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SF映画小説『Summer Time 雨に消えた男』Vol.4/


赤い巨大なアメーバが激しく動いている。
それはまるで飲み込んだばかりの生き物がお腹の中で暴れているようだ。
しかし動きは大人しくなり、一つの巨大なかたまりとしてゆっくりと動き出す。

<夏美の家>

家の中を、ゆっくりと見て回る恭二。何もかもが、なつかしい。

夏美は、恭二の後ろについていき、彼の背中、足元などをじっと見つめる。本当に恭二だ。本物だ。それは疑いようが無い。でも、何故、いま・・・?

恭二「(振り返って、寂しい微笑み)模様替えしたんだね」

夏美「あれから10年も経ったんだもの」

恭二「10年か」

夏美「あの飛行機には乗っていなかったの?」

恭二「飛行機?・・(思い出して)そう、ザルツブルク音楽祭に向かう飛行機だ」

夏美「そうよ。墜落したって」

恭二「墜落?」

夏美「ニュースで恭二さんや、マジカルみんなの名前が・・あれから大変だった・・あなたのこと忘れたことなかったし、絶対帰って来るって、信じていたけど、いくら待ってもあなたは帰ってこなかった」

恭二「僕も、夏美のことを考えなかった日は無い」

夏美「だったら、どうして? なんで今になって!?」

恭二「あれは、墜落じゃない」

夏美「墜落じゃない? どういうこと?」

恭二「僕らの飛行機は、突然光に包まれた」

夏美「?」

恭二「僕らは何ものかによって、どこかに連れて行かれたらしい。そこで何かをされた」

夏美「何かって?」

恭二「みんな一緒にされた」

夏美「みんな?」

恭二「マジカルの連中も、みんな一つにさせられたんだ」

夏美「ちょっと待って、何を言ってるのか分からない・・記憶喪失?」

恭二「それとは違う。おぼろげな記憶はあるんだ」

夏美「どこかの国に拉致されたってこと?」

恭二「いや、この世界じゃないどこかだ。時間も無いような」

夏美「そう言えば・・恭二さん、全然年とってない・・10年前のままよ、そのまま」

恭二「あれは、決して悪い感じでは無かった。むしろ落ち着いていて、安心できた。天国と言うものがあるなら、ああいうものなんじゃないかと思う」

夏美「天国? じゃあ、あなたは・・(本気では無く)幽霊だってこと?」

恭二「いや。生きているという実感はある。そして僕は、君のことを思い出した。もう一度君に会いたい、その思いだけで、ここにやってくることが出来た。気が付いたら、この地に立っていたんだ」

夏美「恭二さん」

二人の距離は、縮まっていた。触れられるほどに。

恭二「そう、その名前は僕のものだ。君との想い出も僕と君だけのものだ」
と、夏美の髪に手を触れた。
「君のおかげで、僕は、僕に戻ることが出来たんだ」

恭二の手の感触は変わらない。覚えているわ・・・

夏美「私のおかげ?」

恭二「あの時、僕だけが君と一緒だった」
 ×   ×   ×   
<フラッシュ>
10年前。恭二はここで、夏美の髪を切り、それを大事にそうに、胸ポケットにしまった。
髪は、ずっと一緒に持っている・・・その髪の毛が?

 ×   ×   ×   
恭二「でも、僕が戻ってきたら、皆も付いてきてしまった」

夏美「皆って・・マジカルのって意味?」

恭二「君を襲ったヤツがいるだろう。あれはビオラの吉岡だったんだよ」

夏美「襲ったって・・(アメーバを思い出す)アレ? アレが、吉岡君?」

恭二「ヤツは、秘かに君のことが、好きだったんだ」

夏美「名前・・・呼ばれたわ・・・吉岡君・・あの声は・・・」 

そう言えば、吉岡君の声だったかも知れない。

恭二「吉岡は死んだ。僕が、殺した・・・そうせざるを得なかった。夏美を取り込もうとしていたから。もう、殆ど、吉岡では無くなっていたから、殺した、というのは、正確では無い」

夏美「何が何だか、分からないわ・・貴方は本当にここにいる・・でも、10年、経ってるのよ」

恭二は、答えられず、思いあまって、夏美を抱きしめた。
驚いた夏美、瞬間的に感触を思い出した。これは、本当に恭二だ。恭二さん・・と、抱き返す夏美、感情がこみ上げる。涙が溢れてくる。

夏美「恭二さん・・帰って来てくれたのね・・・約束、守ってくれたのね」

恭二「僕は君を守るために闘う」

夏美「闘う?」

そっと夏美から離れる恭二。

恭二「一緒に住んでる彼、イイヤツなんだろ?」

夏美「え?・・・崇のこと?」

恭二「タカシと言うのか」

夏美「サックスプレイヤーなの。年下よ」

恭二「この間、店の外で聞かせてもらったよ。いい演奏だった。夏美がジャズをやるなんて驚いたが・・・でも、素敵だ。前とは違うけれど、新しい夏美が聴けたのは、嬉しいことだ」

夏美「・・・」

恭二「幸せになってくれ」
と、ベランダに出て行く。

夏美「恭二さん?」
と、追いかけようとすると、恭二の姿がカーテンで見えなくなる。

夏美がベランダに出ると、恭二の姿は無い。
夏美「恭二さん!」
と、ベランダの下を見てもやはり何も無い。

混乱の中で、夏美の目から、涙がこぼれて流れた。

<夏美の家の近く>

物陰で、野良猫が何かに脅えている。

落ちていた恭二の衣服が、ムクムクと盛り上がって、ヒトの形になっていく。

猫はさらに怯え、逃げようとしているが・・・

少し皮膚が透明な恭二が立っている。
恭二、野良猫にそっと近づいて、優しく撫でた。

猫は、安心したようだった。害を与える人では無い・・・

<湾岸警察署・取り調べ室>(夜)

時計は夜の8時過ぎを示している。

の話を、丁寧に聞いて、調所を取っているやまさん

崇「あの・・・もうそろそろ帰りたいんですけど。仕事の準備もしなくちゃいけませんし」

やまさん「確認作業が終わり次第、お宅までお送りしますから」

崇「・・・」 これは、俺を帰さないつもりだな・・・

<夏美の家・玄関>(夜)

インターフォンの前に黒川周平夢乃が立っている。

黒川「ここから通報があったんだな」

周平「はい。夢乃ちゃんが警察で会った人の顔を見せてもらって、思い出しました」

夢乃「あの奇麗な人がここの人? あの人と会ったら、変なことが起きたのよ」

インターフォンから夏美の声「はい」

周平、インターフォンのカメラに向かって、自分の顔を見せて、「こんばんは。夜分にすいません。私のことを覚えてますか?」

<夏美の家・リビングルーム>(夜)

黒川は、探偵事務所の名刺を夏美に見せて、一通り説明をしたが、理解されたとは思っていない。

その脇に、周平、夢乃が立っている。

夢乃は、怖いものでも見るように夏美を見ている。

夏美は、「液体人間?」と、黒川に聞き返した。

黒川「私たちは、そう呼んでいます」

夏美「(周平に)あなたは、確か、あの時は保健所の外郭団体の方だと・・?」

周平「もっと正確に言うと、”超自然現象”を研究するために作られた団体だったのがぁ──」

黒川、周平が馬脚を現さないうちに遮って、「不思議な現象を調べているんです」と言った。

夏美は二人の奇妙な言葉を納得出来たわけでは無かったが、今、身の回りに起きていること自体、不思議であり、奇怪であり、納得出来ないから「あなた方なら分かるんでしょうか? 一体何が私のまわりに起きているのか?」と、聞くしか無かった。

黒川「あの液体人間以外にも、何かあったんですね」

夏美は、返事を暫く、ためらったが「・・はい・・」と、重く答えた。

<湾岸警察・捜査二課>(夜)

古いマジカル・クインテットのコンサートのチラシと、失踪人の資料を見比べていた野田栗原に、
野田「なあ、同じような事件が他でも起きているかもな」

栗原「他と申しますと?」

野田「飛行機に乗っていたのは、日本人ばかりじゃないだろ?」

栗原「もちろんそうですよね」

野田「だったら、日本以外でも、似たような事が起きてるんじゃないかな」

<バス通り>(夜)

路線バスが、走って来て停留所に止まり、お客を乗せる。

降りる客はいなかったので、後部ドアは開かない。が、そこへ、 排水溝から這い上がって来た赤いアメーバ=液体人間が、スルスルっと、後部ドアの隙間に入りこんでゆく。

バスは、発車した。

<路線バスの中>(夜)

居眠りをしたり、オーディオプレイヤーを聞いたり、思い思いに過ごしている乗客たち、座席は埋まり、数人が立っている。
後部ドアのステップのところから、赤い液体人間が這い上がり、床を移動しようとしている。

<夏美の家・リビング>(夜)

夏美の話を聞いた黒川は、推理して語った。
「おそらく、行方不明になっていた彼氏と液体人間との間には、密接な関係があると思います」

夏美「恭二さんが話していたみんなって……」

黒川「何者かに”体の構造を変えられた”と、話していたんですよね。それが液体人間のことなんじゃないでしょうか。飛行機事故の犠牲者が、液体人間にされた、ということでは」

夏美「そんな、人間を液体にするなんて、誰に出来るんです?」

黒川「それは、私たちにも分かりません……多分、それを探すのが、私たちに与えられた使命らしいんです」

「使命」という言葉に驚いた周平と夢乃、黒川を見た。
周平「使命?」・・・そんな言葉は初めて聞いた。
「液体人間を作った奴らを探すのが、ですか?」 
急に言われても、意味が分からない。

黒川「僕らの能力の理由だ」

夏美「人間を液体にするなんて・・・ひどい!」

夢乃「(ハッと思いつく)恭二さんも液体人間にされて・・?」

夏美「違うわ!」

夢乃「あ・・すいません・・わたしが言いたかったのは・・」

黒川「何らかの理由で、彼だけが人間の形にもどることが出来た、という事なんじゃないだろうか」

夏美は、必死で考えた。「・・・」

周平は黒川に「どんな理由?」と、突っ込んだ。

夏美「・・・」 髪の毛のことを思い出していた。言ってみるか・・・

<路線バスの中>(夜)

バスの天井からつり革を伝わり、赤い液体人間が男性客に取り憑いた。
男性客「なんだこれ?」

その男性客、あっという間に全身を、赤いアメーバ状の液体人間に覆われるが、隣りの女性客はイヤホンをしているので、男性客がもがいて、時々女性客にぶつかっても、不愉快そうにして、その異常事態には気付かない。

男性客は、まるで溶けるように、液体人間に吸収されてしまい、顔まで赤い液体に覆い尽くされる。

女性客「ねえ、オジサンちょっとぉ」
と、隣りの男性客に文句を言おうとすると、そこには衣服を着た液体人間が立っていた。

女性客「きゃーっ!」

赤い液体人間、悲鳴をあげている隣りの女性客に、頭から覆いかぶさり、男性客の衣服は、抜け殻となって、床に落ちた。

「なんだ?」と思って振り返った他の乗客の背後から、同じ赤色だが、別個の液体人間が、床から忍び寄る。

ミラーで車内を気にしている運転手、その頭上にも、貼り付いた液体人間がいて、運転手を覆うように、バシャッ、と落ちて来た。

次々と液体人間に襲われる乗客たち、あちこちで悲鳴があがり、バスもハンドル操作が出来なくなって、蛇行を始めた。

<道路>(夜)

キキーッとブレーキを唸らせ、蛇行運転をしている路線バス。
運転手は、襲われながらも、ハンドルを必死で握り、ブレーキを踏み込んでいる。

しかし、最終的に運転手を失ったバスは、ガードレールを突き破って、歩道に乗り上げ、無様に横転した。

<夏美の家・リビング>(夜)

夏美、黒川、周平、夢乃が話している。

黒川「理由・・・それは、彼が言った通り、夏美さん、あなたですよ」

夏美「私が?」

黒川「彼はあなたの髪を身に付けていた。そのおかげで、彼だけが人の姿に戻ることが出来たんじゃないでしょうか。あなたにはそういう力がある」

夏美「私に、力なんてありません」

黒川「僕には、人の能力を見つける力があるんです。あなたには、大変な能力があると、感じられます」

周平は、頷いた。夢乃も、そういうことなのか?と考えている。

夏美「そんな・・・私は何も出来ない。小さい頃から劣等感のかたまりでした。近くにいる友達は、どんどん勉強ができたりスポーツが出来たりするようになっていくのに、私は何も出来ないで取り残されて・・だから、ピアノは救いだった・・でも、技術は、恭二や崇に比べたら・・・」

黒川「それですよ」

夏美「え?」

黒川「あなたの力は、近くにいる他人の才能を、開花させることだ」

夢乃「(思いつく)ああ、だから」

黒川「今、僕もまさにそれを実感しているんです。あなたと会ってこうやって話しているうちに、僕らは覚醒しているようなのです。あなたと話していると、推理もシャープになって来るのを感じます」

<湾岸警察・捜査二課>(夜)

若い制服警官が飛び込んでくる。

制服警官「警部、湾岸道路でバス事故があって・・」

野田「ここは二課だぞ、二課ってのは失踪人とか詐欺とかだなぁ」

制服警官「はい、ですから」

栗原「何があった?」

制服警官「誰もいないんです」

栗原「誰もいない?」

制服警官「バスが横転したのに、乗客も運転手も誰もいないって言うんです。全員失踪したんです。失踪人捜査は、こちらでしょう?」

野田「!」

<夏美の家・リビング>(夜)

黒川、突然耳を塞いだ。

夢乃「?、どうしたの?」

黒川「視力ばかりか、聴力も増しているようだ」

コップの水を睨み付けている周平に、
黒川「寺さん、テレビを付けてくれないか」

周平「え?」

黒川「近所のテレビの音が聞こえた。この近くで事件があったらしい」

周平、夏美に教えてもらい、テレビのスイッチを入れる。

黒川「選択的に、重要なことが聞こえて来るようだ」

<中継映像>(ニュース画面)

路線バスが歩道に乗り上げて横転している。

レポーターが非常線の前で中継をしている。
「都心の住宅街で、不可解な事件が起こりました。今から一時間ほど前、私の背後にある路線バスが、歩道に乗り上げて横転しました。しかしそのバスには運転手も乗客も乗っていなかったのです」

インタビューされる目撃者。
「突然さあ、大きな音がして、振り返ったらバスがあんなんなっててさあ。怪我人がいるかも知れないと思って中覗いたら、誰もいねえんだよ。どうなってんだ?」

カメラが映し出したバスの運転席には、運転手の制服と帽子が、ハンドルにかかっている。

<バスの事故現場>(夜)

まだ警察の捜査は続いている。

少し離れた場所に黒川、周平、夢乃、そして夏美がやって来ていた。

周平「(黒川に)クロさん、何か分かる?」

黒川「警察は何もつかめていないようだ。バスの中には運転手を含めて、三十人はいたらしい。三十人分の衣服や遺留品があるそうだ」

周平「それ、全部、向こう(捜査側)から、聞こえちゃってるってこと?」

黒川「調書も読んだ」
遠くの警官が調書を取っている。
周平「すげえ!、どうやって読むんですか」

黒川は夏美を見る。夏美は、戸惑いの表情を浮かべるしか無い。

黒川「夢乃ちゃんは何か分かる?」

夢乃「えーっ、私はパワーアップしたくないんだけどなあ。それに私の場合、触ったりしないとダメだし」

周平、足下に落ちているミラー片を拾って、
「これ、あのバスの破片だと思うんだけど、これじゃダメかな」
と夢乃にミラー片を手渡す。

夢乃「こんなんじゃ──」
と言いかけて、夏美と目が合う。
「!」

<夢乃のイメージ>

夢乃の掌のミラー片は時間を遡り、バスのフロントミラーの一部に戻る。
イメージは今までのものより鮮明になっている。

ミラーは、バス内のパニックを、全て映し出していた。

フラッシュバックが連続して、ブラックアウト。

<バスの事故現場>(夜)

夢乃は、ガラス片を握りしめて「どんどん仲間を増やそうとしている」と、呟いた。

<湾岸警察・取り調べ室>(夜)

出入り口を塞ぐように制服警官が一人立っている。

まだ一人待たされている崇は、その警官に、
「あのぅ‥‥誰もいなくなっちゃったみたいなんだけど、まだ帰れないんでしょうか?」と、聞くと、

制服警官「はい。まだ許可が下りていないんです」

崇「えーっ、刑事さんたちどこ行っちゃったの?」

崇がふと天井を見上げると、ダクトの隙間から青い液体人間が制服警官の頭上に垂れてきているので、驚き恐れつつ、
崇は、「!?‥‥あのぅ、それ」と、注意したが、

制服警官「は?」

青い液体人間の一部が離れ、制服警官の耳の穴にスッと入った。

すると、制服警官「!」
となり、目つきが変わって、数秒の間を置いて、
「もう帰っていいよ」と、言った。

崇「え?」

制服警官「君が、何もやっていないのは分かっているんだから」

崇「は、はい・・それでは・・・」

制服警官「そうだ。店の外で聞いただけだが、君のサックスはとても良いね」

崇「は?・・・それは、ど、どうも」

制服警官「最後に、もう一回聴きたいな」

崇「?」 どういうことだ、この警官は何考えてる。さっきの青いアメーバ・・・頭上を見ると、天井に貼り付いて、蠢いている。

制服警官「さあ、行きなさい」
と扉を開ける。

不思議に思いながらも出て行く崇。

崇が部屋から出ると、制服警官の耳から青いドロッとしたものが流れ出て、それが天上から垂れ下がった母体に飛びつき、合体してダクトに消えて行った。

フワッと、床に倒れる制服警官。

<下水道の中>(夜)

赤い巨大なアメーバが激しく動き、暗い下水の中、自ら発光して見えている。
まるで飲み込んだばかりの生き物が、お腹の中で暴れているようだ。
しかし動きは次第に大人しくなり、一つの巨大なかたまりとしてゆっくりと動き出す。

<移動する黒川の車>(夜)

小さなバンが走っている──運転しているのは黒川で、夏美、周平、夢乃が乗っている。
夢乃には、何かが見えたようで、「一つになった」と呟いた。

周平「これまでは、恋人や友人を、飲み込んでいただけだったのに」

黒川「複数の意識が一緒になっていくうちに、個性が失われていくのかもしれない」

周平「人類全てを飲み込むつもり?」

黒川「増殖を続けていけば、いずれ」

夏美、焦って「恭二さんは違うのでしょう?」と聞いた。

黒川「彼は、君を守る、と言ったんだね」

夏美は、黒川を見つめ、深く頷いた。

<道路>(深夜)

目立たないビルの、暗い駐車場入り口に、黒川のバンが入ってゆく。

< 本部>

広いフロアに、大型コンピューターが何台も並んで、稼働しており、十人程度の人間が、淡々と働いている。

その一角に座って待っている風情の黒川、周平、夢乃、夏美。
黒川以外は、驚いて周囲を見回している。

周平「本部って、こんなになってたんですか」

黒川「いや、俺もこんなになってからは初めてだ。十年ぶりぐらいだから」

夢乃「ちゃんとした組織だったんですね〜」

黒川「俺たちを、何だと思ってたの」

夢乃「だって、事務所、ボロいじゃん」

黒川「ウチには、予算くれないからさ」

そこへ、奥からやって来る天本は、長身の痩せた白髪頭で、白髪を横に流しているが、目つきは鋭い。が、穏やかな口調で、
「年取ったな、黒さん」と、声をかけた。

黒川「天本さんだって、額上がってるじゃないですか」

天本「(夏美を見て)この人が?」

黒川「ついに見つけましたよ」

天本「(夏美に)ご協力、感謝します」

夏美「は?……私は何も」

天本「まだ不可解な事が多いと思いますが、人類の未来がかかっていますので、よろしくお願いします」

夏美「あの、私は、まだ何も」

黒川「ちょっと、急すぎだよ、そんなふうに言うのは」

天本「失礼しました。責任者として、言わざるを得ないもので。事情は、ご理解致します」

夏美「・・・」

周平「黒さん、俺たちの事も紹介してよ」

天本「知ってますよ。パイロキネシスの寺塚周平さん」

周平「パ?」

天本「エスパーの小林夢乃さん」

夢乃「エスパーなんですか?、私」

天本「皆さんは、数万年に渡る人類と奴らとの戦いに選ばれた戦士・・なのではないか、と我々は考えています」

周平「奴らって、誰です」

天本「分かりません」

周平「!・・ガクっ・・・ですね、本部でも分かってないのか」

夏美「恭二さんたちをさらって、身体を改造した奴ら・・・」

天本「憎むべき敵です」

夏美「なんで恭二さんを・・?」

天本「多分、もともとの狙いは、あなただった」

夏美「え?」

黒川「そうか・・飛行機に、あなたは、乗らなかったから」

夏美「・・・」

周平「敵って、結構、おおざっぱなんすかね」

天本「我々とは、思考の次元が、違うんです」

その時、夏美の携帯が鳴る。
ディスプレイは「崇」だ。それを取った夏美、
「崇? どこにいるの?」

<ジャズバーの中>

階段を急いで下りてくる夏美。その後ろから、哲雄、周平、夢乃。
四人は、本部からバンに乗って、このジャズバーにやって来たのだ。

ステージの上には、が、楽器を用意して待っている。

夏美「どうしたって言うの?」

崇「頼まれたんだよ」

夏美「頼まれたって?」

崇「うん。彼にね」
と崇が指す方に恭二が立っていた。

夏美「恭二さん!」

恭二は、夏美に微笑んだ。

恭二「わがままを言わせてもらったんだ」

周平「(恭二を見て)あれが噂の……」

夢乃「液体人間?」

崇「夏美も呼んで演奏しようって。俺も、井坂恭二といっしょにやれるなら面白いと思ってね。言われた通りに、バイオリンも用意した」

恭二「いいだろ?夏美」

夏美「・・・」

黒川、周平、夢乃ら、所在なげに佇んでいる。
「あなたが井坂恭二さんですね」と、黒川は聞いた。

恭二「はい」

黒川「あなたの経験した事を、調べたいのです」

恭二「調べるより、行動した方がいいと思いませんか」

黒川「行動?」

恭二「私に残された時間は、あと僅かなんです」

<下水道・中>(夜)

蠢いている赤い液体人間、這い上がってゆく。

<マンホール・上>(夜)

蓋を押し開けて、ドロドロ地表に広がってゆく赤い液体人間。

振り返って驚く通行人を、アッという間に飲み込んで同化した。

湾岸ライブ会場からの歓声が聞こえて来る・・・

<湾岸ライブ会場>(夜)

1万人の観衆が、アイドルの歌声に、歓声を上げている。

<もとのマンホール近く>(夜)

液体人間、その歓声を感じて、ライブ会場に向かって動き出す。

<ジャズバー>(夜)

演奏を始める崇と夏美。
「サマータイム」だ・・・
最初、恭二は演奏に加わらずに、カウントを取っているだけ。

夏美もまだ、良くは納得できずに、ピアノを演奏する。

客は黒川、周平、夢乃の3人だけである。

崇のサックスソロが入ると、夏美にも笑顔が生まれた。
それを見て恭二も、ようやくバイオリンを弾き出す。

哲雄たちも「イイ感じだね」の顔。

<湾岸ライブ会場近くの道>(夜)

ライブ会場に向かっていた液体人間がふと止まり、方向を変えて動き始める。何か、聞こえたのであろうか・・・
もとのマンホールに入ってゆく液体人間。

・・・to be continued.

(投げ銭チャリンの方には、次のワンシーンをシナリオ形式で。次回最終回となります)


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