季語だとしたら、目に映るものが余すことなく季節に回収されて終わっていくのだとしたら、だれかが夏にとどめを刺す必要があって、わたしたちにはそれができない。


web版・日日の灯 2023.08.31
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このweb版不定期連載では、{日日の灯}を発行しているのもとしゅうへいが生活のなかで起こったことを短く書きます。生活のメモです。




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夏の思い出

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