【2024年10月第1週】パウエル議長の発言と日銀短観を読み解く
9月は市場のアノマリーにより、株価が下がりやすい月でした。特にFOMCや自民党総裁選など、多くのマーケットイベントが重なり、ボラティリティが高まっていたと思われます。まだ9月最終日の取引が月曜日に残っており、先日の総裁選で選ばれた石破新総裁の影響が反映される日になるでしょう。今回は10月第1週、来週のマーケットイベントや重要な経済指標について見ていきたいと思います。
時間がない人向け
要人発言
🇺🇸9/30 (月) パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長、発言
月曜日には、石破新総裁の就任を受けた市場の動きに加え、FRB議長ジェローム・パウエル氏の発言が予定されています。パウエル議長にとって、先日のFOMCで0.5%の政策金利(FFレート)引き下げが決定されて以来、初めての会見となります。
FOMC決定後から本日までに発表された主要な経済指標の一つに、FRBが注目するPCE(個人消費支出)があります。最新のPCEデータでは、ヘッドラインインフレ率が2.1%(前回から0.1%上昇)、コアインフレ率が2.7%(前回と同じ水準)となりました。ヘッドラインインフレの低下は短期的なインフレ圧力の緩和を示していますが、コアインフレが依然として高止まりしているため、インフレリスクは引き続き存在すると見られます。経済政策がインフレ率に反映されるまでにはタイムラグがありますが、これらの経済指標を踏まえて、今後の金利引き下げのペースや金融政策の方向性が議論されることになるでしょう。
特に注目されるのは、FRB内での意見の対立です。金利を下げることは経済を刺激する一方で、インフレ率を上昇させるリスクもあります。FRB内では、インフレ率に対する見解が投票権を持つ主要なメンバー間でも分かれています。ウォラー理事は「労働市場のデータが悪化する場合や、インフレデータが予想以上に軟化し続ける場合、より速いペースで利下げする可能性がある」と述べており、インフレ率のさらなる軟化も視野に入れています。一方、ボウマン理事は「インフレが思ったより軟化しているが、0.5%の利下げは市場に『インフレを完全に抑制できた』という誤った見通しを与える可能性がある」とし、0.5%の利下げに反対票を投じました。
いずれにせよ、注目されるのはインフレです。2020年のコロナショック以降、米国は大量の金融緩和を行い、2022年6月にはインフレ率が9%に達しました。それ以降、急激な利上げでインフレを抑制してきました。現在、CPI(消費者物価指数)は2.6%、PCEは2.2%となっています。これらの数字をインフレが落ち着いたと捉えるか、まだリスクがあると考えるかによって、今後の金融政策の舵取りが大きく変わると考えられます。
経済指標
🇯🇵10/1 (火) 7-9月期日銀短観・四半期大企業製造業業況判断
日銀短観とは製造業に従事する大企業の経営状況や業績見通しについての意見を収集・分析したものです。この調査は、日本経済の現状や将来の見通しを把握するために、全国の大企業を対象に行われます。公表予定の9月日銀短観における大企業製造業の業況判断DI(業況判断指数)は、外需の低迷や自然災害、円高の進行といった複合的な要因により、前回調査からやや低下する見込みです。
まず、中国経済の減速が輸出需要に影響を与えており、特に中国向けの「繊維」や「紙・パルプ」などの素材品目において業況判断DIの悪化が見込まれます。加えて、7月上旬にはドル円が161円まで上昇したことにより、輸入コストの増加がタイムラグを伴って企業収益に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、輸入原材料に依存する製造業では、コスト増加が利益率の低下を招く懸念があります。
2024年7-9月期には、台風や地震といった自然災害が製造業の業況に直接的な影響を与えています。特に、台風10号による工場の稼働停止や、8月8日に宮崎県を中心に発生した最大震度6弱の地震は、生産体制の一時的な停止や工期の遅延を引き起こし、業況判断DIに悪影響を与えると考えられます。
これらの自然災害は、短期的な業績悪化を招く一方で、長期的な生産体制の見直しやリスク管理の強化を促す契機ともなり得ます。自動車産業においては生産体制の正常化が進んでおり、「自動車」やその関連業種である「鉄鋼」「非鉄金属」などの業況判断DIは底堅く推移する見込みです。エコカー補助金などの政策的支援策が功を奏し、需要の回復が期待される分野では、業況判断DIの改善が見込まれます。
🇺🇸10/3 (木) ISMサービス業景気指数
ISM関連の景況指数も発表される予定です。この指数は、米国の非製造業セクターにおける景況感を示す重要な経済指標で、供給管理協会(ISM)が全米の375社の企業購買担当役員を対象に実施するアンケート調査に基づいて作成されます。特にサービス業は米国経済の約8割を占めており、この指数は経済全体の動向を知るうえで重要な指標です。
ISM景況指数が50を上回ると景気の拡大、50を下回ると縮小を示します。そのため、指数が50を超えるかどうかが重要な焦点となります。6月のISM非製造業景況指数は48.8と、50を下回り景気の縮小を示していました。しかし、7月には51.4と50を上回り、景気が拡大に転じたことが明らかになりました。今月も予想では51.5とわずかながら上昇が見込まれており、非製造業セクターの回復基調が続いていることが伺えます。
個人的に気になる点は在庫の増加です。6月から7月にかけて、在庫指数は42.9から49.8へと大幅に上昇し、さらに8月には52.9に達する見込みです。在庫の急増は短期的には景気拡大の一部と捉えられる一方で、長期的には需給バランスの不均衡を引き起こし、企業の収益性や投資意欲に影響を与える可能性があります。
在庫の増加が持続的なものとなる場合、企業は在庫調整のために生産や雇用を抑制する動きを見せる可能性があり、これが経済成長の鈍化につながるリスクがあります。また、供給チェーンの混乱や原材料価格の変動も、在庫管理に影響を与える要因として考えられます。
🇺🇸10/4 (金) 非農業部門雇用者数(NFP)と失業率
非農業部門雇用者数(NFP)のデータは、米国経済の労働市場の健全性を測る重要な指標として注目されています。前回の発表では14.2万人の増加が報告されましたが、今回の予想では14.0万人とやや減少が見込まれています。この下方修正は、NFPがこれまで何度も下方修正されていることを考慮すると、労働市場の成長ペースが鈍化していることを示唆しています。
失業率に関しては、前回の4.2%から予想でも4.2%と据え置かれています。FRBが予想している失業率の上限である4.5%を下回る4.2%の失業率が維持されることは、現在の利下げペースが支持される要因となっています。もしこれらが維持されず、NFPの下方修正も相まって、予想より高い失業率になっている場合には、FRBのウォラー理事の言うように利下げのペースを拡大する可能性もあります。