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交通規制


導水管みたいなソーシャルネットワーキングサービスを通って、あちらこちらで汚い噴水があがる。今朝は曇り空で、いつ雨が降ってもおかしくないように見えたんだ。自走式のゴミ収集トラックがのろのろ走る。ここではパーティは毎夜行われるんだ。異なった棟の別の部屋でね。一体みんな何をそんなに忙しくしているんだろう? 何かを投げ打ってまで言うべきことや必要なものがあっただろうか? 彼らは間違った場所で間違ったことをしているように思えた。ここでは僕だけが退屈だ。だから僕は君に手紙を書くことにした。どうか君が本当に望むもののためにこの街を歩いてくれると嬉しいのだけれど。














展望デッキからは東京を一望することができた。舗装された道路を行き交う自動車の群集が、はるか下に極小の粒となってあわただしい移動を繰り返していた。車体はまるでコガネムシやゾウムシあるいはテントウムシといった甲虫の質感と色彩であるように艶やかな光をはね返し、厳格な交通規則のもとに統制されていた。ある者は右へ、またある者は左へと一定の流れを生み、列に並び、途切れることなく地平線の彼方まで続いていた。西日を受け黒光りする車体がビルの向こう側に回り込んで見えなくなり、その奥から別の個体が顔を出してこちらに向かってくる。虫たちは自分の巣穴に帰るのに忙しいらしかった。誰一人として立ち止まっている者はいなかったし、行く先を見失っている者もいないようだった。太陽ですら地平線の向こう側へ帰るところであるらしかった。遠くに国立競技場の明かりがかすかに見えていた。


詩集『南緯三十四度二十一分』収録作

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